3-104 世界の壁第一隔壁
―1―
鉄蜘蛛を倒し、迷宮を進んでいく。巨大蜘蛛が動き回れるくらいに広い通路ってのも、凄いよね。今、俺は壁の中を歩いているのに、その壁が超巨大とか、意味が分かりません。いや、ホント、混乱して何を言ってるのか分からないんだぜ。
しばらく進むと階段が現れた。む、こっちは水がないんだな。にしても一本道かぁ。階段を降りた先にも、まっすぐな道が続いている。よし、進むか。
黙々と道を進むと、やがて行き止まりになった。そして、その行き止まりには如何にもな金属の箱。これ、宝箱だよね。絶対に宝箱だよね。ふむ、行き止まりに宝箱か。嫌な予感しかしないんですけど。しかもさ、ここって、先程の水が張ってあったところと造りが凄いそっくりなんだよなぁ。
もしかしすると、いやいや、まさか、いやでも、ありえるか、ありえるかも。
金属の箱の上を見ると、壁に四角い穴が開いていた。いやいや、もうコレ、確定じゃないか。
これさ、この金属の箱を開けると、水が落ちてくるんじゃね。そしてこの通路が水に沈む、と。すっごいありそうなんですけど。上の四角い穴といい確定だよね。
『キョウ殿』
俺の天啓にキョウのおっちゃんが頷く。
「な、なんだ? どういうことだ?」
ジョアンがキョウのおっちゃんと俺を見比べる。ジョアンには俺とキョウのおっちゃんのやりとりが理解出来なかったようだ。ふふ、高度過ぎたかね。
『ジョアン、階段近くまで戻るんだ』
「なんでだよ!」
いや、だからね。君は動きが――いやまぁ、瞬発力はあるだろうけどさ、もし、予想通りに水が迫ってきたりした時に君だと逃げ切れないと思うんだよ。
「小僧、ちょっと罠が発動するかもしれないから、なんだぜ」
まぁ、14型は大丈夫だろう。この子、無駄に素早いし。
「わ、わかったよ!」
ジョアンが元来た道を戻っていく。
さ、開けますか。
『キョウ殿、頼む』
キョウのおっちゃんが謎の道具を取り出し、箱を調べていく。あ、俺も鑑定しておこう。
【スイッチ】
何だ? スイッチの罠って何だよ。一応、キョウのおっちゃんに伝えておくか。
『キョウ殿、罠はスイッチのようだ』
キョウのおっちゃんが作業を続けながらも頷く。
……。
キョウのおっちゃんの作業が続く。
……。
暇だなー。
「旦那……」
お、終わった?
「ランの旦那、この罠は外すことが出来ないみたいなんだぜ」
えー、アレだけ調べて結局それなのかー。まぁ、キョウのおっちゃんが無理なら、他に誰も出来そうにないし、仕方ないか。
「こいつは開けると、どうやっても何らかの装置が動くようなんだぜ」
ふむ。となると、開けた瞬間に中のものを取ってダッシュで逃げるしかないか。
『キョウ殿、開けたらすぐに中のものを回収して飛ぶぞ』
キョウのおっちゃんが頷く。にしても、また野郎を抱えて運ぶのか……。あ、14型。
『14型は急いで戻り、ジョアンについてやってくれ』
14型は俺の言葉を受け、優雅に一礼し、そのまま消えるような速度で歩いて行った。異常な速さなのに、やっぱり歩きなのか。ホント、よくわからないメイドロボだな。
さて、じゃあ、開けますか。
『キョウ殿頼む』
俺の言葉と共にキョウのおっちゃんが金属の箱を開ける。その瞬間、上の穴から大量の水が噴き出す。予想通り! キョウのおっちゃんが素早く中のものを取り出す。
行くぞ!
――《飛翔》――
キョウのおっちゃんを抱え飛ぶ。迷宮の中、迫る水の中、這うように高速で飛ぶ。こ、これ、水の勢いが恐ろしく早いぞ。飛翔が普通に使えるようになってなければ、危なかったんじゃね。
―2―
階段へと戻る。階段の上ではジョアンと14型が待っていた。
「音が!」
俺はキョウのおっちゃんを降ろす。ああ、背後から恐ろしい音が聞こえるな。
「ふう、旦那が居なかったら水に押し潰されていたんだぜ」
だよね。予想以上だったもん。恐ろしい罠を考えるよなぁ。
で、キョウのおっちゃんよ、箱の中身はなんだったんだい?
「これなんだぜ」
キョウのおっちゃんが握っていた物を見せて貰う。
それはネジだった。うん? ううん? これ、どう見てもネジ……だよな? ちょっと大きな金属のネジ。なんだコレ? 鑑定してみるか……。
「それは!」
何故か14型が食いついてきた。ちょっと待ちなさい、今から鑑定するんだからね。
【力のパーツ】
【力を増加させる何かの部品】
うん? ううん? これは、もしかして14型が探していたパーツ? アレ? でも謎のパーツと形状が違うじゃん。
「マスター、お願いです。それを私に」
俺はキョウのおっちゃんとジョアンを見る。キョウのおっちゃんが頷き、ジョアンがどう答えればいいのか迷い、キョロキョロと周囲を見回す。君に答えをくれる人は周囲に居ませんよ。
ま、これはあげてもOKってコトだよね。
キョウのおっちゃんから力のパーツを受け取り、14型に放る。
14型が、まるで宝物でも受け取るかのように、静かに、大切に、抱え込むように受け取る。
「こんなにも早く一つ目を見つけるとは、さすがはマスター、なかなか有能なのです」
はいはい。だから、何でお前は上から目線なんだよ。
「では、さっそく、いただきます」
その言葉と共に14型が力のパーツを飲み込む。へ? 飲み込んだ、だと。
「はい、完了です」
へ? もう終わったのか。謎光を発する、とか、そういう何か分かりやすい変化はないのか。
「これで、こんなにも強くなります」
そう言って、14型は背後から俺の腋に手を入れ、持ち上げる。ちょ、おま、子どもじゃないんだから、そういうの止めろって。何コレ、ちょ、浮遊や、飛翔で逃げるべきか。
『14型、降ろせ』
俺は6本の足をジタバタと動かす。アレだ、背中をもたれたカブトムシみたいな状態だ。
その後、14型は、俺を何度か高く持ち上げ、それからゆっくり降ろしてくれた。くそ、危険感知が働かないとか、敵は身内に居たのか!
にしても、力のパーツか。なんというか、タイミングが良すぎて、ちょっと色々と勘ぐってしまうな。だてさ、世界樹の迷宮や小迷宮では見つからなかった物が急に見つかって、しかも、置いてあるのが入り口近くとか――怪しすぎる!
むうむうむう。