3-101 世界の壁外壁
―1―
――《転移チェック4》――
よし、チェック完了っと。これでいつでも世界の壁に戻れるな。
『では、一旦、帝都に戻るとしよう』
「は? 旦那、何を言っているんだぜ?」
キョウのおっちゃんとジョアンが不思議そうな顔でこちらを見ている。あれ? 転移スキルを見せていた覚えがあるんだけどなぁ。まぁ、使えば思い出してくれるでしょ。とりあえず14型を捕まえてっと。
俺は後ろでうろちょろしていた14型を捕まえる。じゃ、転移で。
――《転移》――
俺とキョウのおっちゃん達が空へと舞い上がる。あ、竜馬車……。ま、まぁ、向こうで説明しようか。
自宅を指定して、着地っと。
「こいつは……」
「こ、ここは!」
そうです、我が家です。自宅です。まだ木の枠組みしか出来ていないけど俺の自宅です。
「魔族との戦いの前に使った魔法……いやスキルなのかなんだぜ。旦那、これは旦那の魔獣としての特性か何かなのか、なんだぜ?」
スキルなんだぜ。
『と、ところで竜馬車なのだが……』
俺の言葉に衝撃から立ち直ったジョアンがこちらへと詰め寄ってくる。ご、ごめんねぇ。
「ら、ラン。また向こうに戻ることは可能か!」
か、可能です。す、すぐに戻りますねー。あ、キョウのおっちゃんは離れててくれてもいいですよー。うん、14型もこっちに置いていこう。では!
――《転移》――
空に舞い上がり、『世界の壁』の外壁に着地する。
「こ、これは、かなりキツいんだぜ」
キョウのおっちゃんが吐きそうな顔をしている。酔ったのか? にしても、転移の巻き込む範囲を確認したかったから、キョウのおっちゃんには離れて貰ったんだけどさ、うーん、一緒に来ちゃったか。どうも、見えている範囲くらいは一緒に飛ぶのかもしれないな。
ということで『世界の壁』に戻ってきました。竜馬車も一緒に転移出来たら楽だったんだけどなぁ。こういう所は転移も不便だよね。
「ら、ラン、明日もここに来るんだよな!」
もちろんだぜ。だって、この迷宮を攻略する為に頑張ってここまで来たんだからな!
「こいつらは、頑丈だから餌だけやっていれば大丈夫なんだぜ」
ほー、それは凄いな。寒さにも強かったみたいだし――って、まぁ、寒い帝都での運用を想定しているんだから強くないとおかしいか。ホント、人に使われる為に生まれてきたかのような存在だな。
ジョアンが2本足の竜に何かの食べ物を与えている。
「アレで大丈夫だと思うんだぜ」
そうなのか。でもさ、食費が大変だし、『世界の壁』の攻略中に日にちをまたぐことも出来ないし――そう思うと、ちょっと何か手段を考えないと駄目かなぁ。
じゃ、転移で戻りますか。
――《転移》――
自宅へと戻る。
さ、じゃあ、今日のところはこれで解散ということで。
―2―
14型が作ってくれた食事を食べる。もしゃもしゃ。ちょっと焼きが足りないかなぁ。にしてもお金を渡せば、勝手に食材を買って来て料理をしてくれるとか、14型さん意外と優秀ですか? 味は……まぁ、普通だけどさ。それでも不味いわけでもないし、自分で作る労力を思えばいいんでない、いいんでない。
14型が調理に使う道具類だが、どこで調達してきたのか、いつの間にか持っていたんだよなぁ。しかもメイドセットって形で魔法の袋に1枠で収まるというインチキ具合。そんなのチートじゃん、ズルだよ!
調味料が増えてきたら、もっと色々バリエーションが増えそうで今から楽しみです。味の調整は味見が出来る俺がすればいいんだしね。意外と14型が役に立っている?
俺が地下室で魚醤をかけて焼いただけのトウモロコシという朝食を楽しんでいるとキョウのおっちゃん達がやって来た。
「おいおい、こんな薄暗い部屋で食事なのかよ、俺も混ぜて欲しいんだぜ」
おっちゃんよ、薄暗いと混ぜて欲しいがつながってないんだけど、どういうことだい。って、そうか、薄暗いか。仕方ないなぁ。
――《ライト》――
俺は頭の上の小っこい羽猫をサイドアーム・ナラカでぽんとなでる。小っこい羽猫のライトのスキルが発動し、薄暗かった部屋に明かりが灯った。
『勝手に座ってくれ』
14型がキョウのおっちゃんにも焼きトウモロコシを用意する。ま、複雑な料理は追々だよね。今後は14型の料理スキルのレベルをあげて美味しいモノを作る!
「こんなところまで来てマスターのための料理をせびるなんて、卑しん坊ですね」
俺は卑しん坊なんて言葉を初めて聞いたよ。
「な、何をしているんだよ!」
ジョアンは、そんな食事を楽しんでいる俺たちを呆然とみていた。食事が終わるまで待っててね。もしゃもしゃ。
もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ。
妙に明るい地下室に焼きトウモロコシを食べる音が響く。
「お、おい、だから迷宮に!」
おうさ。じゃ、食事も終わったし、『世界の壁』の攻略に行きますか。
14型が食器や調理道具などのメイドセットを背中のリュックにしまい込む。ホント、一枠で済むって羨ましいなぁ。
「チャンプ、勝手に作業しているぜ」
外に出ると親方達、大工の皆さんが俺の家を建ててくれていた。あ、朝早くからご苦労様です。ああ、早く、俺の家、完成しないかなぁ。
と、じゃあ、世界の壁に戻りますかね。
――《転移》――