3-110 世界の壁外壁
―1―
さて、どうやって戻ろうか。
この縁にある階段、蹴ったら動いて下に落ちるとか無いよね? まぁ、俺の体だと蹴るのも大変だから、そのまま放置でいいか。仕方ない、仕方ない。
じゃ、飛び降りますか。ぴょーんっとね。
おお、高い、高い。迫り来る地面。ジョアン達が空から降ってくる俺をポカーンとした顔で眺めている。空から芋虫が! って心境なんだろうね。
ああ、このままだと地面に激突してしまう!
――《浮遊》――
浮遊を使い、自分の体を浮かせてふわりと着地する。ふふふ、浮遊の有効活用だね。空を自由に飛び回る俺が地面に激突するなんて無いよねー。
「だ、旦那、何が起こったんだぜ。あの音はなんなんだぜ?」
着地した俺にキョウのおっちゃんが話しかけてくる。素早いね、すぐに話しかけたくなるくらいに気になったのか? あ、そうか、ここからだと下がどうなっているのか見えないのか。
「んんー。上がどうなっているのかも知りたいです」
ああ、そっちも気になるよね。
「ふ、ふん。何だろうと進むだけだ!」
ああ、ジョアン、周りに合わせて無理に喋らなくても大丈夫だよ。
14型は相変わらずニヤニヤとしてる。あー、本来は微笑んでいるって言うべきなんだろうけどさ、14型の性格を考えるとニヤニヤしているようにしか見えないんだよな。
『まずは上の様子だが、レバーがあるだけで何も無かった』
まぁ、梯子はあったんだけどさ、それは言わなくてもいいよね。
『そして、音の原因だが、そのレバーを動かすと壁が開いたのだ』
俺の天啓に全員が、いや、14型以外の全員が何を言っているんだという顔でこちらを見る。これは見て貰わないと理解出来ないだろうなぁ。
村跡まで戻れば壁が見渡せるから一目瞭然なんだろうけど、どうしようかな。転移で戻れば一発なんだけど、そうするとクロアさんを放置することになるからな、どうする?
『村跡まで戻れば開いた入り口が見えるだろう』
で、戻る方法なんだよな。
「旦那、どうするんだぜ?」
『自分の能力で村跡まで戻ろうと思うのだが』
俺の天啓にキョウのおっちゃんが頷く。
「なるほど、旦那ならそういう方法が……いいと思うんだぜ」
そうなんだよ、戻るのは楽勝なんだよね。
「んんー。私のことは気にしなくていいです。何かを使うならどうぞ、ご自由に、です」
いや、クロアさんもパーティに加入してくれたら、一緒に戻れるんですぜ?
「んんー。私は一人で大丈夫です」
『しかし……』
「ここまでも一人、ここからも一人……んんー、何も変わらないのです」
あ、はい。そこまで言うなら仕方ないね。まぁ、水が引いて戻れるようになっているんだから――大丈夫か。
じゃ、行きますよ。
――《転移》――
俺たちの体が空高くへと舞い上がる。おや、壁の上が見えるな。壁の上も道になっているのか。もしかすると、そこがこの迷宮の最終目的地なのかな。
そして、そのまま村跡へと着地する。
―2―
村の跡は水で流され更地になっていた。雪も残ってないな。いやあ、これ、人が居なくて良かったよね。村が残っていた時に同じ事をやったら大変なことになっていたよ。タイミングが良かったのか、悪かったのか。
「か、壁が開いてる!」
ジョアンが驚きの声を上げる。うん、だから言ったじゃん、壁が開いているってさ。
「これは……、もしかすると、ここが正規の入り口かもしれないんだぜ」
だよねー。こんな大掛かりに開くんだもん。こっちが入り口に見えるよね。にしてもさ、上り始めた場所も、転移のチェックをした場所も、この開いた門の近くで良かったよね。転移で戻ってすぐに開いた門が見えるとか、まるで、ここが開くと分かっていたかのような天才的な位置取りだよ。
果てが見えないほどの巨大な壁が大きく開いている。その開いた門部分の高さだけでも雲に掛かりそうな感じだ。どんだけ巨大な壁だって話だよね。
本来は色々と仕掛けを解いて、やっとさっきの場所に行けるようになって、そして扉が開くみたいな感じなんだろうか。世界樹の迷宮にあった中間地点もなかったし、色々と端折ってしまった気がするなぁ。ま、まぁ、深部を飛ばしたワケでもないし、最初の部分だから良しとしよう。
さてと、壁がどうなったか見て貰ったワケだし、一度、帝都に戻りますか。
『壁の状態も確認出来たことだ。一度帝都に戻ろうと思うのだが』
一応、皆の意見を聞こう。休憩を取ってから何時間も階段を上がり続けたからね。もう日が落ちそうだよ。
「旦那、せっかく開いたのに中を見ないのは、勿体ないんだぜ?」
んー。そうなんだよな。確かに俺も気になるけどさ、何が起こるか分からないし、時間も遅いから、明日、準備万端にして進みたいんだよな。
『いや、キョウ殿の気持ちも分かるが、日が落ちそうな今、このまま進むのは危険だと思うのだ』
思うのだ!
「僕はランに賛成だ!」
ま、キョウのおっちゃんの覗くだけってのも有りだとは思うけどさ。と言うか、俺一人だったら絶対に進んでいたよね。
「仕方ないんだぜ。興味深いが、明日の楽しみに取っておくんだぜ」
そうそう。と言う訳で、転移を!
「ちょ、ちょっと待てよ! その前に餌やりだけやらせてくれよ!」
ああ、竜馬車か。あ、はい、どうぞ。餌やりが終わるまで待ってます。
ジョアンの餌やりが終わり、改めて転移をする。
――《転移》――
さあ、帝都に帰還だ。
明日は門の中か。楽しみだな。