3-94 白金貨
―1―
「忠実な従者たる私が! マスターからお金を取るわけがないです」
あ、はい。にしても従者ねぇ。要は荷物持ちとか身の回りの世話をして貰う人って感じなのかな。ま、気にしないことにしよう。後は、と。
「私は食事の必要もありませんし、成長もしないので魔素は必要ありません、マスターにとって、これほど素晴らしい存在はないと思います」
えーっと、「うん、私凄いです」とか言っているけど、なんだろう、どう対応して良いのか分からない。自己アピール、スゴイネ。
と、そうじゃなくて、ここに来た理由を思い出さないと。
『魔獣討伐の大規模レイドクエストの結果を知りたいのだが』
何だろう、この大規模レイドクエストというゲーム的な名前。
「参加者ですね。過酷な戦いお疲れ様でした。3番窓口へどうぞ」
そういえばクエストを受けたのも3番だからね。結果も3番窓口か。じゃ、3番窓口に行きますかね。
「ステータスプレートをお願いします」
俺は3番窓口のお姉さんにステータスプレート(銀)を渡す。それを俺の後ろから興味深そうに眺めている14型。暇なのか。にしてもロボとは思えないよなぁ。中の人が居そうです。
『それと分かるならだが、魔獣との戦争がどうなったかを聞きたい』
「ラン様はEランクの冒険者ですね。Eランクの方へ開示できる情報ですと……」
うお、情報を聞くのにもランクが関係あるのか、マジか。って、当たり前か、いくらギルドに所属していると言っても信用度が低い人間? に、ぽんぽんと情報を教えられる訳がないもんな。
「魔獣討伐は終了。残存している魔獣の掃討を軍が行っている状態です。現在、生き延びた冒険者が帰還中……、ラン様が一番乗りですね」
おふぅ、俺が一番乗りか。にしても生き延びたって言い方がなぁ。戦死者が出たってことだよな……うーむ。
「今回のクエストの報酬のお渡しは8番窓口で行っています。よろしければ8番窓口へどうぞ」
あ、はい。次は8番窓口っと。にしてもたらい回しかと思うくらい窓口を移動することになるね。ホント、冒険者ギルドが空いていて良かったなぁ。
「ステータスプレート、お願いしゃーす」
俺は8番窓口のお姉さんにステータスプレートを渡す。なんだろう、8番窓口のお姉さんだけやさぐれているというか、はすっぱな感じだ。えーっと、耳の穴を掻きほじりながら片手で俺のステータスプレート(銀)を受け取らないでください。きったないなぁ、もう。
「しゃーす」
8番窓口のお姉さんの言葉。俺は思わず隣を見る。えーっと、換金窓口でも隣の7番窓口の女性は――まともだよね。何で、8番窓口だけ、こんな感じなの?
「お、あんた魔獣ぽいのにすげぇな。すげぇ、金額になってるぜ。報酬は、ここで全部受け取るのか?」
あらくれだ、あらくれが、ここにおる。
『あ、ああ。頼む』
「あいよ。じゃ、ちょっくらお金を取ってくるから、そこで待ってな。はぁ、めんど」
ちょ、真面目に仕事をしてください。お金をちょろまかすとか……しないよね? しないよね? こういう窓口のお姉さんが冒険者の個人情報を思わず叫ぶとか、そういうテンプレをやっちゃうんだよね、分かります。にしても、何で、冒険者ギルドはこういう人を雇っているんだろうなぁ。よくわからん。異世界らしいと言えば、異世界らしいのか?
14型が凄い怖い顔で窓口のお姉さんが消えた方を睨んでいる。おおう、気持ちは分かるぜ。
しばらくすると窓口のお姉さんが戻ってきた。
「持ってきたぜ」
ガシャンと窓口にお金が置かれる。う、うむ。
ソルジャーアントの甲殻:2,560円(銅貨4枚)×6=15,360円(銀貨3枚)
ソルジャーアントの顎 :2,560円(銅貨4枚)×6=15,360円(銀貨3枚)
エリートアントの羽 :5,120円(銀貨1枚)×3=15,360円(銀貨3枚)
パーティ報酬:61,440円(小金貨1枚、銀貨4枚)
パーティ獲得GP+464(1379)
女王討伐報酬:122,880円(小金貨3枚)
女王討伐獲得GP+4,800(6,179)
レイドクエスト参加報酬:327,680円(金貨1枚)
特別報酬:2,621,440円(白金貨1枚)
レイドクエスト獲得GP+8,000(14,179)
特別獲得GP+16,000(30,179)
総獲得GP+29,264(30,179)
合計:3148800(白金貨1枚、金貨1枚、小金貨5枚、銀貨5枚)
ふぁっ? 何だ、この金額。それにGPが無茶苦茶沢山増えているんですけど。何だ、コレ、何だコレ。お、俺、帰り道に刺されたりしないよね? うおおお、メチャクチャ嬉しい。やった、戦争に参加した甲斐があったよ、あったよぅ。特別報酬は魔族の撃退分かなぁ。うん、俺、超活躍したもんね。これで家の代金が一発で払えるじゃん。やったー!
