3-88 魔を導く者達の王
―1―
――《飛翔撃》――
真紅と共に光の三角錐となってホワイトディザスターの下へ。
「な!」
ホワイトディザスターが俺に気付き、驚きの声を上げる。遅いッ!
「目が痛、上手く、見え」
真っ赤なお目々のホワイトディザスター。残念ながら涙目でこちらを視認しきれないようだ。おー、キョウのおっちゃんの謎行動も役に立っているじゃん。
ホワイトディザスターが手に持った死に神の鎌をデタラメに振り回す。構うか、そのまま、貫けッ!
俺と真紅が作った三角錐がホワイトディザスターに刺さる。そのまま、ギリギリと肉を貫こうと削っていく。光る衝撃波が白髪少女に肌を震わせる。って、この白髪少女、人間なのか? 硬い、硬すぎる。まるで金属のカーテンに無理矢理穴を開けようとしているかのようだ。
「ふ、ふざけるなよー!」
ホワイトディザスターが死に神の鎌を真紅へと伸ばす。死に神の鎌と真紅がせめぎ合う。ちっ!
俺は、そのまま吹き飛ばされるが、空中でくるりと姿勢を整え、着地した。うーむ、百点満点な着地だぜ。俺、格好良かったんじゃね? って、風の壁は?
そこに風の壁は――綺麗に風の壁が消えていた。よし、風の壁が消えている。
「この、この、この、ヒトモドキがっ! よ、よくも僕に傷をっ!」
ホワイトディザスターの額から小さな赤い雫が落ちていた。おいおい、アレだけの攻撃をして、あの程度しか傷つかないのかよ。
「おおう、さすがランさんだ!」
「任せてください」
「いくよー」
いつの間にか斧3人がホワイトディザスターを囲んでいた。
ホワイトディザスターが死に神の鎌を振り回す。
「当たらないよ!」
3人が死に神の鎌をくぐり抜け、その懐へ。
「トライアングルアタック」
「トライアングルアタック」
「とらいあんぐるたっく」
3人の声が重なる。いや、1人だけ重なってなかったけども。
3つの斧の旋風がホワイトディザスターを染め上げていく。風が斬られ、吹き飛んでいく。クルクルと回る斧の形をした暴風。
斧の暴風の中から白い手が伸びる。
「調子に……、のおおおぉぉぉぉるぅぅなぁ!!」
白い爆発が起こる。
3人は斧を盾に、後方へと飛び距離を取る。
残されたのは肌に多くの傷を負ったボロボロのホワイトディザスターだった。
「痛い、痛い、痛い。何で、こんな、痛い、痛い、僕が傷を、痛い、痛い」
ホワイトディザスターの動きが止まる。なんだ? なんだ?
……。
「クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、クハハッハハハッハッハハハッハ」
狂ったように笑い出すホワイトディザスター。ちょ、静から動へ急に変わるの止めて、怖いから止めて。
ホワイトディザスターの目がギラギラと輝く。
「その笑い止めてくれよう。ジジジ、次は私の番だ」
笑い続けるホワイトディザスターの前にソード・アハトさんが飛び込む。そこからの流れるような剣技。
ソード・アハトさんから繰り出される剣の煌めきを手に持った死に神の鎌で弾き返すホワイトディザスター。しかし、剣速に負け、剣圧に負け、その手が追いつかなくなっていく。防ぐことが出来る回数が減り、その分、斬り傷を増やしていく。
「ふむ、ジジジ、私の方が前衛のクラスだけあって、後衛のクラスのお前よりも、ジジジ、僅かばかり優れているようだな」
剣の勢いは止まらない。押され、傷を増やしていくホワイトディザスター。
「クソが、クソが、クソが、ヒトモドキが、下等な存在が、まがい物の存在が、僕を、僕を!」
ホワイトディザスターの足下から白い風が立ち上る。白い風は螺旋を描き、白髪少女の体を覆っていく。その白い風に危険を感じたソード・アハトさんが後方へと下がり距離を取る。
先程と同じ、白い風の壁を、竜巻を身に纏ったホワイトディザスター。
「死ね、死ね、死ね、死ね」
そこから放たれる無数の風の刃。それを弾き返すソード・アハトさん達。先程と同じ展開だ。同じ――か。うん、同じなんだよな。確かにさ、完全防御の風の壁に守られて、防ぐことが出来ない貫通する強力な風の刃を飛ばし続ける――下手な武器なら、技量が足りないなら、その風の刃で武器を砕かれる恐れもある。うん、ああ、最強の攻撃方法だろうよ。このままなら、負けてしまう可能性も、全滅の可能性もある。
だけどッ!
