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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略
213/999

3-97  オーガ

―1―


 リクの村へと向けて駆けていく。東側の帝都周辺――この辺りもトウモロコシ畑ばかりだな。そんなトウモロコシに囲まれた道を黙々と駆けていく。うーん、人の姿が見えない。トウモロコシ畑の手入れをしている人くらいは居てもおかしく無いと思うんだけどな。ここの人たちって、基本、放置なのかな。


 半日ほど休みなく走り続けると小さな家がぽつりぽつりと見えてきた。これが村かな。


 トウモロコシ畑がなくなり、穂のついた茎のある植物が増えてくる。うん? 何だろう、稲とかに似ているよね。帝都は結構寒いし、寒さに強い植物とかなのかな。


 村というか、ただの家の集まりというか、集落? いや、集落だから村であっているのか。そんな小さな集まりだ。なんだろう、一日でここまで来ちゃったけど、どうしたら良いかわかんない。店屋があるわけでもないし、村人の姿も見えないし、ホント、どうすればいいの? 目についた家の扉をノックしていけばいいのかな? うーむ、うーむ。


 俺は困り、後ろに立っている14型を見る。俺が振り向くとは思わなかったのか、14型は欠伸をしていた。この子、緊張感がないなぁ。欠伸を見られたことに気付いたのか、ハッとした演技の後に、欠伸なんてしてないよーアピールを繰り返している14型。あざといなー。というか、ロボのお前が欠伸をする必要なんてないだろ。絶対にわざとだろ。

「にゃあ?」

 頭の上の小っこい羽猫が疑問符の浮いてそうな声でなく。


 はぁ、答えも出ないし、とりあえず村の中を歩いてみるか。


 目的もなく静かな村の中を歩いていると、突然、悲鳴が聞こえてきた。へ? 悲鳴? どっちだ。

 俺は周囲を見回す。

「マスター、こちらです」

 14型が耳に手を当て、アピールしている。はいはい、どちらかな。


 無視するのも可哀相なので、アピールをしている14型の案内に従って声の聞こえた方へ走る。いやまぁ、俺も方向は分かっているんですけどね。


 たどり着いた先では大きな体躯、太い腕と頭に角を持った人型の化け物に村人が食われていた。動けないように足を折られ、生きたまま腕をバリバリと齧りちぎられている。村人が声にならない悲鳴を上げる。グロい、グロい、グロい。人食いオーガって、本当に人を食うのかよッ! 洒落にならない。


 なんなんだよ、コレ。なんなんだ。


 窓口のお姉さん、まだオーガを見かけただけだから、急ぐ必要はないみたいなこと言っていたよね? 言っていたよな! コレを見て、急ぐ必要がないなんて、どうしたら言えるんだよッ!


 と、とりあえず回復魔法か。いや、あのオーガをなんとかしないと。


 人よりも大きな巨躯。曲がった背、足よりも大きく太い丸太のような腕、ぼさぼさに伸びた髪。その伸びた髪によって顔を隠し、唯一見えている口から、血を滴らせ長く鋭い牙を覗かせていた。これが、この世界のオーガか。


 俺は素早く魔法のウェストポーチXLから真紅を取り出し構える。


――《飛翔》――


 飛翔スキルを使い、構えた真紅ごとオーガに突っ込む。手に何か硬い物にぶつかった衝撃が走る。飛翔スキルの勢いによって一瞬にしてオーガが吹き飛んだ。ふむ、突き刺さらずに吹き飛ぶ……か。


――[ヒールレイン]――


 涙を流しながら腕を押さえ、口から色々な物を吐き出していた普人族の男性に癒やしの雨が降る。これでとりあえず大丈夫かな? 目の前で死なれたらやるせないからね。


 俺はそのまま吹き飛んだオーガの元へ。オーガがヨロヨロと立ち上がり、その丸太のような右腕で殴りつけてくる。右からの赤い点が灯る。オーガの右ストレートを左へ、そこへ迫る左腕、それも素早く右へとステップして回避する。すぐに下からの赤い点が灯る。俺は、そのオーガの右アッパーをバックステップで難なく回避する。うん、余裕だ。オーガの攻撃は速く鋭いが、俺の方が圧倒的に素早い。


――《スパイラルチャージ》――


 真紅が螺旋を描き、オーガを抉る。身を削り、貫く。螺旋と共にねじり刺さった真紅を引き抜くとオーガの胸には大きな風穴が空いていた。そのまま、ヒザからどさりと倒れ込むオーガ。へ? 一撃? オーガって、そんなに強くないのか? うーむ。と、考え込んでいる場合じゃない。さっきの男の人の所に戻らないと。


――[ヒールレイン]――


 涙を流し転げ回っていた男性に癒やしの雨が降る。さっきは動けないほどだったから痛みに転げ回るくらいには回復したってことかな? と、もう1回だ。


――[ヒールレイン]――


 癒やしの雨が降る。3度目の癒やしの雨を降らせたところで男から、食われたはずの腕が生えてきた。周囲に漂っていた色の付いた靄が失った腕の部分に集まり、腕を形作っていく。うわ、グロキモイ光景だ。というか、初めて見たけど回復魔法って、失った部位が再生するんだ……。

「あでぃがと、ありばと、あいがど」

 男は声にならない声で呪文のように感謝の言葉を喋り続ける。あー、うん。感謝してくれるのはいいけど、ちょっと怖いです。

 にしても魔法で部位が再生するのか。これは、失ったのがまだ早い段階だったから出来たのかな? よくわからないな。でもさ、これが出来るなら、食べられる動物を捕まえる、お肉食べる、回復させる、の無限増殖が出来るのでは? 食糧問題解決だね!