「で、芋虫魔獣さんよ、やるのかい?」
窓口のお姉さんが口の端をあげニヤリと笑って、そんなことを言う。やるって、何を? ま、ま、まさか、儲けすぎたから『おだいじん』しろとか言わないですよね、言わないよね?
「何をって、Dランク承認試験しかねえだろ」
うお、そうか。そうだよな。受けるしか無いだろ、受けるよ、受けます。ついに来たかDランク。
「なら3番窓口だな。あんたみたいな如何にもな魔獣でDランクになっているのは居ないからな、楽しみにしてるぜ」
あ、あざーっす。にしても如何にもな魔獣って酷いなぁ。うん? って、ことは魔獣でも冒険者になれるってことなのか? 俺だけじゃなくて? うーん。それともゴブリンやオークみたいな人型の魔獣限定ってコトなんだろうか。よくわからんね。
まぁ、考えても仕方ないし3番窓口に行きますか。
「ステータスプレートをお願いします」
俺は3番窓口のお姉さんにステータスプレート(銀)を渡す。って、だから、何なんだよ、この似たような繰り返し……窓口が多いのも問題があるよね。
「今度はどういったご用件でしょうか?」
どういったって? そんなの決まっているじゃないか!
『Dランクの承認試験を受けたい』
俺の言葉に窓口のお姉さんが、まぁ、と言った感じで口に手を当てる。こちらが、まぁ、だよ。
「分かりました。そうですね、今、用意できる承認試験ですと……」
窓口のお姉さんが2枚の用紙を取り出す。
「まずは帝城の見張り番ですね。こちらは1週間と期間が少しだけ長いものの、それほど危険もありませんし、軍の関係者とも仲良くなれますよ」
ふむ。確かに帝城まで攻められるなんて無いだろうからなぁ。楽な承認試験だね。
「もう一つは、Cランククエストになります」
へ? 普通のCランククエストを攻略することで承認試験にするってこと?
「今あるクエストですとリクの村――これは村長の名前が、そのまま村の名前になっているみたいですね――に現れた人食いオーガ達の討伐ですね」
オーガって、あのオーガですか? 超有名人じゃないですか!
「オーガ自体はDランク相当の魔獣ですが、複数体目撃されていると言うことでCランク扱いになります」
ふむふむ。
「リクの村はこの帝都から東へ1日ほど道なりに進んだところにある、余り大きくない村になります」
へぇ。帝都の近くで、しかも道なりなのに、余り発展していないのか? 普通なら道を通る交易商人達によって発展しそうな気がするんだけどなぁ。
「オススメは帝城の見張り番ですね。どうしますか?」
そんなの決まっているじゃないか! 1週間もちんたらと見張りなんてやってられないね!
『人食いオーガの討伐を受けよう』
「わかりました。では、こちらの手紙を受け取りください」
窓口のお姉さんから丸まって封がされている手紙を受け取る。
「こちらをリクの村の村長に渡せば依頼を受けた冒険者だと信用されるはずです。ええ、あなたの姿でも大丈夫なは……た、多分、大丈夫です」
……ほんとに?
「こちらは承認試験扱いになるので報酬はありません。倒した魔獣に関しては好きにしてもらっても大丈夫です」
あ、報酬は無いんですね。
「後、冒険者に支払われる予定の、村からの依頼金に関してはすでに当ギルドで預かっています。ですので、村で追加の報酬をせびるような真似は絶対にしないでください。冒険者ギルドに所属している冒険者らしい節度ある対応をお願いします」
あ、はい。こっちは報酬無しで依頼を受けるのに、村からの依頼金はギルドに入っているのか。ギルド、丸儲けじゃん。普通のクエストなんだから、承認試験でも報酬をくれてもいいと思うんだけどな。
「あなたが失敗した時に、派遣される上位冒険者の保険代も含まれていますから報酬が無いことは我慢してください」
な、なるほど。そりゃあ、今までEランクの冒険者だったのがCランクという格段に上のクエストを受けるんだから、仕方ないか。
さ、承認試験も受けたし、次はスイロウの里に向かうかな。って、人食いオーガが現れているのに急がなくてもいいのかな?
「まだ目撃されたという程度ですから、それほど急ぐ必要はありません。1週間ほどの期間の余裕を見て貰ってますよ」
な、なるほど。て、ことで、これで心置きなくスイロウの里に行けるな。
2021年5月9日修正
やっちゃんだよね → やっちゃうんだよね