2-14 巨人
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目の前に居るのは巨人だよ……な。息を整え、改めて目の前の巨人を見る。
手に大きな棍棒……いや、ただの丸太か(吸血鬼退治の最強武器じゃないか)を持ち、薄汚い腰蓑だけを着けた顔色の悪い髭もじゃの巨大なおっさんだ。
「ガアアアァァァ」
そんな巨人がこちらの身が竦むような雄叫びをあげる。
「ランさん、動けますか? ここは僕がなんとかします。逃げてくださいっ!」
そう言うが早いか、ウーラさんは両手に片刃の斧を持ち巨人へ駆けていく。逃げろって何処へよ。
ウーラさんが両方の斧を持ち上げる。手に持った斧が光り輝く。
右の斧を振り下ろす。ズドンといった音ともに衝撃波がこちらまで響いてくる。そのまま左の斧も振り下ろす。二つの斧の衝撃波が巨人の身体に大きな傷を付けていく。すげぇ、単純に凄いと言う言葉しか出てこない。これがスキルの力……か。もうね、このまま倒しちゃうんじゃね?
「ランさん、早く……くっ」
巨人が痛みに耐えかねたのか大きな腕を振り回し暴れ回る。振り回された丸太を両手で前に構えた斧で防ぐ。が、防ぎきれずそのまま吹っ飛ばされる。あー、俺が吹っ飛ばされたのコレかーって落ち着いて見ている場合かっ!?
吹っ飛ばされたウーラさんは空中でくるりっと一回転、体勢を整えそのまま、ずさーっと滑りながら綺麗に着地する。……か、かっこいい。
着地したウーラさん目掛けて巨人が丸太を振り回しながら走ってくる。ウーラさんは左手に持った斧を投げつける。斧は顔に命中、巨人の動きが止まる。
……この隙に逃げるべき、か!? ウーラさんの強さなら、このまま巨人を倒してしまいそうだが、一杯一杯にも見える。
巨人は顔に刺さっていた斧を取り、投げ捨てる。最初に付けた身体の傷はもう見えなくなっていた。ふぅ、逃げる機会をのがしてしまったか……って、すでに腹は決めていたんですけどね。
-<糸を吐く>-
サイズ的に巨人を絡め取ることは難しい、ならば狙うは一つッ!
俺の飛ばした魔法糸が巨人の目に刺さる。はっはー、糸でも勢いがあれば目くらい潰せるぜ。巨人が痛みに耐えきれなかったのか、両手で顔を覆っている。それに併せて手に持った丸太も落としている。
「ランさん、無理ですっ! フォレストジャイアントは、あなたがまだ相手できる魔獣じゃないっ!」
『ウーラ殿、今の間に武器をッ!』
俺の言葉にウーラさんが気付き、そのまま投げ捨てられた片手斧を取りに走る。
俺は巨人の前に立つ。さあ、かかってきな木偶の坊。ウーラさんがお前を倒してくれるぜッ!!
覆っていた手を取り、巨人がこちらを睨む。
「ガガウ、ムシ、タベテイヤス、ガガ」
へ、食べられてたまるかっての。
-<糸を吐く>-
俺は木に魔法糸をくっつけ、そのまま木の上に。あばよ、とっつぁん。
巨人は木の上に上がった俺を見て地団駄を踏んでいる。可愛いヤツめ。はっはっはー、悔しかったら、ここまで来てみろってんだ。
ウーラさんが斧を拾ったのを確認。良しっ。
「ガアアアアァァァァ」
巨人の咆哮。咆哮に木が揺さぶられる。身体の動きが止まる。や、ば、い。身体が木から滑り落ち……ないッ!
-<浮遊>-
ばーか、ばーか、ばーか。俺は浮遊を使い木の上に戻る。そしてこちらに気を取られていた巨人の背後には、すでに両手に斧を持ったウーラさんがッ!
ウーラさんは斧を振り上げたまま巨人の頭上よりも高く飛び上がる。そのままの勢いで巨人の頭に斧を振り下ろす。そのまま空中で一回転、もう一度、斧を振り下ろす。更にもう一回転、斧が凄まじい勢いで巨人の頭を打ち砕く。
巨人が膝を折り、そのまま崩れ落ちる。
か、勝った。勝ったぞーッ! って、まぁ、殆どウーラさんが持って行ったんですけどね。ウーラさんが居なかったらやばかったぁ。というか、アレがジャイアントクロウラーを主食としているフォレストジャイアントか……いつかはアレに勝てるようになるのかなぁ。
-2-
「ランさんっ!」
ウーラさんが怒っている。
「何で逃げなかったんですかっ! フォレストジャイアントはCランクの冒険者でも一人では勝てるかどうか分からないレベルの魔獣なんですよ!」
それくらい強かったのか……。
「今回、生き残れたから良かったようなものの死んでいた可能性だってあるんですよ!」
ま、そりゃ、怒るかな。今回、たまたま<浮遊>スキルを使えるようになっていたから良かったけど、あのまま木から落とされていたら死んでいたかもしれないしね。
『すまない……』
「反省してくれているなら良いです。冒険者は生き残るのが第一です。それを一番に考えてください」
『わかった』
ウーラさんが大きく息を吐く。
「ふぅ、とはいえお疲れ様でした。ランさんのおかげで僕も生き延びることが出来ました。ありがとうございます」
ホント、ウーラさん良い人だわぁ。
俺はステータスプレートを見てみる。SPが120まで減っていた。それも今はゆっくり回復している。最初に吹き飛ばされた分か……。
当たり前だけど経験値も、MSPも増えてない。倒したのウーラさんだしね。
そのウーラさんはフォレストジャイアントから魔石を取り出していた。
「そういえば、ランさんは毎回、魔法のポーチからステータスプレートを取り出していますね」
うん? 大事な物だしね。
『取られたり、無くすのが怖いのでな……』
「あー、なるほど。ランさんは心配性なんですね。ステータスプレートを盗まれることは余り考えなくても良いと思います。盗んだステータスプレートには履歴に盗まれたことが残るので、ギルドですぐにばれてしまいます。そうなったらギルド施設が利用できなくなるので盗むようなことを考える人は、普通居ませんね」
え、そうなの?
「ステータスプレートは確認することも多いので、首から提げる人が多いですね」
確かに……、毎回ポーチから取り出すの億劫だったもんね。俺も首から提げることにしよう。
「ランさん、フォレストジャイアントの素材は山分けしましょう」
ウーラさんの提案。俺は首を横に振る。
『有り難い申し出だが、それはウーラ殿が全て貰ってくれ。自分は何もしていない。倒したのはウーラ殿だ』
これは貰えないよねー。
「さあ、今度こそ里に帰りましょうっ!」
俺は頷く。
『自分はこのまま宿に帰ろうと思う。ウーラ殿は?』
「僕は換金所に寄ってから帰ります」
ああ、換金所か……。疲れたし、明日、明日。ギルドも明日行こう。
『ギルドは明日でも良いのだろうか?』
一応聞いておく。
「期間限定クエストでは無いので……多分、大丈夫ですね」
なるほどね。
今度こそ、終わった。
さあ、里に帰ろう。
ああ、今にも降ってきそうな月がとても綺麗だ。