「マスター、よろしいです?」

 そんなことを考えていると14型が話しかけてきた。はい、どーぞ。

「マスターの、その力は周囲の魔素を大きく減らしています。魔素が見えないマスターには考えるコトも出来ないことでしょうが、この量が減るのは余り良いことではないと賢く有能な私は考えが足りてないマスターにお伝えします」

 なげえよ。というか、魔素って、この色つきの靄のコトだよね。俺も見えてますから、しっかりと見えていますから。つまり、この靄を使うから無限回復は出来ないってコトか? なるほど、そう言えば色つきの靄が少ない迷宮では癒やしの力が弱い気がしたな。いや、そうでもないか? 気のせいかな? どうだろう。試してみたいけどさ、さすがに怪我をするのは嫌だしなぁ。


 男が落ち着いたところで話しかける。

『大丈夫か?』

 男が俺の姿に若干怯えながらも、ゆっくりと頷く。む、俺も魔獣の仲間だと思われているのか? もう、失礼しちゃうなぁ。こんなにも愛され体型なのにさ。最近では結構、この姿も悪くないとか、ちょびっとだけさ、思えてきたんだぜ?

「あ、う、あ、ありがとう。助かった、も、もう、大丈夫だ」

 ほっ、心は壊れてないようだね。生きながら食われるなんて、発狂してもおかしくないもんなぁ。俺だったら絶対に嫌です。

『自分は帝都からオーガ討伐の為に来た冒険者だ。状況を教えて貰えると助かる』




―2―


 食われていた男の人は、ここの村人で間違いなかった。得られた情報を総合する。現れたオーガの数は4体。まぁ、さっき1体倒したから、残り3だね。こちらの様子をうかがうだけだったオーガが急に暴れ出したため、帝都へ助けを求めようと動いたところを、この男の人は襲われたらしい。家を出てすぐに襲われるとかついてないよな。

 村人は全員、一番丈夫で大きな、村長の邸宅に集まっているそうだ。ふむ、これ、思っていたよりも危険な状態じゃね?

『他のオーガの場所はわかるだろうか?』

 男は首を振る。仕方ない、まずはこの人を、その村長の邸宅まで護衛するか。

『村長宅まで護衛しよう。場所を教えてくれ』


 俺の天啓に、男がヨロヨロと立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。


 周囲を警戒しながら、男の案内に従って村長宅へと歩き出す。村長宅へ近づくと村長宅を囲むように3本の線が延びているのが見えた。あ、コレ、やばいパターンだ。


 ずどん、ずどんと大きな音が響く。その音はどう考えても、俺たちの進行方向から発生しており、その先にあるのは村長宅しかないわけで……うん、コレは、アレだ。急がないとヤバイ!

 ずどんと響く音に、男が悲鳴を上げて逃げ出した。あ、道案内。というか、走れるくらい元気なら案内を急いでくれても良かったのに……。って、まぁ、ここまで来たら迷うこともないか。

 俺は線の下へと急ぎ駆ける。俺の後ろを『歩き』ながら、同じようについていくる14型。この子、移動速度だけは文句なしだよなぁ。



 周囲の掘っ立て小屋よりは大きく、木でしっかりと作られた建物を3匹のオーガが取り囲んでいた。大きかろうが、造りがしっかりしていようが、所詮は木の建物である。オーガが建物を殴りつける度に、曲がり、ひしゃげ、建物が壊れようとしていた。

 ふむ、オーガはこちらに気付いていないな……。まずは先制攻撃!


 俺は2本の鋼の槍とコンポジットボウを取り出す。14型が鋼の槍を持ってくれる。


 コンポジットボウを持ち、鉄の矢を番える。


――《チャージアロー》――


 鉄の矢に光が集まっていく。


――《集中》――


 ギリギリと力が溜まり、光り輝いていく鉄の矢をオーガの脳天に狙い定める。そして、光が最大になったところで放つ。

 光の矢が狙い違わずオーガの頭に炸裂し、砕き、貫通する。うわ、グロい。にしても、一撃なの? いや、マジで、オーガって余り強くないのか? これでDランク? そういえば、こいつら武装とかしていないな。人型なんだから、武器や鎧を着けていてもおかしくないよな。そういった装備品混みでDランクだったんだろうか。ヘルメットがあれば俺の攻撃を防げたかもしれないのにね!


 こちらに気付いた残りのオーガ2体が、吠え、駆けてくる。俺は14型にコンポジットボウを渡し、2本の鋼の槍を受け取る。


 迫るオーガ。うわ、息が臭そう。


――《S百花繚乱》――


 三つの槍から高速の突きが繰り出される。鋼の槍は、弾かれ、オーガの体に小さな傷を付けるだけだったが、真紅がその身を削り、肉を裂き、肉片の花を咲かせていく。無数の大穴を開けられた2体のオーガが崩れ落ちる。え? 終わり? こんなあっさり?

 にしても、鋼の槍は弾かれるか……。さすがにDランクだけあって鋼の槍程度では厳しいんだな。真紅がなかったら攻撃が余り通らなくて苦戦した……かなぁ? それでも楽勝で勝てた気がする。いや、でも、本当にこれで終わり? 驚異的な再生力で復活してくるとか、そういうのはないんですか? う、うーん、思っていたよりもあっさりと終わってしまった。


 ま、まさか、着いた瞬間に解決してしまうとは……。

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