3-96 料理道
―1―
新しい道場へ入ろうとするユウノウと俺を楽しそうに眺めている14型。そういえば、14型をどういう扱いにすればいいんだ? 従者なので一緒に入れてくださいって感じなのか? このまま14型も一緒に道場にお呼ばれしていいんだろうか。
「そこの小動物。私の存在に気付かないとは、たるんでいると思うのです」
14型の言葉。って、へ? ユウノウさんも、今気付いたとばかりに、ハッとした顔で14型を見る。もしかしてユウノウさん、14型に気付いていなかった?
「しゃ、社長のお友達ですか……?」
お友達ではないです。って、この子との関係性は何になるんでしょうか。急に降って湧いたメイドさん? 従者?
「たるんでると思うのです」
得意気に腰に手を当てている14型です。えーっと、アレだ、スゴイね。
「社長のお友達も、中へどーぞー」
結局、お友達扱いになるのか。じゃ、道場に入りますね。
俺は14型と共に道場の中へ。おー、広いな。そして奥で木刀を振り回している少年少女達……当たり前だが森人族の子ども達ばかりだな。
「あれー、魔獣?」
「私しってる」
「わたしもー」
「拙者も」
俺の存在が気になるのか、子ども達がこちらへと走ってくる。
「な、小動物が、こんなにも!」
俺をかばうように前に立つ14型。いや、そういうのいいから。
「おねえさん、だれ?」
「戦う?」
「つおいの?」
「な! 戦闘メイドたる私に勝負を挑むというのですか」
子どもとじゃれ始めた14型は無視してっと。
「ところで社長、今日は何の御用で?」
そうなんですよ、ユウノウさん。別に用があったわけじゃないんですよ。ちょっと気になっていたから寄っただけなんですよ。
まぁ、ミカンさんの行方も気になると言えば気になるから、もしかしてと寄ってみたんだけどね。前回の時にお嬢はお嬢の道があるから的なコトをユウノウさんに言われているからなぁ。だからわざわざは聞かないけどね。そうやって言われていながら、もう一度確認するってのは……アレだよね。まぁ、会えたらラッキーくらいだから、居ないことが確認出来れば満足かな。まぁ、俺としてもミカンさんに会って無事を確認して『良かった』って言いたいだけだしさ。
『里に寄ったので、ついでに、な』
「なるほどー。ならせっかくですし、ご飯でも食べていきますー? 残念ながら焼き魚はないですけどねー」
「待ってください」
子ども達の山の中から手が上がる。14型か……。
「料理なら任せてください。材料も買ってあります。メイド道の真骨頂、お見せします」
あ、はい。料理……出来たんだ。じゃ、じゃあ、せっかくなので頑張って貰いましょうか。うーむ、凄い不安なんですけどね。
「厨房はどちらですか? こちらですね、わかります」
14型は一人で勝手に納得して歩いて行く。ま、まぁ、大丈夫だろう。
「社長、あの子、大丈夫?」
『多分』
俺とユウノウさん、子ども達は道場と隣接している休憩室へ。うむ、なかなかに広い。皆が置いてあるクッションの上に座る。俺は座れないので、とりあえず丸くなってみた。まるくなる!
しばらくすると14型が料理を持ってきた。皿の上には何かの肉や何かの野菜。深皿に謎のスープ。うーむ、見た目はまともだな。
「さあ、食べてください」
子ども達が思い思いに食事を始める。俺もサイドアーム・ナラカに箸を持たせて14型の料理を食べてみる。もしゃもしゃ。
うん、もしゃもしゃ。
これは、もしゃもしゃ。
……もしゃもしゃ。
『14型……』
「何でしょう、マスター。おかわりですか? おかわりですね。さすがは魔獣型のマスター、食いしん坊ですね」
いや、そうじゃないんだ。
『14型、味見はしたか?』
俺の言葉に14型は首をかしげる。いや、そういうポーズはいいから。
『味見……してないんだな』
「ええ、私は食事が出来ません。何を当たり前のことを言っているんですか?」
そうか、そういえばロボだもんな。当たり前かぁ……。
『味が死んでる』
俺の言葉に14型がショックを受けたかのような顔をする。ホント、オーバーリアクションが好きだよね。
「なんですと!」
そうなんだよな、味が死んでいるんだ。不味くはないんだけどさ、美味しくもない。例えるなら、腹八分目の時に水道水を飲み続けるような感じだ。水道水もさ、喉が渇いている時は美味しいと感じるじゃん。お腹一杯の時は飲むのも苦痛って感じになるよね……まさしく、そんな、凄く微妙な味なんだよ!
