3-115 世界の壁第二隔壁
―1―
キョウのおっちゃんと二人で螺旋階段を降りていく。水が引いた後だけあって滑りそうだね。気をつけて降りないと。
途中、ジョアン達が居る方向とは別方向に開けたところがあった。ここを進むのが正規ルートなのだろうか?
ただ、開いてはいるけどさ、そこから先へ進む道が無いんだよな。俺みたいに飛翔で飛べるのが前提ってワケじゃないだろうし、これじゃあ、ただの窓だよね。ま、降りていきますか。
開けた部分は1つ、2つ、4つ……。4つ目には向こう岸へと続く道があった。こちらと向こうを結ぶ金属の橋。手すりもない。落ちたら危なそうだね。
えーっと、この塔の上にあったスイッチだと8、7、4だったよね。なるほど、4まで水位を下げて、向こう岸へと渡って、水位を操作して7に戻ってくるとか、そんな感じなんだろうか。いや、でも、これ、水位を上げる意味って何だ? 下げれば進めるなら、どんどん、下げるべきだよな?
ま、どんどん、降りますか。
7番目にも向こう岸へと渡る金属の橋が架けられていた。降りるのが正解だろうし、ま、どんどん降りましょう。
にしても、これ、俺らが上っていた距離の分を降りているワケだよな。はぁ、長いワケだよ。降りるのも疲れるんだってばさ。降り始めて結構な時間になるけどジョアン達は大丈夫だろうか。
そして、底へと到達する。
底部分は塔の頂上と同じような造りになっていた。天井を支えている4本の柱。違うのは周囲が全て壁に覆われているってコトだ。柱には頂上と同じように線とスイッチがある。こちらは1から8まで全部揃っているな。でもさ、ここで一番上を押したら、水がどんどん増えてきて死んじゃうよね。ここにスイッチがある意味ってないよね。なんだコレ。あ、でも周りが壁に覆われているから下から2番目のスイッチまでなら大丈夫なのか?
そして中央に上と同じ台座。それに回転式の巨大なレバー。レバー? レバーだと? 何だろう、コレを回すと外壁の時みたいに何かが開くのか?
とりあえず台座に触れて、上と下で行き来できるようにしておきますか。
またこの距離を上るとか洒落にならないもんね。
『キョウ殿、一度、転送を使うぞ』
「いや、旦那、ちょ、ま」
俺が台座の絵に触れると景色が変わった。
うん、さっきの狭い部屋だな。さすがに今度は襲われないか。じゃ、戻りますか。
狭い密室にある台座の絵に触れると2つの映像が浮かぶ。塔の頂上と一番下の部屋か。じゃ、キョウのおっちゃんが待っている一番下の部屋に行きますか。
―2―
一番下の部屋に戻るとキョウのおっちゃんが腕を組んで待っていた。
「旦那、旦那は何を知っているんだぜ」
いや、何も知らないよ。俺の何を疑っているんだぜ。ああ、そうか、説明してなかったもんね。
『八大迷宮の一つ、世界樹の迷宮にも同じモノがあったのだ。そちらは迷宮の行き来をやりやすくしてくれるモノだったのだが……』
そうなのだ。
「なるほど。確か、旦那はナハンの出身か……分かったんだぜ」
よく分からないけど、分かってくれてよかったんだぜ。
『キョウ殿も試してみるか?』
そうそう、試してみれば分かるよ!
「い、いや、それよりもこのレバーを調べた方がいいと思うんだぜ」
なるほど、一理あるね! まずは気になるレバーを調べよう。
レバーは回転式だな。うん、また奴隷作業か。ぐーるぐーる回す作業が始まるよ。
キョウのおっちゃんと二人で巨大なレバーを回していく。レバーの動きに合わせて歯車のかみ合っていくような大きな音がガリガリと響いていく。うーん、重いレバーだな。これ、普通の人が一人で動かすのを想定していないよね。このサイズといい、やはり迷宮を作ったのは力のある巨人族とかなのかなぁ。
巨大なレバーを回しきると室内の壁の一つが大きな音を立てて開き始めた。更に外の方からも大きな金属音が響いてきた。
この壁の先がゴールかな。この迷宮の造り的にラストぽいよね。
「旦那、まずは上の音を確認した方がいいと思うんだぜ」
開いた先を見ていた俺にキョウのおっちゃんが話しかけてくる。うーん、そっちが先か。じゃあ、ちょっと階段を上がって確認してみますか。これで水が流れ込んできた、なんてなったら死んじゃうしね。
階段を上り、来た道を戻る。2階部分の連結通路に出て上を見る。吹き抜けだからキレイに上まで見えるね。うーん、それでも分からないな。もしかして反対側か? あ、そうだ、転送して上から見ればいいんじゃね?
『キョウ殿、戻るぞ』
「だ、旦那?」
俺はキョウのおっちゃんを連れて来た道を戻る。
『転送する。キョウ殿、台座の近くに』
俺は頭に疑問符を浮かべているキョウのおっちゃんを台座の近くへと呼ぶ。さあ、行くぜ。
俺が台座の絵に触れると風景が変わる。よし、今回もさっきと同じ狭い部屋の中だな。さっきの仕掛けで扉が開くとか、ちょっと期待したんだけど、無かったか。にしても、さっきの地下室では開いた壁部分から線が延びてなかったな。隠し通路の扉とか罠とか線で見えていたのに、何で、あそこは見えなかったんだろう。ここも線が見えないから密室かと思ったんだけど、もしかすると、さっきの地下室みたいに開くのかな。
「だ、旦那、これは何なんだぜ?」
だから、これが転送なんだぜ。
『キョウ殿、台座から離れないように』
次は頂上に戻らないとね。
もう一度台座の絵に触れ、塔の頂上へ。
さあ、どうなっているかな。
「旦那、アレを見るんだぜ」
音の確認の為に、頂上に戻ったのだが、音がしていた理由、その変化は一目瞭然だった。
塔の頂上に元来た入口側へ続く金属の橋が架かっていた。これ、ジョアン達が居る場所に戻れるんじゃね。
よし、さっそく合流しよう。
俺とキョウのおっちゃんが手すりのない金属の橋を渡り戻っていると、向こうから恐る恐る歩いているジョアンと余裕そうな14型が歩いてきた。
これで合流だね。
まぁ、向こう側で水位を確認してくれている人が居ないのは少し不安だけど、台座で転送出来るから大事にはならないでしょ。
「旦那、小僧達も来たみたいだぜ」
うむす。じゃあ、塔の頂上に戻りますか。いやあ、風の吹かない迷宮の中でよかったよ。この橋ってさ、ちょっとでも風が吹いたら下に落ちちゃうよね。怖い、怖い。
ジョアン達と合流し、塔の頂上へ。
「旦那、一度野営をしよう。ここは魔獣も出ないようだから、一度休んだ方がいいと思うんだぜ」
あ、もう、そんな時間か。開いた道の先も気になるけど、万全の状態で進んだ方がいいもんね。
じゃ、野営開始ってことで。