その技は、すでに攻略済みだッ!
行くぞッ!
――《飛翔撃》――
俺の体が空へと舞い上がる。そこから真紅と共に、白髪少女の無防備な上空から、一つの彗星となって降り注ぐ。
「な!」
真紅を中心とした光り輝く三角錐がホワイトディザスターを貫く。体を抉り、その異様に硬い体に傷を付けていく。
「な、ぐ、舐めるなよ!」
白髪少女が手に持った鎌を振り払う。俺は真紅と共に後方へと飛び、死に神の鎌を躱して着地する。
そこへ、迫る斧の3人。先程の繰り返しだ。
勝った!
その時だった。
『そこまでにして貰おう』
周囲に激しい言葉が広がる。
ホワイトディザスターの前には、いつの間にか全身に黒よりも深い漆黒の鎧を身に纏った存在が立っていた。
―2―
ホワイトディザスターをかばうように立った漆黒の鎧が三方向から迫る斧を、その漆黒の手で受け止めていた。な、斧を指で挟んで伏せぐ……だと。エクシディオン君は、漆黒鎧の力に負け、斧ごと引きずられている。
「主様……」
ホワイトディザスターの呟き。主? もしかして魔族の王ってこと? 何で急に現れた? 何処から現れたんだ?
漆黒の鎧から光が立ち上がり、斧使いの3人が吹き飛ばされる。
「この武器は壊させて貰う」
漆黒の鎧の言葉と共に奪われていた3つの斧が砕け散る。
そこへと無言で飛び込むソード・アハトさん。しかし、漆黒の鎧の行動は早く、ソード・アハトさんの剣へと、その手が迫る。
「油断しすぎなんだぜ」
キョウのおっちゃんが、ソード・アハトさんしか見ていなかった漆黒の鎧へと青のダガーを投げ付けていた。
「無駄だ」
左手で青のダガーを弾き飛ばし、右手で剣を砕く。そして、そのままソード・アハトさんの腹へと漆黒の小手を付けた拳を叩き付けていた。ソード・アハトさんが吹き飛ぶ。な、何だ? 一体、何が、何で。
「白、ここは自分に任せて撤退するんだ」
「しかし、主様……」
「今、ここで君を失うわけには行かない。幻影体でも、君が逃げるくらいの時間稼ぎは出来るはずだ」
「わ、わかりました」
ひそひそと会話をする2人。へん、字幕で言葉が見える俺には筒抜けだぜ! って、幻影体って何だろう? ここに居る漆黒の鎧は本人じゃなくて、幻だってコトなのかな?
