2-13 一撃
―1―
ふぅ。一息つく。ウーラさんも終わったのなら、この場はもう安全だね。
ステータスプレートを見る。HPが70に、SPが370になっていた。SPがある限り肉体が傷つくことは無いって聞いていたのに、思いっきり斬り裂かれたよね。ベストとマントは無事だったけどガウンが切り裂かれて……アレ? 切れてない。
うーん。どういうこと?
考え方を変えよう。
SPがある限り、元の状態に戻してくれる。これが正解な気がする。装備している物も含めて、ね。
そうだ、獲得した経験値と魔晶石ポイントを見てみよう。
EXPが514に、MSPが10になっていた。
森ゴブリンの経験値が24、それを4匹狩っていたので、ホブゴブリンとゴブリンシャーマンを倒す前が106。二匹で408か……森ゴブリンと比べるとかなり多いな。MSPも二匹で6も増えている計算です。
あ、MSPが10になったってコトは飛翔スキルツリーの浮遊が取得出来るんじゃね? で、どうやって取得するんだろう? 適当にステータスプレートのスキル部分を触ってみたら上昇させることが出来た。これで決定になるのかな?
【《浮遊》スキルを獲得しました】
【《浮遊》スキル:MPの続く限り自分の身体を浮かすことが出来る】
お、システムメッセージが出てきた。って、スキル説明も表示されたけど、すっごい微妙なスキルって気がするんですが……。試しに使ってみようかな。
――《浮遊》――
身体が10センチほど浮いた。それに併せて恐ろしい勢いでMPが減っていく。うお、ダメダメ、ストップ、ストーップッ!
そんなことをしていると戦い終わったウーラさんがこちらに駆けてきた。
「大丈夫ですか?」
はい、なんとかなりまーした。
『そちらも?』
「ええ。流石に森ゴブリン程度には遅れを取りませんよー」
すっごいさわやかな笑顔です。
「それにしてもホブゴブリンもゴブリンシャーマンも倒してしまうとは……流石ですね」
あ、しまったー。アレを倒してしまっても~って言っとけば良かった。現実では使うことが無い使ってみたい台詞ベスト10に入る台詞なのに……勿体ないことをした。
「それでは、魔石を取り出しますか」
あ、そうですね。結局、戦いの後はコレが残っているんだよね。俺は自分の倒したホブゴブリンとゴブリンシャーマンをやらないとね。
ウーラさんは手慣れた手つき……というか凄い勢いで森ゴブリンから魔石を取り出している。完全に流れ作業ですね。
魔石はゴブリンシャーマンの方が大きかった。砕いてみてMSPが幾つだったのか確認してみたい誘惑に駆られるが我慢してショルダーバッグに入れる。後はホブゴブリンの持っていた鉄の剣、ゴブリンシャーマンの持っていた杖、仮面を回収する。仮面も換金出来るってことだからね。
あー、これでやっと終わった。クエスト完了です。最後の最後に意外な展開があったけどなんとかなったなぁ。G級クエストにふさわしい難易度だったって言いたくなるね。まぁ、こっちの世界だとG級は一番下の難易度なんだけど、さ。
―2―
『ウーラ殿、聞いても良いかな?』
最後だし、疑問に思っていたことを聞いておこう。
「はい、何でしょう?」
『ウーラ殿は、何故、ここまでしてくれるのだろうか?』
親切過ぎるよね。裏があるんじゃないか、と疑うレベルです。
「ははは、そうですね。一つは星獣様のランさんに人を嫌いになって欲しくないから、かな」
ウーラさんは笑顔で答えてくれる。
「もう一つは斧を好きになって欲しいからですっ!」
へ? 一つ目の理由よりも言葉に力が入っているんですが……。
「実は僕たちは『アクスフィーバー』ってクランに所属しているんです。熱狂的な斧好きのための斧好きクランなんですが、その愛を初心者冒険者にも伝えたいと」
あー、つまり斧の良さを教えたい、格好良さを見せたいから親切にした、と。まぁ、よこしまに言うと、そうなんだろうね。けど、そんなことが吹き飛ぶくらいに親切にして貰ったもんなぁ。
ウーラさんが居なければ、この世界でどれだけ苦労したことか……。
『分かった。斧が扱えるようになったら、斧も使っていくことにしよう』
ま、恩義を思えばこう言うしか無いよね。
「はい、是非。使い始めれば、その使いやすさ、強さ、格好良さに惚れ込むこと間違い無しですよっ!」
はははは。乾いた笑いが出そう。
「最初のオススメはやはりハンドアクスですねー。なんと言っても取り回しの良さが売りです」
うは、語り始めた。コレは長くなりそうだ。好きって怖いね。
―3―
「ランさんは、これからどうするつもりですか?」
それだよね。迷宮王の残した八大迷宮を攻略ってのがやってみたいことになるんだろうか。あー、その前にクラスをゲットしないと……。
『まずは少し自分を鍛え、フウロウの里で『弓士』のクラスを得に行ってみようと思う。その後は迷宮を攻略だな』
「そうですね。それがオススメです。フウロウの里なら猫馬車で二日ほどで着きますし……」
猫馬車? すっごいメルヘンな単語が出てきました。
「あ、ランさんは猫馬車を知りませんか。猫が引っ張る乗り物ですね。森の中でもかなりの速度が出るので重宝されています。スイロウの里を出てすぐのところに猫馬車の停留所がありますよ。確か、次のフウロウの里行きは……ちょうど1週間後くらいだったはずです」
あ、里の中にあるわけじゃないのね。にしても1週間後かぁ。それまで里の周辺でレベルアップかなぁ。
「後、もし世界樹の迷宮に挑戦するなら最低でも種族レベルは3以上にした方が良いですね。クラスを持つことも必須です。幾ら世界樹の迷宮が八大迷宮の中で一番難易度が低いと言っても油断出来る物では無いですからね」
ふむふむ。ま、俺はそこに住んでいたんですけどね。
「森ゴブリンの巣も、ここで終わりです。そろそろ帰りましょうか」
そうですね。後は宿に帰って考えよう。
来た道を帰っていく。一本道に近い迷宮なので簡単に出口まで戻ることができる。
さぁ、迷宮の外だ。日の光が恋しいぜ。
と、そこでウーラさんの大きな声が。
「待ってくださいっ!」
へ? 身体に大きな衝撃が走る。
俺は迷宮の外に出たところで何か大きな物に吹き飛ばされ、迷宮の壁に叩き付けられた。
は? 痛みで呼吸が止まる。 何だ、何が起こった!?
痛みをこらえ、霞む目で見てみれば、迷宮の外には人の背の高さの三倍はあろうかという巨人が立っていた。
2月18日修正
迷宮の外に3メートルはあろうかという巨人が → 迷宮の外には人の背の高さの三倍はあろうかという巨人が
2月21日修正
語り始めた。好きって → 語り始めた。コレは長くなりそうだ。好きって
5月26日修正
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