3-77 陣中へ
―1―
竜馬車に揺られ南下していく。馬車に二日ほど揺られ、やがて開けた平原が見えてくる。
「シア平原です」
障害物が何も無い見渡す限りの平原。ひっろいなぁ。そしてその先に居る無数の魔獣達。魔獣達に動きはない。何だろう、命令待ちか何かなのかな。
『多いな』
「そうだな」
「だよねー」
うーん、魔獣が全然減ってないように見える。うじゃうじゃ居るって感じだよね。まだ戦いが始まってないのかな。にしても何で戦っていないんだろう。休憩中か?
「曲がるぜ」
竜馬車が平原を横目に曲がっていく。そのまま平原を併走して進む。
しばらくすると無数のテントが見えてくる。お、陣地を作っているのかな。
竜馬車が陣地の中心へ進入していき止まった。
「とー」
エクシディオン君が竜馬車から飛び降りる。それに続くようにウーラさん、イーラさんも竜馬車から降りていく。あ、俺も降りた方がいいのか。で、どうやって降りるんだ?
とりあえず俺はちゃんと回収してあった自分の装備を持ち、御者台の縁に立つ。
「あ、どうぞ」
ウーラさんが手を伸ばしてくれる。
『すまぬ』
ウーラさんの手を取り、竜馬車から降ろして貰う。すまぬ、すまぬ。俺がこのような体なばかりに……。いやまぁ、どうしても、こういうモノって人用に作られているからね、芋虫体系だと難しいんだよね。
イーラさんは軍の人(偉い人かな?)に書類のようなモノを渡していた。軍の人たちが竜馬車の中の荷物を確認している。お、あそこに居るの蟻人族だね。ソード・アハトさんと区別がつかないな。蟻が2本足で武装して歩くとか、ホント異世界だよなぁ。にしても武装がみんな剣や弓なんだな。戦争なんだし、槍の方が有利な気がするんだけどなぁ。
「蟻人族の方が居ますね。帝国も本気ってことなんだろうね」
俺が蟻人族を見ていたことに気付いたかのかウーラさんが話しかけてくる。ん? 蟻人族の人が出てくると本気ってコトになるのか?
「蟻人族の方々は強さの桁が違うんです。帝国の奥の手って言われるような方々なんですよ」
へー。この世界、もしかすると虫が強いのか? となると俺もワンチャンあるか?
「物資の引き継ぎも終わったから、俺たちはクランに戻るか」
おー。って、俺はアクスフィーバーの一員じゃないんですけどね。近くにキョウのおっちゃんが居るみたいだし、そっちに行きますか。
―2―
冒険者側の集まっている場所へ。兵側の陣地と比べると個々に集まって適当にやっている感じは、如何にも冒険者って感じだな。お、鍋に火をかけている。これから食事なのかな。と、俺はどうすればいいんだ? とりあえず今回のリーダーのアーラさんのトコに行けばいいのかな?
「おー、ランの旦那。もう体は大丈夫なのかなんだぜ?」
大丈夫なんだぜ。って、キョウのおっちゃんか。当たり前だけどキョウのおっちゃんも参加しているんだなぁ。
「旦那、とりあえずこっちなんだぜ」
キョウのおっちゃんに連れられてちょっとだけ豪華なテントの前に。そして、そのままテントの中へ。
テントの中にはアーラさんを筆頭にアクスフィーバーのメンバーが居た。
中に入ってきた俺たちに気付いたのかアーラさんがこちらへ顔を向ける。おー、眼鏡がきらりんとしていますな。
「ああ、今聞いた……そうだな、よろしく頼む」
リーダーのアーラさんが握手を求めてか、手を伸ばしてくる。って、俺のこの手でどう握手しろと。
俺がどうしようかと考えている間に、アーラさんは一度首をかしげ、伸ばした手を戻した。
「とりあえず指示があるまで自由にしてて欲しい」
なるほどね。よくわからないけど、よくわかったぜ。とりあえず待機しておくね。
はーい、ということで解散ですね。
「挨拶、終わったのか? じゃあ、こっちに行こうぜ」
はーい。ということでキョウのおっちゃんに連れられてテントの外へ。
「歩きながら、今の状況を説明するんだぜ」
はい、お願いします。なんというか、流されてばかりでイマイチ良くわからない状況だしね。
「と、その前に、旦那、女王を倒した後、後を俺らに任せて気絶するんだもんな、酷いんだぜ」
キョウのおっちゃんが笑っている。本気で思っているわけじゃないってことね。了解だぜ。だって、まぁ、スキルの効果だからさ、仕方ないもんね。
「聖騎士の小僧が旦那を背負っての撤退戦だったんだぜ? 今、思い出してもよく無事に帰れたと思うんだぜ」
あちゃー、あの後、他の蟻どもって襲いかかってきたのか。ホント、よく帰って来ることが出来たな。
「ちゃーんと旦那の装備品も回収して、更に女王の素材も回収したんだぜ」
おー、凄い。ちゃんと竜馬車の中に俺の装備品の一式があったもんな。と言っても青のダガーと樹星の大盾は無かったけど……もしかしてあげたことになっているのか? まぁ、いいけどさ。にしても、さすがはキョウのおっちゃんだぜ。頼りになるなぁ。
「しかも素材を……っと、これは生きて帰ってからのお楽しみってヤツなんだぜ」
ふむ。素材に何かあるのかな。
キョウのおっちゃんが止まる。そこには小さなかまどのようなモノがあった。
「と、じゃあ、俺らも飯にするんだぜ」
何処からか鉄の鍋を取り出し、かまどぽいモノの上に乗せる。そしてかまどの中に魔石のようなモノを入れる。
「ランの旦那は、戦争の準備がろくに出来なかったろうし、俺がフォローするんだぜ」
お、有り難い。そういえば食料を何も買えなかったもんな。これは助かる。持つべき者は仲間ですな。
「現状の話をするんだぜ」
キョウのおっちゃんが食事の準備をしながら語り出す。
「現在、3度ほどぶつかっているけど、今のところは優勢なんだぜ」
ほー、日数が経っている割には、まだ、3度……そんなもんなんだ。
「ま、数が多いから、まだまだこれからなんだぜ」
ふむふむ。
「兵士側はわからないが、冒険者側に負傷者はあっても死者はまだ出ていないんだぜ」
ほー、それはよかった。
「出来たんだぜ」
そう言ってキョウのおっちゃんが器に入った何かのスープのようなモノを渡してくる。俺はサイドアーム・ナラカで受け取り、一口飲んでみる。び、微妙。決して美味しいものじゃないなぁ。肉と野菜の塩スープって感じかぁ。まぁ、今の環境だと食べられるだけマシって感じなのかなぁ。
「魔獣側が妙に統率が取れすぎているし、本能のままに襲ってこないんだぜ。現状のようににらみ合いなんて……絶対裏があるんだぜ」
ふむ。確かにな。今まで魔獣と戦ってきたけど、こんな8千も集まって団体行動なんて出来るような頭は無さそうだったもんな。
うーむ。
ま、考えても理由なんてわからないし、命令があるまでのんびりしますか。




