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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略
194/999

3-79  識別布

―1―


 周りは魔獣だらけだ。むう、これは目に付いた魔獣から倒していくしかないか……。ホント、戦術も何もあったものじゃない。って、あれ? 周囲の冒険者たちの右腕から青い炎が出ているぞ。何だろう、さっきまでは――戦闘に入るまでは出ていなかったよね。うーん、気になる。気になるけど、それどころじゃないか。うむ、俺は俺で気にせず各個撃破だ。


――《W百花繚乱》――


 真紅とホワイトランスが高速の突きを繰り返していく。サイドアーム・ナラカとサイドアーム・アマラの二つにスキルを任せてそのまま前進していく。目の前に居る魔獣たちを削りながら歩いて行く。はっはっは、前を開けたまへ。ゴブリンに狼モドキに……と、余り強そうな魔獣は居ないな。

 そんな感じで余裕を持って進んでいた俺の視界に右からの赤い線が走る。危険感知スキルの効果によって攻撃に気付いた俺はとっさに左へ大きく避ける。避けた先にはゴブリンが――ゴブリンはその手に持った棍棒で殴りかかってくる。俺はそれを真紅で打ち払い、そのままホワイトランスを突き刺し、絶命させる。そして、先程、俺が居た場所をロングソードが通り過ぎる。見れば冒険者の一人がロングソードを使い、周囲を大きく斬り払っていた。あぶな、危ないぞ。俺、ここに居るんですけど。もしかして魔獣と間違えちゃいましたか!


『危ないぞ』


 俺が天啓を飛ばすと、やっと俺が居たことに気付いたのか、目の前の冒険者は軽くすまんと謝り、すぐに他の魔獣へと向かっていた。ふむぅ。俺の事を魔獣と間違えたわけではなく、俺の事は知っていたみたいだが、俺の存在に気付いていなかったのか……。こうも乱戦だと味方に斬り殺されかねないな。


 そんなことを目の前の狼型の魔獣の噛みつきを捌きながら考えていると聞き覚えのある特徴的な声が聞こえてきた。

「旦那、ランの旦那、待って欲しいんだぜ。ちょっと早すぎるんだぜ」


 あー、キョウのおっちゃんか。そういえばパーティを組んでいるのに置いて来ちゃってた……ごめんなさい。いや、だってね、アーラさん――Aランク冒険者よりも、俺ってば早く動けるんだぜ? そりゃあ、勝負したくなるじゃないか。お、俺は悪くない。


 キョウのおっちゃんが俺に追いつき、俺と背中合わせに魔獣へと対峙する。

「ところでランの旦那、識別布をつけてないんだぜ? もしかして、わざとなのか?」

 キョウのおっちゃんが背中合わせに目の前の魔獣を斬り払いながら話しかけてくる。何、その識別布って?

「多数のパーティやクラン同士が一緒に戦うような集団戦闘中に味方と敵の位置を識別する布なんだぜ。俺の腕にも付いているんだぜ」

 あ、キョウのおっちゃんの腕からも他の冒険者と同じ青い炎が出ている。も、もしかして、それのコトなのか。持ってないんですけど、俺、持ってないんですけど。

「今回の戦闘に参加登録している者であれば、識別布をつければ、その参加者同士の間で色が見えるはずなんだぜ」

 ふむ。って、俺、そんなのに登録した覚えがないんだけどな。と、考えながらも目の前の魔獣を処理していく。ま、目の前の魔獣なんて数が多くても雑魚ばかりだな。

「ちゃんと、旦那が眠っている間にステータスプレートへ登録しておいたんだぜ」

 ちょ、マジですか。俺が気絶して倒れている間に、そんなことを……。いや、これどうなんだろうな。そういった登録が勝手に出来ると悪用されないか? あー、それともキョウのおっちゃんが俺のパーティに加入しているから可能なのか? それとも冒険者ギルドが相手を信用できるか判断して勝手に行っているとか……うーむ、謎だ。


