3-84 魔族戦
―1―
「りゅ、竜馬車で行こう」
ジョアン少年の言葉で竜馬車に乗って峠まで行くことに。あー、確かに走るよりも楽だからね。それにジョアン少年の移動速度に合わせるのも――うん、これは仕方ないね。で、それは何処で手に入れるのかね。
「ま、待っててくれよ、家から取ってくる」
うお、ジョアン少年ってば、マイカー持ちですか。そ、そりゃ、剣聖の孫だもんね。自家用の竜馬車くらいあるか、あるんだよね……う、羨ましくなんて無いんだからね!
「じゃ、俺もちょっと準備してくるんだぜ」
キョウのおっちゃんも何処かに行くようだ。って、俺、一人で待つの? えー? うーん、どうしよう。
そういえば最近、武器の手入れも行っていないし、この待ち時間の間に、俺も色々と行っちゃおうかなぁ。と言っても、合流時間の決まっていない、今の間に転移でスイロウの里に帰るのは、さすがに無しだと思うしなぁ。
うーん、迷うなぁ。
そんなこんなで色々考えている間に、キョウのおっちゃんも、竜馬車に乗ったジョアン少年も戻ってきた。
竜馬車は小さいながらも屋根付きで休むことが出来なそうな造りだ。2本足の竜も心なしか力強い感じがする。
「さあ、出発なんだぜ」
何故かキョウのおっちゃんが仕切っている。まぁ、いいけどさ。さあ、出発だ。
キョウのおっちゃんとジョアン少年が交代で竜馬車を走らせる。竜馬車の竜が疲れない? 二人は交代だからいいけどさ、竜は休み無しで走らせ続けているよね。疲れてダウンしちゃったら大変なんじゃない?
「急いでいるから仕方ないんだぜ。目的地に着いたらしっかりと休ませてやるんだぜ」
まぁ、御者台に立たない――2本足の竜を操ることが出来ない俺が言えることじゃないけどさ。
さあて、魔族連中より早く着くといいなぁ。というか、予想が外れてないといいなぁ。ここまで確定事項って感じで動いているけどさ、これで大外れだったら洒落にならないよなぁ。
―2―
やがて峠へと入る道が見えてきた。おうおう、山の半分が崩れているじゃないか。これ、峠道を進むのも困難じゃないか? こんなのに巻き込まれて、俺ってばよく生きていたよね。
「ここから竜馬車は無理なんだぜ」
そりゃね、道がないから仕方ないね。で、どうしよう? 魔族はまだ来ていないみたいだけど、何処で待つべき何だろうか。峠道の中へ入るべきなのか?
竜馬車から降り、どうするか思案している俺たちに、近くから声が掛かった。
「ジジジ、まさか、その姿、ランか?」
峠道の入り口近く、その茂みから武装した蟻人族たちが現れた。うん? ランですが?
「ふむ。ジジジ、もう忘れたのか、私だ」
えーっと、蟻人族の姿って皆、同じに見えるからなぁ。って、まぁ、俺の知っている蟻人族なんて1人しか居ないけどさ。一応、鑑定しておくかな? 線の先に、その人の名前も見えたらいいのにね。種族名しか分からないからなぁ。
【名前:ソード・アハト】
【種族:蟻人族】
それは二人の部下を引き連れた蟻人族のソード・アハトさん達だった。あったりー。って、そりゃそうか。
『ソード・アハト殿、何故、こちらに?』
「ふむ。ジジジ、ランと同じだと思うが、魔族を待ち構えているのだ」
そういえば、ソード・アハトさんって帝国の軍人さんだったな。帝国の軍人さんもここに本隊が来るって予想を立てているワケね。いやあ、俺の思い込みではなくなりそうで、ホッとしたよ。
「第三部隊は便利屋なのでな。ジジジ、このような保険に回されるのだ」
そうそう、帝国の第三部隊に所属しているんだよね。そういえば、第三部隊ってどんな役目の部隊なんだろうか。便利屋って言うくらいだから下っ端みたいな感じなのかなぁ。って、保険と言いましたか。ここはあくまで保険なのかよ……。空振りだったら恥ずかしいなぁ。
「そういえば、ジジジ、ランは闘技場のチャンプになったとか。聞いているぞ」
う、うむ。何だろう、余り良い感じで伝わっていない気がする。
「ランはお爺ちゃんから剣を貰うほどなんだぞ!」
「ほう、剣聖殿か。ジジジ、それは凄いな」
そんな感じでソード・アハトさん達と野営の準備をしながら旧交をあたためているとウーラさん達もやってきた。おっそいじゃん。俺らの方が早かったね。
「な、何で、ランさん達が先に?」
「えー、僕たち、寝ずにはしってきたんだよー」
ふふふ、すまんな。
『皆、疲れていると思う。ここで体を休めて魔族との戦いに備えよう』
皆が頷く。
「ふむ。ジジジ、ではもっとも疲労が少ない私たちが見張りをしよう」
蟻人族の方々が見張りをしてくれるのか。助かる。じゃ、お言葉に甘えて、ゆっくりしますか。人も多いし、キャンプみたいで楽しいんだぜ。保存食もばりばり、もしゃもしゃやっちゃうんだぜ。
―3―
そして魔族がやってきた。
最初に現れたのは銀の翼を持つグリフォンと金の翼を持つグリフォンの2頭。
その2頭を従える翼の生えた白い虎。そして、それに騎乗する女性。体を横に向けた女の子座りですよ。そんな格好で虎に騎乗して、滑り落ちないのか?
白く長い髪を持ち、パレオを付けたビキニ姿の女性だ。えーっと、これから海にでも行くのかな? 寒くないのかな? もしかして、この少女が魔族? ……レッドカノンでは無かったか。
「そこに隠れているヒトモドキ。僕には見えているぞ」
白髪の少女から大きな声が発せられる。あー、僕っ娘なんすね。にしてもビキニ姿で僕っ娘はどうなんですかね。キャラがぶれてませんかね。って、まぁ、そんなどうでも良いことに突っ込んでもしょうが無いか。
「ジジジ、予想通り魔族か」
ソード・アハトさんを先頭に、俺たちは姿を見せた。
「ククク、雑魚の登場だね」
白髪の少女が笑っている――なんというか、壊れた笑い方だ。
「それにしても僕がここを通ると、よく気付いたな。ホント、水と土も使えないな!」
水と土?
「やれやれ、ジジジ。何故、気付いた……か? 最初に帝都を襲撃したのが不味かったな。襲ってきた魔獣のルートを探し、ジジジ、そこから魔獣の集団が陽動だと言うことも導き出されたのだよ」
なるほどね。
「な、なんだと!」
白髪の少女が真剣に驚いている。
「……いや、僕の失敗じゃない。大丈夫だ、まだ大丈夫だ。クク、ここでこのヒトモドキを殲滅して、帝都を襲撃すれば結果は同じだ! ククク、クク、クハハハッハ」
白髪の少女の目が光る。
「死ね」
さあ、戦闘の開始だ!




