3-86 風属性
―1―
俺は他のメンバーを見回す。
イーラさんチームは、まだ金のグリフォンと戦っている。が、慣れたコンビネーションで危なげなく戦っていた。うーむ、フォローしなくても、もうすぐ勝てそうだな。
ソード・アハトさんは、4つの剣を巧みに使いこなし羽の生えた白い虎を追い詰めている。4つの盾を装備した蟻人族さんが全ての攻撃を一手に引き受け――何なんだよ、全盾とか意味が分からないんですけど、どうやって攻撃するんだ――もう1人が剣と盾を上手く使いこなして戦っている。おー、こっちも刈り取る側だね。うむ、にしても俺が魔族への一番乗りか。
そんな戦いを、羽の生えた白い虎から降りたホワイトディザスターがニヤニヤと嫌な笑いを――その顔に貼り付けながら見ていた。さ、その白髪少女の嫌な笑顔を凍らせてきますかね。
俺は白髪少女へ向かう。
「おーっと、その芋虫型モドキ、止まれよ。僕と戦うつもりかい? お前たちだけで? 他のメンバーの戦いが終わるまで待ってもいいんだよ?」
俺は白髪少女の言葉に足を止める。ふん、待ってくれるというのならば、こちらが有利になるように皆の戦いが終わるまで待つか。このまま待てば9vs1になるんだぜ?
俺と白髪少女が向かい合う。俺の後ろにはキョウのおっちゃんとジョアン。頼もしい限りだぜ。
『何故、帝都を襲う』
俺の天啓に白髪少女の笑顔が凍る。
「お前……星獣か。いや、お前たちには星獣様と言わないと通じないんだよな」
うん? ううん?
『星獣を知っているのか?』
白髪少女の表情が凍った顔から驚いた顔に変わる。
「お前……まさか、星獣で通じるのかよ? いや、クヒヒヒ、そんな訳がないよな」
むう。ま、会話での時間稼ぎはこれくらいでいいか。そろそろ、イーラさんチームも、ソード・アハトさんチームの戦闘も終わりそうか。
『何故、帝都を襲う』
だめ押しにもう一度聞いてみる。
「クヒヒヒヒ、クハハッハハ、この狂った世界を正す為だよ」
正す? どういうことだ? 白髪少女は狂ったように笑っていた。
「そ、そんなことのために!」
ジョアン少年が猛る。
「黙れ! ヒトモドキが僕の会話に割り込むなよッ!」
怒りをあらわに、白髪少女が手を水平に薙ぐ。
「ほう。ジジジ、では、私の武器で割り込ませて貰おうかっ!」
そこへ、白い虎との戦いを終えたソード・アハトさんが斬りかかった!
―2―
白髪少女はソード・アハトさんの鋭い一撃をするりと回避する。
「クヒヒヒ、不意打ちとは、さすがヒトモドキは汚い、汚いよ」
ソード・アハトさんの鋭い一撃を次々と回避していく。回避していると言うよりも磁石の同極同士のように体が剣から弾かれている感じだ。何かのスキルか?
「僕も武器が必要だよね」
白髪少女が右手をかざす。
「テンペスト!」
白髪少女の叫び声と共に右手に柄の長い真っ白な鎌が現れる。死に神の鎌か? まるで命を刈り取りそうな形だ。テンペストって武器の名前なのかな? それとも召喚技の名前だろうか?
白髪少女が手に持った死に神の鎌をクルクルと器用に回している。
白髪少女の、そんな行動など、お構いなく攻撃を続けるソード・アハトさん。俺から見ると達人の技なんだが、それでも白髪少女には攻撃が当たらないのか。
回避方向を塞ぐようにもう1人の剣持ちの蟻人族さんが立ち塞がる。
「クッ、よ、クヒ」
白髪少女が回避しきれなくなり、死に神の鎌で攻撃を受けるようになる。お、このまま押し切れそう。あれ? これ、俺、居なくてもいいんじゃね?
