3-87 飛翔撃
―1―
金色の二重螺旋が竜巻を引き裂いていく。竜巻が、俺を中心に左右へと分かれ、そのまま消滅する。予想通り、属性攻撃で何とかなったぞッ!
テンペスト破れたりッ!
しかし、残った余波がしっかりと俺の体を傷つけていく。痛てて……。まぁ、痛いで済む程度で良かったか。
――[ヒールレイン]――
傷つき倒れている蟻人族の2人も範囲に入るように癒やしの雨を降らせる。いやあ、生き返る。って、MPがとてもキツいです。
その瞬間だった。
【ウォーターミラーの解放条件を達成しました】
視界にシステムメッセージが表示される。ん? 何だ、この解放条件って? ウォーターミラーって何だ? 唐突にシステムメッセージが出るとか驚くじゃないか。でも、スキルや魔法を覚えた感じじゃないな? なんだコレ?
「クヒ、僕の魔法を打ち破るとは……、でも、これならどう?」
ホワイトディザスターの周りを風が廻る。くるくるくると風を纏っていく。やがて、その身がくるくると廻る竜巻のような風に完全に覆われてしまう。何をしているんだ?
「クハ、クヒヒヒ。僕の風の壁、破れるかな」
あの風が防御の役割を果たしているのか? でも、これ、何処かで見たことがあるんだよな……、何だったかな。
「おいおい、どうなっているんだ?」
金のグリフォンを下したイーラさん達が、こちらへと駆けてくる。よっし、これで更に戦力アップだね。
「あれが、あの魔族ですか?」
ウーラさん達が白の嵐に覆われたホワイトディザスターの姿を見て何事かと驚いている。
「旦那、どうするんだぜ?」
ホント、どうしようね。あの風だと弓での攻撃なんて――簡単に矢が弾き返されて終わりだろうしね。
風の壁から何かが射出される。視界に赤い点が灯る。む。
――《集中》――
瞬時の判断で集中を使う。
「ま、任せて!」
ジョアンが盾を構え、俺たちを守るよう前に出る。しかし、赤い点は消えない。周囲を見れば、イーラさん達も斧を盾のように構えて射出された何かを防ごうとしている。って、コレ、不味いんじゃないか?
『防ぐな! 打ち払え!』
俺はとっさに天啓を飛ばす。
「クヒヒヒ、もう遅いよ」
風の向こうからホワイトディザスターの嫌な笑い声が聞こえる。
反応が遅れたジョアンの盾を貫通し、さらに体を貫通し、無数の風の刃が俺に襲いかかってくる。
――《百花繚乱》――
俺はそれら――無数の風の刃を、ホワイトランスによる高速突きで撃ち落としていく。ホワイトランスでの高速突きの途中、その穂からピキリと嫌な音が響く。見れば、ホワイトランスにヒビが入っていた。うおおおぉ、俺の、俺のホワイトランスがッ! って、それも大事だがジョアンは、皆は?
周囲を見回す。キョウのおっちゃんは、何とか間に合ったのか、かすり傷程度だ。イーラさん達は全てを防ぎきれなかったのか、傷つき片膝をついている。そしてジョアンは俯き倒れ込んでいた。お、おい、冗談だろ。
「うーん、芋虫のせいで1匹だけかよ。風は貫通の効果を持っているんだよ? クヒ、クヒヒヒ、防げるかよ!」
俺はジョアンの下に駆け寄り、体に触れる。息はしているな。よし、まだ生きている。ならッ!