「お前達の顔、覚えましたよ」
白髪少女の言葉が心なしか丁寧だ。さっきまでの病んでる感じじゃないよね。って、さっきの会話の通りなら撤退するんだよな? どうする? この魔族の少女を倒すチャンスと言えばチャンスだ。この漆黒鎧の力は未知数だが、所詮、幻なんだよな? 行けるか? いや、これで帝都の襲撃は防ぐことが出来るんだ、これ以上、欲張る必要は無い。こっちは負傷者沢山だしね。
『逃げるのか?』
俺は天啓を飛ばす。逃げろ、逃げろ。
「むむ?」
漆黒鎧の動きが一瞬だけ止まる。
「逃げるのではない。お前達を皆殺しにするための準備をしに戻るだけですよ」
白髪少女の言葉。おうおう、言うね。知ってる? そういうのって負け惜しみって言うんだよ。
「白、挑発に乗るなよ。早く逃げて」
「あ、すいません。主様」
別に挑発したつもりはないんだけどなぁ。
「さて……」
漆黒の鎧がこちらに向き直る。
「よくも私の可愛い仲間をいたぶってくれたな」
その後ろで白髪少女が「可愛いだなんて……」と呟いていたのは聞かなかったことにしよう。そうしよう。
「ただでは済まさんぞ!!」
漆黒の鎧から響く声。意外と声が高いね。周囲によく響く感じだ。
「白、お前の力を借りるぞ」
「はい、是非」
ふむ。
「さて、君たちは合成魔法というモノを知っているかね?」
漆黒鎧が抱きしめるように手と手を重ね合わせる。そして、その中に生まれていく光と風。ヤバイ、何だろう。凄くヤバイ感じしかしない。
漆黒鎧が光と風を生み出している間に、白髪少女は逃げ出していた。おうおう、風だけあって早いね。って、今は、白髪少女はどうでもいい。逃げるなら逃げればいい。それよりも危険なのは目の前の漆黒鎧だ。
よし、とりあえず魔法を撃たれる前に攻撃しておこう。
――《集中》――
俺はコンポジットボウに鉄の矢を番え、放つ。そんな無防備では攻撃してくださいって言わんばかりだもんね! 俺は相手の出方を待つなんてしないんだぜ!
その瞬間、視界に赤い点が灯った。ちょ、え? 俺は赤い点を回避する。な、何が? 赤い点をなぞるように、俺が放ったはずの鉄の矢が飛んでくる。へ? なんだと? 危なッ! 下手したら自分の矢で死んでたぞ。
「むむ、反射を回避する? 反射は必中だと思ったんだけどなぁ」
漆黒鎧から、そんな言葉が聞こえる。危な。というか、必中って何ですか、必中って。怖いなぁ。
「これから放つのは光と風の合成魔法、ヘリオスフィア」
漆黒鎧から光が広がる。そして、そこから溢れるエネルギー。俺は集中力の増した、ゆっくりとした世界の中でそれを見ていた。これは喰らったらヤバイ。確実に死ぬ。どうする、どうする?
何か手があるはずだ。何か、何か? 光の広がる一瞬の間に、俺は頭を高速回転させて考える。耐える? 無理だ。アイスウォールで防ぐ? 無理だ。その威力を削る事も出来ないだろう。武器で弾く? もっと無理だ、武器ごと消滅する。いや、待てよ。弾く? 反射する?
思い出せ。
『我と汝を写す鏡を前に、水鏡』
青フードの少女の言葉。攻撃を跳ね返していた水の鏡。
【ウォーターミラーの解放条件を達成しました】
謎のシステムメッセージ。ウォーター、水。ミラー、鏡。
水鏡。
これが駄目なら、もう、俺に残された手はない。
いや、出来るはずだ。
『解放』されたのなら使えるはず。
『皆、俺の後ろに!』
俺は急ぎ天啓を飛ばす。
そして漆黒鎧の魔法が完成した。
「私の仲間に傷を付けたことを後悔しながら死んでいけ」
漆黒鎧から膨大なエネルギーが放出される。……今しかないッ!
【[ウォーターミラー]の魔法が発現しました】
――[ウォーターミラー]――
ぞくりと全てのMPを奪われる感覚。それと共に俺の目の前に現れる、まるで鏡のような水の壁。あー、俺の姿ってこんな感じなんだ、と、水鏡に写る自分の姿を見て、何故か、そんなことを、俺は冷静に考えていた。
水鏡が漆黒鎧より生まれた風と光のエネルギーを反射する。よし、出来た、上手くいったッ!
「な、なんだと!」
自分の生んだ魔法によって――光に飲まれ、漆黒鎧の、その姿が消えていく。おっそろしい威力だなぁ。ふぅ、反射出来て良かった。
漆黒鎧が消滅し、コロンと傷ついた小さな木彫りの人形が落ちる。うん? 何だ? 人形?
俺は、それを拾いに行こうとして、そのまま気絶した。ああ、MPが、MPを使いすぎたのか……。
8月12日修正
肌を振るわせる → 肌を震わせる