「でも、私は成分の通りに作ったのです」
ああ、そうか。14型はロボだもんな。レシピ通りに機械的に作ったのか。いやまぁ、こんな謎素材にレシピがあるのかって疑問はあるけどさ。味を調えるとかの微調整は難しいか。まぁ、食べられないわけじゃないし、これは仕方ないか。
周囲を見回すとみんな静かに微妙な顔で黙々と食事をしている。食事前の子ども達の喧噪が嘘のようだ。
「わかりました。もっと学習して、更に実験をして、頑張ってみます」
味見が出来ないのに料理を極めるのは困難だと思うけどさ、頑張るんだぞ!
食事も終わり、俺たちはユウノウさんに別れを告げ、道場を後にする。さ、我が家に帰りますか。
俺たちはスイロウの里の外へと出る。
『14型、戻るぞ』
あ、そうだ、14型に触れている状態で転移したら、どうなるんだろう。所持品扱いなら、コレだけで一緒に転移が出来そう。よし、試してみるか。
――《転移》――
触れていた14型と共に空高くへと舞い上がる。おお、成功だ。じゃ、今度から別に抱きかかえなくても大丈夫か。
相変わらず、14型が、こちらを不思議な生き物でも見るような目で見つめてくる。
さあ、我が家に帰りますか。
―2―
我が家――と言っても地下室だが――に帰り、魔法の練習をして眠りにつく。おやすみなさい、すやすや。
そして翌朝。
立ったまま寝ている14型を起こし、地下室の外へ。さあて、今日はリクの村に行きますか。と、問題はキョウのおっちゃんとジョアンなんだよな。一緒に来てくれたら、そりゃあ、心強いんだけどさ、無報酬に付き合わせるのか、って話なんだよなぁ。それに戦争が終わったからか、二人とも忙しそうなんだよなぁ。パーティの光を見ていると結構、せわしなく動いている感じだもん。キョウのおっちゃんなんて帝城の中に光があることもあったもんな。お偉いさんに何かの報告でもしているのかもしれん。って、そう思ったら余計に誘いづらいんだよな。
ま、今回は息抜きがてら一人で行きますか。ああ、14型と小っこい羽猫も一緒だな。1ロボと1匹と共に行きますか。
確か村は東だったよな。って、これ、西大門を抜けてぐるーっと帝都を一周して東側にまわっていかないと駄目なのか? さすがに面倒だよ。今の期間なら俺でも東側に入れるし、そのまま東大門を通させて貰えないかな。
うん、物は試しだ。東大門に行ってみよう。
西と東を隔てる壁を抜け(何故か顔パスで通れた)東大門へ。東大門は西と違い閉じられたままだ。さあ、行けるか聞いてみよう。門番さーん。
『すまない、ここを通りたいのだが』
「市民証は持っているか?」
確か、ステータスプレートでも代わりになるんだったよね。
俺はステータスプレート(銀)を門番に見せる。
「確認するぞ」
門番が俺のステータスプレート(銀)を確認する。
「ああ、これでも市民証の代わりになる。ただ、さすがにお前一人のために門を開けることは出来ない」
えー。ここって西みたいに常時開けとくみたいな感じじゃないのね。
「すまないが、兵士用の入り口を通ってくれ」
あ、そういうのはあるのね。まぁ、抜けられるなら、何でもオッケーですよ。
「俺は、このチャンプを案内してくる。見張り頼んだぞ」
門番さんの一人が案内をしてくれるみたいだ。助かるね。
門番さんと一緒に帝都を覆う城壁の中を歩く。東側は西側よりも頑丈に作られている気がするな。
「さあ、ここから外に出られるぞ。中に入る時は、申し訳ないが西側の門から入ってくれ。さすがに1級市民でもないお前の為に東の門を開けることは出来ない」
ふむ。まぁ、東側から出られただけ良しとするか。それに俺の場合は転移で一気に戻れるからね。わざわざ西側にまわらなくても良いのです。ふっふっふ。
じゃあ、リクの村、目指して出発!