周囲の色の付いた靄を一気に吸い込む。『女王の黎明』みたいな色つきの靄の少ない迷宮とかじゃなくて助かったぜ。
――[ヒールレイン]――
ジョアンを中心に癒やしの雨を降らせる。癒やしの雨に打たれたジョアンが意識を取り戻す。
「う、う、うーん、こ、攻撃は?」
大丈夫だ、問題無い。
『ジョアン、お前は下がっているんだ』
「いや、でも!」
ジョアンが食い下がる。
『お前は蟻人族の――負傷者を守ってくれ』
俺にまで届いた風の刃は大分、弱まっていたように感じた。幾ら、貫通の特性があろうと相性の悪い木の属性を持った樹星の大盾の前では、そのまま貫通することが出来なかったのだろう。それがジョアンを救ったとも言える。が、それでも、いや、その程度だから、貫通してくる危険な攻撃を受けろなんて言えるわけがない。
「おいおい、俺を負傷者扱いしていないよな?」
巨大な斧を片手に立ち上がるイーラさん。
「これでもCランクの冒険者だからね」
両手に持った斧を構え直すウーラさん。
「まだ、まーだ、だいじょうぶだよー」
盾のような斧を振り回すエクシディオン君。
「俺も居るんだぜ」
キョウのおっちゃん。
「ジジジ、私もまだ戦える」
仲間から剣と盾を受け取ったソード・アハトさん。
「にゃあ」
俺の頭の上からも元気な泣き声が聞こえる。よし、お前も無事だったか。
「しぶといヒトモドキだよ! まずは回復の魔法を使う芋虫を潰すよ!」
風の壁から再度、無数の風の刃が、しかも、今度は俺目掛けて放出される。ちょ、数が多いんですけど。
「ジジジ、任せて貰おう」
ソード・アハトさんが俺の前に立ち、剣と盾で風の刃を撃ち落としていく。な、早い。残像が見えそうだ。というか、盾も武器みたいに使うのね。
「種が分かれば、ジジジ、この程度」
さっすがー。
「次は俺の番だな!」
「行きます!」
イーラさんとウーラさんが駆け出す。
ウーラさんが空中へ。そのままクルクルと回り、そのままの勢いで両手の斧を振り下ろす。
イーラさんが巨大な斧を水平に構え、そのまま風の壁へと大きく薙ぐ。
しかし、そのどちらの攻撃も風の壁に防がれ、体ごと2人は吹き飛ばされていた。2人とも空中でくるりと体勢を整え、ずさーと滑り着地する。おー、カッコイイ。でも、攻撃は無効化されていたけどね。
「クヒヒヒ、僕の完全無効化をその程度で超えられるとでも?」
風の向こうから嫌な笑い声が聞こえる。
そこへ、キョウのおっちゃんが何かの瓶を投げつけた。
「だから、無効だと、ク、クヒ?」
瓶は風の壁に当たり、何かの液体をまき散らしていた。
「ウ、な、な、何コレ、臭い、目が痛い、涙出る」
キョウのおっちゃんが振り返り、こちらに得意気に親指を立てている。えーっと、何をしたんですか?
「液状の刺激物なら通るかと思ったら予想通りだったんだぜ。ただ殺傷性はないから、ただの嫌がらせなんだぜ」
ちょ、キョウのおっちゃん。得意気だけど、ソレ、火に油を注いだだけだよ! せめて毒ガスとかにしようよ。って、まぁ、毒が白髪少女に効果があるかは分からないし、こちらに流れてきたら危ないから、やっぱ無理か。って、おい、キョウのおっちゃん。エクシディオン君も刺激物にやられて涙目になっているぞ。ちょ、あんた、要らんコトしただけなんじゃないか?
「ゆ、ゆるさんぞー! うう、まだ痛いよ」
その声からもホワイトディザスターが怒り狂っているコトが分かる。
そして、次々と飛ばされる風の刃。その数は先程までと比べて段違いに多く、ソード・アハトさん1人では捌ききれない。キョウのおっちゃん、ウーラさんも撃ち落としに参加する。って、完全に後手じゃないか。
風の刃が止む気配はない。これ3人の体力が尽きたら終わりだぞ。どうする、どうする。
って、あ。
思い出した。俺は、打開策を知っている。それに打開するための手段も手に入れたばかりだ。そうだ、見たことあるよ。これ、見たことあるよ。この竜巻のような全てを防ぐ風の壁。
やることは一つしか無い!
――《飛翔》――
俺は空高く、舞い上がる。空から、ホワイトディザスターを、風の壁を、竜巻を見る。
予想通りだッ!
上は、がら空きじゃないかッ!
俺は空中で真紅を構える。このまま落下の勢いで貫いてやるッ!
【オリジナルスキル《飛翔撃》が開花しました】
オリジナルスキル? 何だ? いや、気にするな。このまま貫くッ!
真紅を中心に金のオーラが立ち上がる。
俺と真紅は一つの三角錐となって無防備なホワイトディザスターに迫る。
「な!」
ホワイトディザスターが俺に気付き、驚きの声を上げる。遅いッ!
そのまま真紅がホワイトディザスターを貫いた。