3-105 世界の壁外壁
―1―
とりあえず外まで戻るか。階段の下は水に沈んじゃったしね、戻るしかないね。他に道が無いから仕方ないね。
そのまま外へ。あ、そうだ! せっかくだから、ここでお昼ご飯にしますか。
『食事にしよう』
そうだ、食事にしよう。
「おいおい、旦那、こんな寒さの中、飯を食べるのか? それはキツいんだぜ」
えー、日も出ているし、そこまで寒いと思わないんだけどなぁ。仕方ない、壁の中に戻るか。壁の中だと薄暗いから、明るい外で食事をしようと思ったんだけどな。
ま、壁の中なら、少しは寒さも防げるよね。
「マスターのお供をするには貧弱なモノばかりのようですね」
はいはい、14型さん、そういうのいいから、ご飯の準備をお願いします。キョウのおっちゃんもジョアンも寒さに震えているからね。耐寒のマントがあってもこれだからね、仕方ないよね。にしてもジョアンとか、金属性の装備ばかりだろ? 一番、キツそうだなぁ。
14型がメイドセットから鍋やら食器やらを取り出す。ふむ、寒い時は鍋が一番だよね。って、火はどうするんだ? どうやって鍋をやるんだよ。
「マスター、水をお願いします」
はいはい、水を出せばいいのね。この壁の中に大量の水があるんだからさ、わざわざ俺が出す必要って無い気もするんだけどなぁ。ま、まぁ、凍らない、よくわからない謎の水だからね、毒でも入っていたら危険だから――仕方ないか。
――[アクアポンド]――
大きな水たまりを作る。お水どうぞ。
俺が作った水たまりの上澄みだけを14型が掬う。大きな水たまりを作っても、使えるのは少量とか勿体ないよなぁ。まぁ、でもさ、地べたの水を、そのまま全部料理に使って欲しくはないから――仕方ないね。
水の入った鍋に、魔法のリュックから取り出した加工済みの謎のお魚、トウモロコシ、謎の葉っぱ、魚醤などを入れていく。なんで、この魚、すでに捌いてあるんだ? わざわざ魔法のリュックへ入れる前に加工したとでも言うのか。ホント、14型は見えないところで色々やっているなぁ。
にしても、鍋と言うには寂しい料理だよな。調味料も足りないし、具材も足りない。まぁ、魔法のリュックの個数制限があるから、食べ物ばかりを沢山入れるわけにもいかないし――仕方ないか。
お、作った水たまりの端の方が凍り始めている。ホント、寒かったんだな。
―2―
「では、行きます」
14型が蓋をした鍋に両手を添える。何をするんだ。
一瞬、14型の手がぶれて見える。いや、ホント、何をしたんだ。
「はい、完成です」
蓋を開けた、鍋の中身はぐつぐつと煮えていた。おい、ホント、何をしたんだ。
「熱々ですので、気をつけて食べるのです」
はいはい。まぁ、よくわからないけど食べるか。
俺はサイドアーム・アマラでそのまま謎スープを掬い食べる。皆から見るとスープの塊が空中に浮き上がって俺の口に運ばれるように見えるんだよな。凄いシュールだ。
と、ちゃんと味わって食べないと。もしゃもしゃ。
もしゃもしゃ。
ふむ、うん、これは……魚醤の味がするお湯だな。せっかくの魚なのに、出汁が出ていない! これ、どう考えても作り方が悪いよね。普通は出汁が出るまで煮込むんじゃね? あんな、一瞬で熱しただけとかおかしいよね。ま、まぁ、食えないほどではないから、頑張って食べようか。
「じゃあ、俺もいただくんだぜ」
キョウのおっちゃんの手にはいつの間にか箸とお皿が握られていた。おいおい、何処から出したんだよ。というか、箸なんですね……。
「ぼ、僕はいらない!」
そう言ってジョアンが横を向く。ああ、この子、食器がなくて食べられないのを強がっているんだな。
俺はキョウのおっちゃんを見る。おっちゃん、ジョアンの分、持ってない?
俺の視線を感じたキョウのおっちゃんが小さくため息を吐き、もう1本の箸を取り出す。
「さすがに俺も、もう一個皿を持ってはいないんだぜ」
そりゃそうか。それなら仕方ないね、仲良く二人で一つの皿を分け合って食べるんだぞ。良かったな、ジョアン。
味はともかく、食事をしてお腹一杯になり、体も温まったので探索の再開です。
さて、どうしようかな。
このまま壁沿いに西へ。それとも東?
あ、そうだ!
これさ、もし、みんなの許可が出たらだけど、最初のところに戻ってみたいな。
『最初の水が張ってあった部屋に戻りたいのだが、良いだろうか?』
俺の天啓にキョウのおっちゃんとジョアンが頷く。
よし、じゃあ、戻りますか。
さすがに、今日は力のパーツを見つけて食事をしました、で終わったら情けないからね。何か収穫が欲しいからね。
さあ、出発っと。