3-92 新築の
―1―
地下室を出る。うーむ、差し込む日差しが目にまぶしいぜ。
俺が外に出ると、ロボメイドもついてくる。む、一緒に来るのか。まぁ、これは、頭の上にいる小っこい羽猫と同じ扱いでいいのかな。
廃墟になった我が家を出て、墓地を抜ける。そして貧民窟へ。
「芋虫来た!」
「やっと来た!」
「待ってたんだよぅ」
「ありがと……」
いつものちびっ子どもが寄ってくる。はいはい、俺は経験値じゃないからね。にしても、あんな襲撃があった後なのに元気だな。ま、なんだろう、変わらなくて良かったって思えるのは……まぁ、アレだ。うん、アレだ。
「な、な、な、なんなんですか。マスター、この小動物はなんですか!」
はいはい、14型ちゃん、小動物扱いは酷いと思うんだぜ。
「なんかいるよ」
「芋虫が何かつれてる」
「変な、かっこう」
俺が連れているワケではなく、勝手についてきているんだけどなぁ。
「マスター。マスターに仕える私が馬鹿にされています。これはひいてはマスターが馬鹿にされているのも同じです」
いや、変な格好って言われただけで馬鹿にはされていないと思うけどな。
「そうですね。私の本気を見せる時が来たようです」
そんなコトを言いながら子どもたちに勝負をしかける14型。あ、子どもと良い勝負だ。なんだろう、小さな子どもと本気の殴り合いを始めるロボメイドって……。当初は、毒舌キャラか! と思ったんだが、アレは強がっていたのだろうか。なんというか、本当に駄メイドですね。
さ、そんな駄メイドは置いて、冒険者ギルドに行きますか。
「にゃ」
おう、小っこい羽猫よ。さあ、行くぞ。
「マスター。マスター、私を置いていかないでください……」
―2―
小さな冒険者ギルドの中はガラガラだった。うん、予想通りだね。
「あ、チャンプ。どうしたのさ」
犬頭のスカイが気さくに話しかけてくる。どうしたもこうしたも、戦争の状況と換金結果を教えて貰いに来たんだよ。
「マスター、置いていくなんて酷いです!」
俺がスカイに天啓を飛ばそうとしたところで、14型がやっとやって来たようだ。随分と遅かったね。
「酷いんですよ、あの小動物たち。私が手加減しているのを良いことに酷いんです」
あー、はいはい。そうね、そうね。
「えーっと、チャンプ。後ろの人は知り合い?」
知り合い……かなぁ。
『戦争の現状と依頼していた換金の結果を知りたいのだが』
俺は14型を無視して話を進める。
「あ、ああ。後ろで凄い騒いでいるけど、その……無視していいのか?」
いいんです。
『頼む』
「分かったよ。たださ、今は東側の冒険者ギルドに行くことをオススメするね。今なら帝国に属する全ての冒険者が自由に出入りできるんだからさ」
あっちの方が仕事が丁寧で早いんだからさー、なんてスカイは言っている。ふむ。ならば、東側に行きますか。
「マスターは芋虫姿だけあって耳が遠いんですね。こんな、かわいそうな私を無視するんですね」
うーん、かわいそうかなぁ。まぁ、適当に騒がしい『ノイズ』くらいに思っておくか。
『わかった。では東側の冒険者ギルドに行ってみよう』
俺は犬頭のスカイに別れの挨拶をして西側の冒険者ギルドを後にする。うーむ。予定よりも時間が早いな、このまま東側に行くよりも、先に建築ギルドに寄ってから行った方が効率的か。
よし、次は建築ギルドだな。
―3―
そのまま建築ギルドへ。
建物の中には、前回と同じように前掛けを付けた前髪ぱっつんな角の生えた少年が居た。えーっと、確か、名前はハウ君だったかな。
「あ、いらっしゃいませ」
前髪ぱっつんな角少年が丁寧なお辞儀とともに挨拶をしてくる。
「なかなか礼儀正しい小動物じゃないですか」
居たのか14型。
『親方に取り次いで欲しいのだが、親方はおられるか?』
「はい。親方なら暇そうにぶらぶらしているだけでしょうから、すぐに呼んできます」
そう言って、ハウ君はさーっと居なくなった。動くの早いね。
14型が俺の頭の上に乗っかっている小っこい羽猫に対して威嚇行動を取っているのをぼーっと眺めていたら、親方がやってきた。
「おう、チャンプじゃねえか」
おう、ラン様だぜ。
「で、家の改築の依頼か?」
いや、違うんだぜ。
『あの襲撃で家が壊れてしまってな。新しく立てて欲しいのだ』
そうなのだ。
「ああ、チャンプよ。そいつは災難だったな」
ホント、災難だよ。俺はあの建物を活かす方向で改築したかったのにさッ!
「おい、あん時の測量結果は残っているよな」
親方がハウ君に呼びかける。ハウ君が懐からそろばんのようなモノを取り出して計算している。うお、そろばんがあるのか? 悪のそろばんとか正義のそろばんとかありますか?
「大雑把な親方だと、小中大で1、8、64が妥当だと思います」
親方が大雑把は余計だ、と呟きながら小僧に拳骨を落としていた。すぐに手が出るのはよろしくないと思います。
「チャンプよ。小さい家なら327,680円(金貨1枚)、中ぐらいの家なら2,621,440円(白金貨1枚)、大きな家なら20,971,520円(白金貨8枚)だ」
小さいのが約32万で、中くらいなら約260万に、大きいのなら約2千万か。うーん。2千万って聞くと大きな家がその程度の金額で建っちゃうの? って思うんだが、なにぶんにも現状の懐具合を考えるとなぁ。というか、白金貨が一番大きな単位なんだね。それ以上が無かったのか――うーむ、新発見だな。って、サイズだよな、サイズ。
「小さいのなら1週間もあれば、中くらいでも2週間あれば建ててみせるぜ。大きいのはちょっと日数を貰わないと無理だな」
さすがに3日後に来てください、みたいなのは無理か。
「後で増築も可能だぜ?」
親方はニヤリと笑い、そんなことを言ってくる。お、そうなのか。それなら悩む理由が減るな。よし、ならば!
『中サイズの家を頼もう』
「分かった。それなら明日からすぐにでも取りかかる」
お、動きが速いね。と、ところでお金はどうしましょう? 後払いとか……駄目かな?
「お金はいつでもいいぜ。完成した時でも大丈夫だ」
え? そんな緩くてもいいの? ラッキーじゃん。
「ま、払えなかった時は俺らがその家を貰うだけだからな」
あ、そういう風になるわけなんですね。
とりあえず、その後、玄関が欲しいとか、厨房が欲しい、現在は地下室に住んでいるので、そこは残して欲しいとか、そういった家の間取りの細々について、親方と話を詰めて終わりになった。
うーし、新しい家、楽しみです。次は東側の冒険者ギルドかな。
2015年8月16日修正
可愛そう → かわいそう
2021年5月9日修正
冒険者ギルドに言ってみよう → 冒険者ギルドに行ってみよう