3-102 世界の壁第一隔壁
―1―
さあて、ついに『世界の壁』の攻略開始ですな。で、どうやったらいいの? 教えてキョウのおっちゃん。
「いや、俺も詳しくは知らないんだぜ」
え、ちょ、キョウのおっちゃんの知識に、俺は、俺は、凄い、凄い! 期待していたんですけど。まぁ、何の情報も無い状態で迷宮を攻略するってのもダンジョン攻略の醍醐味なんですかね。俺としては命を賭けた状態でそんなことしたくないんですけどね。
とりあえず壁に近寄ってみますか。
積もった雪をキョウのおっちゃんがジャリジャリと掻き分け進む。雪が深いな。これ、進むの結構大変だよね。炎の魔法で一気に蒸発とかしたくなるなぁ。俺の使える魔法が火属性だったなら!
下から壁を見ると階段や無数の出っ張りが見える。外壁も迷宮みたいになっているのか……。
「旦那、どうやら、あそこから壁に取り付けるみたいなんだぜ」
キョウのおっちゃんが指差した先には、小さな櫓が壁に寄り添うように建てられていた。櫓からは紐が伸びており、その紐を伝って櫓の上に登れるようだ。ふむ、まずは櫓の上に上がって、そこから世界の壁へ進むって感じなのかな。
キョウのおっちゃんが紐を掴み、器用にするすると上っていく。それをジョアンが恨めしそうに見ていた。ああ、ジョアンは重装備だもんな、紐を伝って上るとか無理か。仕方ないなぁ。
俺はサイドアームを使いジョアンを掴む。ジョアンよ、暴れるんじゃないぞ、サイドアームはそういった衝撃に弱いんだからね。
――《飛翔》――
ジョアンを抱えたまま、空を飛び、櫓の上に着地する。うむ、超知覚の力で普通に高速の世界を認識出来るぞ。空間の把握もばっちりだ。ふふふ、これが空飛ぶ芋虫の完成形なのだよ。最初からセットで取得していれば、もっと色々と使い道があっただろうになぁ。世界樹を一気に登るとか、さ。
さ、じゃあ、壁を進みますか。って、あ、14型の存在を忘れていた。14型てば、あんなメイド服な格好だもん。紐を上るとか無理なのでは……これは是非、視聴せねば! 俺は紐の下を見る。
「何を見ているのですか?」
下を見ていた俺の背後から14型の声がする。な、なんだと! いつの間に上に上がったんだ。くそ、これも謎のメイドスキルだというのか!
って、冗談は置いといて、14型も上がっているのなら先に進みますか。ま、14型がどうやって上がったのか見えなかったのは残念だけどさ。
櫓から世界の壁へと進む。壁から階段が生えているな。にしても階段か……。なんでいきなり階段なんだろうな。櫓は後で作られたモノだよな。ここから階段がスタートしているし、壁の中に入れるわけでもない。上から降りてくるとして、こんな何も無い中途半端な高さのところに戻ってどうするんだ? うーん、謎だ。まぁ、考えても答えなんて出ないんだから、気にせず上に上がりますか。
―2―
壁についている階段を上がる。段差がキツいなぁ。この体には段差がこたえるぜ。にしても魔獣が出ないな。存在しないのか?
しばらく階段を上っていると踊り場に出る。踊り場には壁の中へと進む道があった。うーむ、このまま上るべきか、壁の中に進むべきか。
「どうするんだぜ?」
このまま上に上がっても所詮、外壁部分だしなぁ。やはり中に入らないと駄目でしょ。
『中に入ろう』
俺の天啓に2人が頷く。14型は優雅に佇んでいるだけだった。14型も頷いてくれていいのよ。
世界の壁の中へと進んでいく。ちょっと薄暗いな。よし、こういう時の小っこい羽猫、出番なんだぜ。
――《ライト》――
迷宮の中に明かりが灯る。うーむ、小っこい羽猫のヘッドライト化が著しい。
小っこい羽猫の明かりを頼りに迷宮を進んでいくと視界に赤い点が灯った。魔獣か。
灯った赤い点がすぐに消える。うん? 消えた?
「防ぐ!」
素早く動いたジョアンが盾を構え、何かを防ぐ。矢……か? ああ、灯った赤い点は、この矢だったのか。ジョアンが防ぐから消えたのか。何だろう、危険感知が未来予知みたいだ。
次々と飛んでくる矢をジョアンが盾で防いでいく。おお、ちゃんと防いでくれているな。と、俺も仕事をしないとね。俺は背後に控えていた14型から鋼の槍を受け取り、真紅を戦闘態勢に変形させる。
放たれていた矢が止んだのを確認し、俺は駆け出す。さあ、出番だぜ!
駆け出した先に居たのは弓を持ったスケルトン達だった。スケルトンか……。そのまま真紅を叩き付け骨を砕く。更に鋼の槍を叩き付ける。3本の槍を何度も叩き付け骨を粉々にする。よし、まずは一体!
そのまま横のスケルトンアーチャーに鋼の槍を叩き付ける。ふふふ、弓使いなぞ、近づいてしまえば雑魚よ。
骨達を叩き壊していく。ははは、無双だぜ。
更に奥から変わった骨が現れる。スライムのようなゼリー状の塊に包まれた骨。スケルトンゼリー? 何だ、コイツは?
スケルトンゼリーの中に小さな魔石が浮いている。コイツが、このスケルトン達のボスかな。
うーむ、その姿から予想すると――スライムのような物理無効系か? 真紅を溶かされるのは困るなぁ。とりあえず鋼の槍を犠牲にするか。
そんなことを考えている俺の横を短剣が抜けていった。そして、そのままスケルトンゼリーの魔石に刺さり、魔石を砕く。キョウのおっちゃん?
「俺も居るんだぜ」
魔石が砕けたスケルトンゼリーはゼリー部分が弾け飛び、そのままバラバラの骨の塊になって転がった。え? 弱い? 別に武器が溶かされるとか、そういうゼリーじゃないのか。
キョウのおっちゃんが投げ放った短剣を回収する。うーむ、楽勝だな。ま、入り口だし、こんなもんか。世界樹も下層は雑魚しか居なかったしね。
そのまま進むと水たまりに突き当たった。道の縁には階段があり、そのまま水の中へと降りられるようになっているが、水の中は底が見えず、かなり深そうだ。へ? 行き止まり? それとも、この水の中を進めと? と、というか、この寒さの中で凍ってないって、どんな水なんだ? そんな凍らない不思議な水の中を進むとか危険過ぎるだろ。他に道は無さそうだし……って、ことは、うーん、行き止まりか。
「ここで行き止まりみたいなんだぜ」
そうだね。仕方ない、戻るか。
『戻るか』
はぁ、戻るの面倒だなぁ。結局、上に上がるのが正解だったのか。