「旦那、着けるんだぜ」

 そう言ってキョウのおっちゃんが懐からタオルのような青い布を取り出してくる。これが識別布か。


「今回のクエストを登録した冒険者しか識別されないから、敵軍に悪用される心配はないんだぜ。と言っても魔獣に、そんな知恵は無さそうなんだぜ」

 ま、確かにね。と、ありがたく識別布を使いますか。俺は一旦、サイドアーム・アマラから真紅を自分自身の手に持ち直し、サイドアーム・アマラで識別布を受け取る。そしてそのまま自分の手に結びつけた。結びつけると青い炎が立ち上がる。ほう、綺麗だな。


「その青い光は登録した冒険者しか見えないようになっているから心配ないんだぜ」

 へぇ。なんというか、凄い便利なアイテムだな。まぁ、これで誤爆されるようなコトも減るかな。


「と言っても有名な冒険者や自分に自信がある冒険者は巻かないんだぜ」

 へ? そうなんだ。そういえばアーラさんとか巻いていないな。青い炎が見えないね。まぁ、見えなくても恐ろしい勢いで殲滅して目立っているから、必要無いと言えば必要無いか。でもさ、そんなことを言われたら、俺も巻いたのを取っちゃいたくなるよね。身の程知らずなことをしたくなっちゃうよね。




―2―


 ホワイトランスを地面に突き刺し、足場代わりに空中へと飛び上がる。大ジャンプ芋虫。


――《魔法糸》――


 魔法糸を飛ばし、更に、より高く、空中へ。更に倍なんだぜ!


――《スピアバースト》――


 赤青黄の三色の光に包まれた真紅と共に空から地面へ。真紅が地面に突き刺さると共に光が周囲へ弾け飛ぶ。周囲の有象無象が衝撃波によって吹き飛んでいく。はっはっは、雑魚どもめー。

 俺は足場に使ったホワイトランスを回収し、周囲を見渡す。

 俺の衝撃波でも吹き飛ばなかった巨体が、こちらに気付き歩いてくる。ゆっくりとした足取り……線から伸びている名前は、ゲイルギガス。

「やばい、旦那、風の巨人だ」

 こちらに近づいていた風の巨人が足を止め、口を大きく膨らませる。そして周囲一帯が赤く染まる。やばい、も、もしかして風のブレスか? 防ぐ物は……無い! 回避は……範囲が広すぎる。どうするどうする。

『キョウ殿、掴まれ』

 俺はキョウのおっちゃんを手招きする。キョウのおっちゃんが俺に捕まる。うーん、野郎に抱きつかれても全然嬉しくないです。


――《魔法糸》――


 俺は風の巨人の肩に魔法糸を飛ばし、そのまま巨人へと飛ぶ。


 巨人が真っ赤な風属性のブレスを吹き出す。俺とキョウのおっちゃんはそれを下目に巨人の肩を超え、背後へ。ここだ!


――[アシッドウェポン]――


 ホワイトランスが黄色に輝く。


――《Wスパイラルチャージ》――


 黄色の光を纏った槍が螺旋を描き巨人の足を削っていく。砕け散れ!


「グガアァァァァ」

 風の巨人が悲鳴を上げ、膝をつく。そして、そのままこちらへ振り返り、その大きな手を振り回す。当たるかよ! 素早さ特化を舐めんなよ!

「餌、餌、食べていやずうぅぅ」

 執拗に俺へと伸びてくる巨大な手。


――《W百花繚乱》――


 巨大な手の平に2本の槍が突き刺さる。穂先も見えないほどの高速の突きが手の平を削っていく。


「ググ、ガアァァァ」

 巨人が手の平をもう一方の手で押さえ、痛みに高く持ち上げる。そして、そのまま倒れ込んだ。

「いだい、いだい」

 しかしまぁ、喋る程度の知能はあるんだな。なんというか、攻撃することを躊躇しちゃいそうになるね――いや、しかし、俺を餌扱いしたことは……許せん。


「チャンプやるじゃん」

 いつの間にか俺の周囲に他の冒険者が集まっていた。

「袋だたきだ!」

 集まった冒険者で倒れ込んだ風の巨人を攻撃する。各々が色々なスキルを使い巨人を攻撃していく。数は力だぜ!

 やがて、巨人は、その大きな手を一度高く上げ、そのまま動かなくなった。俺たちの勝利だ!

「まだまだ数は居るぜ!」

 ああ。全然、減らないな。


『このまま、突っ切るぞ!』

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