3-118 世界の壁第二隔壁
―1―
巨大ムカデが水の中へと消えていく。ちょ、素材、素材。
――《魔法糸》――
魔法糸を巨大ムカデへと飛ばす。よっし、くっついた。引っ張り上げるぞ! って、ちょ、重い、俺の方が引き摺られるぞ、落ちる、落ちる。
「手伝うんだぜ」
「僕もいるぞ!」
キョウのおっちゃんとジョアンも魔法糸を持つ。あ、じゃあ、粘着は消しておかないと危ないよね。
――《魔法糸》――
もう一個魔法糸を飛ばし、糸と糸を絡め巨大ムカデの死体に結びつける。よし、これで2人が持っても安心だぜ!
3人で協力して巨大ムカデを引っ張る。重い、重い。3人でも重いのかよ!
「仕方ないですね」
14型が俺たちが引っ張っている糸を片手で掴む。そして、そのまま引っ張り上げる。ちょ、力強いですね。
「まったく、この程度も出来ないとは……ホント、私が居ないと駄目ですね」
あ、はい。とりあえず、引っ張り上げた巨大ムカデは魔法のウェストポーチXLに入れておこう。と、そうだ、入れる前に、まずは魔石を取り出さないと……って、アレ? この巨大ムカデ、魔石がないぞ。
俺とキョウのおっちゃんで色々と捌いてみたいだが、魔石は見つからなかった。うーん、魔石無しで動いていたのか? 何というか、機械的な感じなのかな?
魔石がないことを確認したので巨大ムカデの死体を魔法のウェストポーチXLにしまう。ああ、色々ぐさぐさ刺して調べたから、売却金額が落ちそうだ。
……。
金、金、金、恥ずかしいね。うん、お金のコトを考えるのは止めにしよう。
ボスを倒したからか奥の壁が大きな音を立てて開き始める。お、なるほど、奥が開くのか。でも、今回も隠し扉みたいな線が見えなかったな。うーん、何か法則があるのかな。まぁ、この力も叡智のモノクルが表示しているモノだし、それと同じ作成者であろう迷宮だと何か阻害する力でも働くのかもしれないなぁ。
とりあえず、せっかくだから、開いた壁の先へ進もう。
―2―
壁の中はそこそこの広さがある部屋になっていた。奥側へ長い長方形の部屋だな。入ってすぐの場所に光り輝く豪華な金属の箱がある。そして、そのすぐ後ろに台座と同じ転送用の円が地面に描かれていた。
うーん、コレ、世界樹の迷宮にあった、中間地点と同じじゃないか?
『箱だな』
「箱なんだぜ」
「箱だ!」
俺たちの言葉を聞いて、14型は、こめかみに手を当て、ため息を吐く。何なんですか、その態度! 失礼しちゃうなぁ。
上の真ん中部分に取っ手の付いた平べったい蓋の付いた金属の箱。結構、大きな箱だ。うん、この宝箱、気になるよね。これで盾とかが出てくれば、ちょうどジョアンに渡せていいんだけどなぁ。このまま盾無しで進むのは危険だしね。
「俺が調べるんだぜ」
俺も鑑定で調べるんだぜ。
【石化の瞳】
ちょ、危険な単語が見えたんですけど。これ、ヤバイよね、ホント、ヤバイよね。
『キョウ殿、石化の瞳という罠のようだ』
キョウのおっちゃんが頷く。
うーん、さすがにこういう場所にある宝箱だけあって難易度の高い罠があるなぁ。
キョウのおっちゃんの作業が続く。額の汗をぬぐいながらも謎の道具で箱を調べ続ける。うーん、苦戦しているなぁ。にしても、これ、キョウのおっちゃんが居たから良かったけど、俺だけだったら、危険過ぎて開けることが出来なかったよね。居て良かった、キョウのおっちゃん!
「旦那……」
ん? どったの? 開いた?
「ミスったんだぜ、逃げ……」
ちょッ!
――[ウォーターミラー]――
俺はとっさにキョウのおっちゃんと俺たちの前を守るように水鏡を張る。水鏡が箱から漏れた光を反射する。反射した光によって金属の箱の光が消えていく。箱が石へと化していく。ちょ、俺の宝が……。
光が収まる。
はぁ……、死ぬかと思った。これ、俺のファインプレーだよね。とっさにウォーターミラーを使った俺の機転、凄いよね、凄いよね。って、MPがごっそりと削られたんですけど。ウォーターミラーの消費MPって96か……。危うく気絶するところだったじゃないか!
改めて石化した箱を見る。コレ、箱を壊さないと中が取れないよね。うん、仕方ない、壊すか。
俺は真紅で箱を叩き付ける。ガンッ、という大きな音ともに真紅を持った腕に大きな衝撃が走る。ちょ、真紅が跳ね返された。おいおい、どんだけ硬いんだよ。石化するっていうよりも固定化されているって感じだな。うーん、どうする?
「何をしているのですか」
そう言うが早いか14型がゆったりと石化した箱の前まで歩き、箱の取っ手を掴む。そして、そのままばきりと箱を開ける。あ、普通に取れるのね。叩き壊そうとした俺が馬鹿みたいじゃないか!
さ、中身は何だろうな。
中に入っていたのは一降りのナイフだった。って、箱のサイズと中身があってない! にしても、ナイフかぁ。これはキョウのおっちゃんに渡すべきか。でも、その前にとりあえず鑑定しよう。
【水流のナイフ】
【水の魔力を大きく宿したナイフ。簡単ながら水を操る力を持つ】
ほー、マジックアイテムか。水を操るとか面白いよね。ま、でも、キョウのおっちゃんにあげるか。
『キョウ殿、水を操る力を持ったナイフのようだ』
俺はキョウのおっちゃんにナイフを渡す。
「そ、そうなのか。あ、ああ、貰っておくんだぜ」
にしても、コレだけか。他に道はないよなぁ。
「この円が怪しいと思うんだぜ」
あ、それはヤバイ。
『キョウ殿! その円に入らぬように』
「どういうことなんだぜ」
これで終わりのワケがないんだぜ。絶対に世界樹の迷宮と同じような、何かがあると思うんだぜ。
『その円は触れると入り口に戻される罠だ』
「なるほど。これも世界樹の迷宮にあったのと同じなのかだぜ?」
そうなんだぜ。
とりあえずこの部屋を、色々と調べますか。