「このクソがぁぁ! 僕の大切なペットを殺しただけでなく、ここまで僕を追い詰めるかよ!」
白髪少女がニヤニヤと笑いながら叫ぶ。え? 顔と台詞が合ってないんですけど。
「なーんて、ね」
白髪少女が死に神の鎌を大きく振り払い、そのままバック転をして俺たちから大きく距離を取る。うーん、戦闘のレベルが高くて割り込めないんですけどー。もうちょっとレベルを落としてもいいんじゃないかな。
「そこの蟻姿のヒトモドキモドキさんよ、随分と剣の扱いに自身があるようだけど――僕には届かなかったね」
白髪少女がクヒヒヒと嫌な笑い声を上げている。
「ジジジ、それはまだ分からないと思うのだが?」
「いや、分かっているのよ」
白髪少女の周りに無数の白い風の刃が生まれる。
「まずは中級魔法かな?」
風の刃がソード・アハトさん達を襲う。
ソード・アハトさんが4つの剣を巧みに使い、風の刃を撃ち落としていく。
「ほうほう、僕の魔法を撃ち落とすなんて、魔法の武器かな?」
「ジジジ、この程度の魔法、この程度の速度、私の剣ならば余裕で斬れる!」
白髪少女はソード・アハトさんの言葉を聞いても嫌な笑みを張り付かせたままだ。
「この程度ね。僕からすると、その程度の武器で僕の魔法が防げると思っている方がおめでたいと思うよ」
「ジジジ、何を?」
その瞬間、ソード・アハトさんの剣が全て砕け散った。え? 魔法の武器だよね? 勿体ない! って、それどころじゃない!
更に、ソード・アハトさんと連携していた2人の蟻人族さんも体を無数の刃に斬り刻まれ倒れる。って? え?
「僕たちは魔を導く、真の魔法の使い手だからね。その魔法を防げると思う方がおめでたいよ、クヒヒヒヒ」
辺りに白髪少女の嫌な笑い声が響く。
「蟻さん、蟻さん、ヒトモドキさん。剣の腕はなかなかみたいですけど、魔法使いに剣技で勝って嬉しいですか? 魔法が主力の魔法使いに通じない程度の剣の技を自慢して嬉しいですか? ねぇ、今、どんな気持ち? クヒヒヒヒヒ」
ソード・アハトさんが砕け散った剣を呆然と見ている。
「もういい、死ね」
白髪少女の下に竜巻が生まれる。全てを飲み込む竜巻が、周囲のモノを砕き、その身を巻き上げながら、こちらへと迫ってくる。って、ヤバイ。
「風の上級魔法、トルネード。お前達、ヒトモドキには過ぎた魔法だよ」
ソード・アハトさんは動かない。って、あんなモノがこっちまで来たら――全滅だ! どうする、どうする?
いや、ここは俺の出番だろッ!
――《集中》――
まずは集中しろッ!
――[アイスウォール]――
竜巻の進行方向に氷の壁を張る。氷の壁は竜巻に巻き込まれ、吸収され青い光となって消えた。うん? なんだ?
「ら、ラン、僕が防ぐ」
ジョアンが前に出ようとするのを、俺は手で遮る。
『まだ、ジョアンの出番ではない』
――[アイスウォール]――
もう1枚、氷の壁を張る。今回も同じように竜巻に吸収され青い光となって消える。やはり同じか。氷の壁は水と風の合成魔法だったよな。何で、水の『青色』だけ残るんだ?
次に俺は適当な石をサイドアーム・ナラカで拾い、竜巻に投げてみる。投げた石は竜巻に巻き込まれるワケではなく、そのまま砕け散った。おお、怖い怖い。
「なにをしている?」
白髪少女は無表情のまま、こちらを見ている。
――[アシッドウェポン]――
ホワイトランスが酸に覆われる。
俺は考える。火の魔法で燃えるという結果は残せる。が、魔法自体は火属性の攻撃でしかない。多分、それがこの世界の法則なんだと思う。燃えるってのも、そういう『結果を残す』魔法だからなんじゃないだろうか。
この攻撃も竜巻みたいに見えるが、実際に竜巻というワケではなく、そう見える『風属性』の魔法でしかないのでは、と思う。
氷の壁は水と風の属性。同じ属性同士だと、どう反応するか分からないが、確か、風は水に強いんだよな。だから、水属性が消滅する青い光だけ残るんだよな?
つまり、だッ!
風属性に強い金の属性ならアレを弾けるんじゃないか?
俺の手には、金の属性を持ったであろう、持ち手部分に、金色に輝くうねうね動く蜘蛛足の付いた真紅、金の属性を付与したホワイトランス、その二つがある。
いけるか? いや、打ち返してやる。
俺たちの目の前に迫る竜巻。
俺は駆け出し、竜巻の前へ。
喰らえッ!!
――《Wスパイラルチャージ》――