3-114 世界の壁第二隔壁
―1―
塔の天辺を探索する。塔の頂上部分は余り広くなく、その円形の舞台には4本の柱が立っていた。1本は俺がロープを巻き付けた柱だね。
そして中央には謎の台座が有り、その横から下へと続く螺旋階段があった。
あれ? もしかして、あの台座って。
俺は台座を調べるために近づく。
「だ、旦那、不用心なんだぜ」
いや、大丈夫なんだぜ。俺はこれを知っているんだぜ。
台座を調べる。台座の中央には腕と頭が大きな人が描かれていた。今度は描かれている絵が竜ではなく、人? だな。となると……。
俺が台座の絵に触れる。その瞬間、台座を囲むように光が走り、周りの風景が変わった。
予想通り転送したか……。
周囲を確認する。俺は薄暗い部屋の中に居るようだ。ふむ、キョウのおっちゃんを置いてきてしまったな。
ここは何処だ? 世界樹の時と同じなら、多分、入り口の近くだと思うんだが……。
俺は、頭の上にいる小っこい羽猫をなでる。明かり、明かり。
――《ライト》――
狭い室内に明かりが灯る。その瞬間、俺は悲鳴を上げそうになった。
部屋の天井の隅に、張り付くようにくっついている手足の長い青い色の怪物が居た。怪物は丸いはげ上がった目の無い顔をこちらへ向け、大きな口を開け、にやぁと笑った。ちょ、ホラー展開かよ!
青い手長が歯をガチガチと鳴らしながら、こちらへと飛びかかってくる。ちっ、戦うしか無いか!
視界の右上が赤く染まる。俺は狭い室内を左へと回避する。そこをなぞるようにヤツの噛みつきが走る。真紅行くぞ!
――《スパイラルチャージ》――
俺の横に着地した青手長に真紅が螺旋を描き走る。青手長が走る螺旋を長い手で掴み回転を押さえ込む。そして、そのまま大きな口を開きこちらへと噛みついてくる。
そのまま掴んでいな!
――《W百花繚乱》――
サイドアーム・ナラカとサイドアーム・アマラに持たせた鋼の槍から、高速の突きを青手長の頭上へと降らせる。14型から受け取ったままにしておいて良かったぜ!
発動した俺のスキルの力とヤツの堅さに負けて穂先が曲がっていくがお構いなしに突き続ける。なるべく同じところに当たるように何度も何度も、叩き付けるように突き続ける。
槍の勢いに負けたのか、こちらに迫っていた顔が徐々に後方へと逸れていく。突っ切れ!
叩き付けていた槍が曲がって使えなくなるほどの突きに、ヤツは耐えきれなくなったのか、真紅を掴んでいた手を離し、狭い室内のギリギリ遠くへと大きく後ろに飛ぶ。
――《集中》――
青手長に集中する。
――《飛翔》――
真紅を構え、大きく後方へ飛んだ青手長の下へ高速で飛ぶ。
――《スパイラルチャージ》――
後方へと飛び、無防備になっていた青手長を真紅の纏った三色の螺旋が貫く。抉り渦を巻き肉を貫いていく。
真紅に体を貫かれた青手長が体をジタバタと動かし、こちらへと噛みついてくる。俺の右肩部分が危険感知スキルによって赤色に染まる。青手長は、俺の右肩部分の肉に噛みつきながら、長い手足をジタバタと動かし続ける。痛い、痛い。超痛い、でも我慢する。
元気にジタバタと動いていたのが、時間と共に鈍い動きとなっていき、やがて動きを止めた。
俺は真紅を振り払い、刺さっていた青手長を吹き飛ばす。
――[ヒールレイン]――
癒やしの雨を降らし、噛み千切り、抉られ、体液をまき散らしていた肩の傷を癒やす。ああ、これ、外皮が取れて肉が見えているんじゃないか? うう、治るといいな。
にしても、こいつ何だったんだ。この部屋に隠れていたのか? 何らかのトラップだろうか?
