3-90 14型
―1―
帝都に到着。そのまま皆と別れることになった。その際に、ソード・アハトさんが一つ面白い話をしてくれた。
「ランよ、帝都の近くに蟻の住み処が、ジジジ、小迷宮『女王の黎明』があるのは知っているな」
おうさ、実は女王討伐済みなんだぜ!
「蟻人族は、ジジジ、その中の1人が人種としてランクアップし、仲間を増やしていった種族だと言われているのだ。ジジジ、まぁ、私もただの伝説だと思っていたのだが、お前を見ると、な」
人としてランクアップ? 人化したってこと? いや、でも、ソード・アハトさんって2本足で歩いているだけで、まんま蟻だよね。
「ランも、ジジジ、もしかしたら、その最初の1人かもしれぬな」
ソード・アハトさんは、そう言い残し、ジジジと笑いながら去って行った。ど、ど、ど、どういうコトですか。俺みたいなのがワラワラ増えるんですか。芋虫うじゃうじゃとか悪夢なんですけど。
うーん、人種にランクアップねぇ。今でも普通に生活出来ているからな。まぁ、そうは言っても、ちょっとした苦労はあるけどさ。このままの姿で人種ですって言われるようになっても微妙な感じしかしないなぁ。呼び方、変わっただけじゃん的な、ね。
さーって、俺はどうしましょうかね。ご飯を食べに行くほどお腹も空いてないしなぁ。イーラさん達は換金に向かったみたいだし、ジョアンとキョウのおっちゃんはグリフォンの加工の為に鍛冶士の所に向かったみたいだし……あー、俺もついて行けば良かった。
仕方ない、家に戻りますか。まぁ、家は、家は、家は……もう、無いんだけどさッ! それでも、それでも! 地下室があるから、そこなら風も、夜露も、避けられるだろうしね。ははは、はぁ。
とぼとぼと家に戻ると、俺の家だったモノの前に誰かが居た。うん? 誰だ?
「やっと帰ってきましたか」
そこに居たのはメイド服? ――いや、メイド服にしか見えない格好に身を包んだ少女だった。
ホワイトブリムに黒髪ツインテール、黒のワンピースに白いフリルのついたエプロン……どう見てもメイド服である。あ、ごめん、俺、余りツインテール好きじゃないんだ。と、そうじゃなくて! こ、この世界にもメイド服があったのか? いや、でも、俺、メイドって存在を、この世界で見たことがないんですけど……偶然、似てしまった民族衣装とかなのだろうか? これも異世界の奇跡なのか?
「聞こえてますか? それとも会話を理解するための脳も無いような生物なのですか?」
え、えーと聞こえています。
『う、うむ』
俺の天啓にメイドさんは、ふぅ、と小さなため息をつき、頭に手をやる。む、考える人?
「良かったです。私のマスターが地べたを這うのがお似合いな芋虫だったことには驚きましたが、少しは考え、喋ることが出来る存在だったようですね」
いや、あのう、俺、地べたを這ってません。ちゃんと立って歩いているよ。頑張って立って歩けるようになっているよ。
「まずは自己紹介を。マスターによって起動した私は『14型』、戦闘メイドの一人です」
えっと、えっと、すいません。思考が追いつきません。えーっと、名前は14型って言うのかな? 凄いロボみたいな名前だね。で、バトルメイドって何ですか? それが、あなたのクラスですか? ほんと、この世界がよくわからない。この子、今までの世界観を無視した存在じゃね? この世界……バグっているのか? 俺、夢でも見ているのかなぁ。
「なるほど。マスターは名前も持たないような底辺の存在なのですね」
いやいや、名前くらいはあるから。名乗っている名前がちゃんとありますから! なんで名前が無いってことになっているんだよ。って、あー、俺が、この子の名乗りに返答しなかったからか。
『ランだ。氷嵐の主、ランだ』
「分かりました、マスター。マスターはマスターですね」
……。
ま、いいか。
―2―
「ところで、マスター。マスターはこう言ったモノを他にも持っていませんか?」
そう言ってメイドはエプロン部分をずらしメイド服の胸元を少しだけ開いた。うお、この子は急に何をするんだ……って、うん? これは?
開かれた胸元には、俺が闘技場の地下で見つけた謎のパーツが納まっていた。あー、無くなったと思っていたら、そんなところに……って、なんで?
「このメイド服で上手く見えないように隠していますが、私の体の中身はまだまだ空っぽです。マスターの持っていたパーツ1個では動くのがやっとです」
動くのがやっとという割にはすっごい喋るよね。
「何者かによって、このメイド服の下に隠されていた――私の中のパーツが取られてしまっているようなのです」
へぇ、こっちの世界でも、メイド服って言うんだ。俺は、会話の内容よりも、そこが凄く気になってしまった。うん、仕方ないよね。
「このパーツを取り戻す度に私は真の力を取り戻すことが出来ます。最終的には世界を滅ぼせるくらいにはなるでしょう」
へー。スゴイネ。
俺が適当に相づちを打っていると凄い顔で睨まれた。ロボ子なのに表情が豊かだね。
というかさ、今更だけど、この子って、この14型って子、本当にロボットなんだな。体の中が空洞なのに動いているのは謎だけど、ホント、ロボットだよなぁ。魔道ロボとか、そんな感じの不思議力で動いているのだろうか。
って、この子、まだ胸元を開けたままだよ。
『その……アレだ、胸元は閉じなさい』
14型は、ああ、とゆっくりと胸元を閉じる。
「これは誰にも見せるわけじゃ無いんですからね、マスターだから特別に見せたんですからね。まぁ、マスターは芋虫ですから、見せても痛くもかゆくもない、そういうのもあるんですが」
あ、はい。なんか、もうどうでもいいや。
『ところで、何故、自分がマスターなのだ?』
そうだよ。何でマスターってコトになっているんだ?
「マスターが私を起動したからです」
えー。それいつよ? それいつよ? というか、何で俺が持ってた謎のパーツを持っているのよ。
『何故、我が家の――我が家だったモノの前に居たのだ?』
「マスターと共にアンダースフィアの探索を再開するためです。マスターは耄碌したのですか? 芋虫なので理解が出来ないのですか?」
アンダースフィア? よくわからないな。
『アンダースフィアとは何だ?』
「地下世界です」
地下世界? 地下に世界があるのか?
「ここにちょうど、その入り口があるじゃないですか。それすらも理解出来ないんですか?」
いや、理解って言ってもだね。俺は、この世界のことを何も知らないんだってば。
「マスターは芋虫だけあって、余り物事を知らないみたいですね。仕方ないです。百聞は一見にしかずです。降りましょう」
へ、いやいや、俺、今、おっきな戦いを終えて、長旅から戻ってきて、すっごい疲れてて……って、そうでもないか。別に疲れてないな。
よっし、せっかくだから、探索に行ってみますか。
こういうのもたまには面白いんじゃね?
「早く行きますよ」
メイドさんに誘われて地下室へ。さあ、謎の地下室探索だ!
8月15日修正
そう言ってメイドは胸元を → そう言ってメイドはエプロン部分をずらしメイド服の胸元を
2020年12月13日誤字修正
ホワイトプリム → ホワイトブリム