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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略

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3-82  おとり

―1―


 翌朝、雨は止んでいた。いやぁ、にしても肌寒いねぇ。俺が人だったら、ぶるぶると震えちゃいそうな寒さだよね。帝都って結構、寒いんだよなぁ。時期的なモノなのか、それともそういう気候なのか、ちょっと判断がつかないよね。まぁ、俺は寒くても、寒いと感じるだけで特に何の障害も受けないんですけどね。虫って寒さに弱そうなイメージなんだけどなぁ、それとも俺の種族が特殊なんだろうか。


 うっし、出陣には時間があるようだし、飛翔スキルの使い勝手を確認しておくか。いきなり実戦で使うことほど怖いことはないからな。


 えーっと、自由に空を飛び回れるスキルなんだよな。となると小っこい羽猫を乗せたままだと危ないか。はい、降りてください。

 俺は小っこい羽猫を頭から降ろす。


 さあ、空飛ぶ芋虫の発進だ。まさか、蝶に進化するとかではなく、そのままの姿で空を飛ぶことになるとはな。さすがは異世界だぜ。とりあえず、空へ上昇してみるか。


――《飛翔》――


 一瞬にして視界が白く染まる。気付いた時には俺の体は遙か雲の上にあった。へ? 何コレ? って、空、雲、あれ? 宇宙? え、あ、あれ?

 俺の体が落下を始める。ちょ、え? え? 俺は空を泳ぐように手を必死に動かす。いや、死ぬ、死ぬ。これ、地面に叩き付けられて死ぬ。どうする、どうする。何だよ、何なんだ、このスキル。空を飛べるって、飛ぶんじゃなくて『打ち上げられた』じゃないかよ!

 そ、そうだ、飛べるなら、飛んでゆっくりと着陸すれば……まだ時間は、8秒経っていないはずッ!

 視界が真っ白に染まり、気付いた時には地面が迫っていた。うおおおぉぉぉッ! どうする、どうする。地面に叩き付けられて死ぬぞ。死ぬ、死が……。


――《浮遊》――


 浮遊スキルを使い体を浮かせる。そのままふわりと地面に着地する。はぁはぁはぁ、死ぬ。

 飛翔スキルの説明はどうなっていた?


【《飛翔》スキル:8秒だけ空中を自由に高速移動できる】


 確か、こうだったよな? って、『高速移動』? ま、まさか、これか! って、おい、高速移動って知覚出来ないほどの高速かよ。ばっかじゃないの、このスキル馬鹿じゃないの。こんなん使い物になるかよ。おかしいだろ。


 ……。


 ……いや。


 いや、使いこなすべきだよな。使いこなせれば、大きなメリットになるスキルだ。何とかして、何とかしないと。


 よ、よし、まずは練習だ。反復練習が大事だよな。


 飛翔の再使用時間は30分か。意外と長い、いや、短いのか。これも熟練度を上げれば再使用時間が短くなりそうだけどね。と言っても、そんなに何度も使う機会があるのかって話だよなぁ。

 とりあえずの使い道としてはちょっとだけ上昇することを意識して空に上がり、そのままスピアバーストを使うって方法かな。ちょっとだけ空を飛ぶことを意識しても、骨折しそうなくらいは高く上がるからなぁ。いや、まぁ、俺に骨折するような足はないけどさ。

 後は槍を構えて高速突進するくらいか……。何だろう、空を飛ぶスキルとは思えない使い方なんですけど。ま、まぁ、有効活用できる算段が見つかったってコトで良しとしよう。


「旦那、そこに居たのか。もうすぐ出発なんだぜ」

 あ、キョウのおっちゃん。もう、そんな時間か。

「旦那はいつも朝早いねぇ。いつ休んでいるんだぜ」

 そう言えば、考えたことなかったな。この体になってから、余り睡眠を必要としないし、疲れない感じがするんだよなぁ。いや、でも眠くなるし、疲れる時もあるから――気のせいか。うん、気のせいだな。


 さあ、今日も戦いに行きますか。




―2―


 ばしゃばしゃと水たまりをかき分け冒険者たちが駆け出す。


 たどり着いた平原は、その姿を変えていた。


 平原が水に沈んでいる。湿地帯? なんだコレ? 水はけが悪いのかな? 畑にでも出来そうなほど綺麗な平原なのに、何で放置されていたのか不思議だったんだよなぁ。もしかして、これが理由なのか? いやまぁ、農業のことはよくわからないから間違っているかもしれないけどさ。


 水に沈んだ平原の中、大人しく待っている魔獣達。足下、沈んでますよ。というか、こいつらって食事とか睡眠とか取っているのか? ここにずーっと居てさ、キツくないの? 何だろう、凄い使い捨て臭がするんだよなぁ。いや、でも使い捨てにするにしても8千もの魔獣なんて、勿体なくないんだろうか。というか、それだけの数に死ねって命令しているんだよな、恐ろしいなぁ。って、ちょっと待て、それってどういうことだ? 何でそんなことをするんだ?


 あ、もしかして。いや、でも、そうとしか考えられないよな。


 もしかして、これ全部、囮なのか? でも、そう考えると辻褄が合うよな。本隊が別にいるってことだよな。いや、もうね、そうだと思ったら、その可能性しか考えられなくなったよ。よし、ちょっと、アーラさんと相談しよう。


 バシャバシャと水をかき分けながら走っているアーラさんに追いつく。

『少し良いだろうか?』

 アーラさんは一瞬こちらを見、すぐに正面を向く。その後、すぐに驚いた顔でこちらを見た。何だ、芋虫的存在に驚いているのか?

「いつの間に?」

 いや、今、さっきですよ。

『ところでよろしいか?』

 アーラさんがゆっくりと頷く。

『この魔獣たち――囮だと思うのだが』

 アーラさんが駆けながら腕を組み一瞬だけ考え込む。

「確かに、そうかもしれん」

 そうそう。

「だがな、『かも』では動けんのだよ。それを考えるのは軍の役目だ。我々の仕事は、好きに戦い、数を減らすことだ!」

 いや、そうじゃないだろう。もし、別働隊が居て、帝都に迫っていたらどうするんだ? 駄目じゃん。むうむうむぅ。仕方ないなぁ。

『好きに戦うと言ったな。ならば自分も好きに戦わせて貰う』

 可能性があるなら、潰しておくべきだ。いいよ、俺一人で行くぜ。もし、俺の思い違いだったなら、俺一人の損失で済むわけだしな!

「いや、待て」

 このまま冒険者達の集団から外れようとした俺にアーラさんの制止がかかる。もう、何だよ。止めても無駄だからね。

「イーラ、ウーラ、エクシディオン居るな」

 アーラさんが大きな声で呼びかける。うん?


「おう」

「ええ」

「はーい」


 すぐ後ろから3人の声が聞こえる。

「その……ランさんについて行ってやれ」

 へ?

「私のクランの実力者だ。助けになると思う」

 マジで? それは確かにすっごい助かるけど、本当にいいの?

「ああ、よろしく頼む」

 うん、助かる。


「と、旦那ー。俺も行くんだぜ」

 やっと俺らに追いついてきたキョウのおっちゃんからも声がかかる。あ、ごめん、存在を忘れていた。

「にゃあ」

 頭の上の小っこい羽猫も俺も居るぜと言わんばかりに一声鳴く。おう、お前も頼むぜ。


 じゃ、別働隊の探索に行きますか!

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