―2―
狭い室内を探索する。四方が壁によって塞がれ、出入り口はない。うーん、これ、もしかすると外から、なのか? 何かの装置でここの部屋が開く、そうして入ろうとした瞬間にヤツが襲ってくる。そんな感じなんじゃないか? で、俺は、そのルートを飛ばして、先に進んでしまったって感じだろうか。
実際、外壁側を飛翔で駆け上がるっていう普通とは違うやり方で門を開ける装置の前に着いたワケだしね。それもアリか?
でもさ、それだったら隠し扉みたいな線が見えてもいい気もするんだよなぁ。うーん、分からない。
にしても、ここが入り口の近くなら、ジョアン達もこちら側から塔へと転移出来ると思ったんだが、そう上手くはいかないか。
とりあえず何も無いし、戻るか。
あ、その前に謎の怪物から魔石を回収しないとね。
青手長の死体を漁ったが、魔石は見つからなかった。更に体が溶け始め、やがて消えた。な、何も残らないとか。お金にならないじゃないか! ウッドゴーレムですら素材を落とすのに! ホント、酷い話だ。
部屋の中央にある台座に触れると先程居た、塔の頂上部分の画像が現れた。うーむ、この辺は世界樹と一緒だね。どう見ても、ここがスタート地点ぽいんだけどなぁ。ま、考えても仕方ないし、戻りますか。
元の塔へと転送される。
「旦那、大丈夫だったのか、何が起きているんだぜ」
キョウのおっちゃんが走ってくる。あ、そうか、キョウのおっちゃんは世界樹の迷宮を攻略した時は一緒じゃなかったもんね、この台座の使い方を知らないか。
『別の部屋へと転送されていたのだ。近道になると思ったのだが、どうやら無駄足だったようだ』
キョウのおっちゃんがため息を吐く。
「旦那、今度からはちゃんと断ってからやって欲しいんだぜ。後、どんな危険があるのか分からないんだから、簡単に触ってみるのも止めて欲しいんだぜ」
あ、はい。ごめんね、知っているモノだからつい触ってしまったんだよ。
「一応、旦那が消えている間にこの塔を探索してみたんだぜ」
お、さすがはキョウのおっちゃん、仕事が早い。
「あそこの柱の裏には、向こうと同じ線とスイッチがあるんだぜ」
ほほー。
「ただ、こちらは付いているスイッチが8本目と7本目、それに4本目の横にしか無かったんだぜ」
なるほど、水位を下げられる段階が向こうとは違うワケね。
「それと、そこの階段の下なんだが、すぐに水なんだぜ」
あ、なるほど。水位がここまで上がってしまっているから、塔の中も水に沈んでしまっているのか。となると、こちら側のスイッチで水位を7か4にするって感じなんだろうな。
となると、やることは一つ!
『ジョアン、聞こえるか!』
俺は向こう岸のジョアンへと天啓を飛ばす。天啓なら届くでしょ。
『そちらの一番下のスイッチを押して欲しい』
うん、何も素直に順番に水位を上げ下げして攻略する必要――無いよね。向こう岸に人がいるなら、一番下にして貰った方が早いよね。
ソロでは出来ない攻略法だ!
俺の天啓が届いたのか、大きな音を立てて水位が下がっていく。おうおう、これ、巻き込まれたらもみくちゃにされて死んじゃうな……って、アレ?
これ、もしかして、誰かが攻略中に水位を上げ下げされたら、水に巻き込まれてヤバイんじゃね?
俺、何も考えずに水位を最大まで上げちゃったけど、探索中の人とか居なかったよね? 居たら溺死しちゃうよね。うひー、酷い仕掛けだ。
コレ、ジョアンや14型が向こう岸に残って貰ったのは正解だったかもしれないな。誰かにスイッチをいじられたら怖いもんね。
9月8日修正
俺の右肩が赤く染まる。 → 俺の右肩部分が危険感知スキルによって赤色に染まる。
青い液体をまき散らしていた → 体液をまき散らしていた
ワケだしね。ありそうだなぁ。 → ワケだしね。それもアリか? でもさ、それだったら隠し扉みたいな線が見えてもいい気もするんだよなぁ。うーん、分からない。