3-68 帝都東
―1―
東側へ歩いて行く。とてとてと歩く。しかしまぁ、帝都ひっろいなぁ。これ、端から端まで歩くのに数日はかかるんじゃね?
東側へ向かって歩いていると目の前に高い壁が広がった。うお、城壁の中にも壁とか、マジですか。こっち方向には来ていなかったからなぁ。こんな風になっているのか。広いってのも問題ありだよね、地理がわかんなくなるよ。
しかしまぁ、広いから自覚しにくいけれどさ、高い壁に囲まれているって、なんだか塀の中に居るみたいだよね。俺、悪いことしていないのにー。
帝都を西と東に分ける門の前へ。門番さん、ちーっす。
俺の挨拶に門番の人が驚いている。確か、ここでステータスプレートを出せば良かったよね。うん? 何だか、門番の人の数が増えていない? あれ? 何で集まっているんですか? いやいや、いつの間にか門番の人たちに囲まれているんですけど……。って、マジか!
俺はすぐにステータスプレート(銀)を掲げ、周囲に見せる。いやいや、襲撃した魔獣の仲間じゃないですよ。ただの普通の冒険者ですよ。
「あ、これ、違うっすよー」
「闘技場の芋虫じゃん」
「脅かすな」
棒や剣などを突きつけていた門番の人たちが白けた顔で帰って行く。ゆ、ゆるいなぁ。って、向こうに通してください。
「ああ、お前、冒険者だったか、通れ、通れ。今はそれどころじゃないからな」
はいはいさー。通らせてもらいますね。
門を通り東側へ。おー、こっちも発展しているねー。大きな建物が多いな。あれ、何の店屋さんだろう。お、武器屋かな。何だ、何だ、凄い高そうな武器が並んでいるぞ。真銀シリーズだと? こ、ここで武器を買っていこうかなぁ。うお、なんだ、あの、帝城側の建物。成金が建てたみたいな建物だ。ああ、俺の家もあんな感じにしたいなぁ。
……。
完全にお上りさんだ……。
……はぁ、東側の冒険者ギルドに行きますか。
キョロキョロと辺りの建物を物珍しく見ながら歩いて行く。それにしても人が全然歩いていないなぁ。
地図だと……ここか。って、コレ? いやいや、ホントにコレ? 周囲を見回すが他にそれっぽい建物もないし、真面目にココだよね?
三層建ての巨大な建物がそこにあった。西側と全然違うじゃないか。確かにこれなら、こっちが帝都『の』冒険者ギルドってなるのも納得だね。いや、ホント、西側がなんなんだ。酷すぎるだろ。と、とりあえず入ってみるか。
―2―
「ようこそ、帝都冒険者ギルドへ」
受付のお姉さんの声。うお、挨拶が……あるなんて……ここは異界か!
「本日はどういったご用件でしょうか?」
え、あ、ああ。えーっと、あの。俺、芋虫っすよ。そんな丁寧な対応、ちょっと恐ろしいんですけど。普通、芋虫がーとか、魔獣がーとかってなる展開じゃないの?
『あ、ああ』
俺はステータスプレート(銀)を見せる。
広い室内。奥はカウンターかな。カウンターの向こう側に8人ほどの女性が並んでいる。左端にあるのは上に上がる階段か。そして右端の女性が居るカウンターだけ異様に広くて大きいなぁ。
「冒険者の方ですね。3番窓口にお願いします」
え、え、え? 3番窓口って、何処よ、何処よ。広くてわかんないぜ。そして対応が事務的だ。にしても他の冒険者の姿が見えないな。これだけ広いのにどうなっているんだ?
うーん、向こうのカウンターの3番目に行ってみますか。
『すまぬ、こちらに来るように言われたのだが』
「あ、はいはい。ステータスプレートをお願いできますか?」
じ、事務的だなぁ。なんだろう、俺の姿を見て驚いてくれないコトに対して、それはそれで残念な気がするのは――ホント、なんだろう。あ、ステータスプレート(銀)を見せないと。
「確認しました。本日15時より事前説明が当ギルドの2階にて行われます。遅れずに参加をお願いします」
へ? 事情が分かりません。何で集合がかかったのかも分からなければ、更に待てと、ちょっと酷いよね。というかだね、どうやって時間を潰せばいいか分からないんですけど。東側を勝手に歩くのは良くないって聞いているからさ、観光も出来ないじゃん。
『すまないが、何か時間を潰せないだろうか?』
こういう時は聞くのが一番だよね。
「はぁ、東側は初めてですか?」
初めてですよ、超初めてですよ!
「なら、このギルドのご案内でもしましょうか?」
お、マジですか。是非、お願いします。
「トムソンさん、初心者解説お願いします」
窓口のお姉さんの言葉に合わせて奥から普人族のおっさんが現れる。
「あいよ」
って、おっさんかよ。窓口がお姉さんなんだから、案内もお姉さんが良かったよぅ。
『よろしく頼む』
「おう」
おっさんの返事。かっるいなぁ。
「って、魔獣の冒険者か……有りなのか?」
おっさんが小声で窓口の女性に聞いている。
「ナハン出身みたいですよ。あそこは特殊ですから」
窓口のお姉さんも小声で返している。俺は小声でも何を言っているか分かるんだよなぁ。そうか、特殊だったか。
―3―
おっさんが解説をしてくれる。
「クエストの申し込みは1番と2番窓口だな」
ほー。クエストをこちらから出すことも出来るのか。一般の人が持ってくるのかな。
「3番が指名クエストの受注窓口だ。特定の人からお前を指名してクエストが入ってくるかもしれないぜ? 特別なクエストを受ける時もここだな」
ほー、特別な窓口なんですね。
「4番、5番、6番が普通のクエスト受注窓口だ。自分のレベルにあったクエストがないかどうかの相談も聞いてくれるから、気軽に聞いてみるんだな」
ほうほう。さすが大型の冒険者ギルドだけあって親切なんだな。
「そして奥の2つが換金窓口だ」
ああ、7番と8番窓口が換金所のかわりなのね。
「手に入れた魔獣の素材などはそこへ持っていくんだな。まぁ、お前が竜でも倒すくらいの冒険者になったらギルド職員の方から駆け寄ってくるだろうけどよ」
うん? よく意味がわからないな。まぁ、偉くなったら窓口を無視出来るってことなのかな。
「1階は大体、こんな感じだな」
ふむ。なんだろう、ここってさ、昔に読んだ物語やゲームに登場する如何にもな冒険者ギルドだよな。帝都まできてやっとって感じかぁ。なんというか、今までってさ、ナハン大森林や西側といい、特殊というか、王道をずらしたかのような冒険者ギルドだったからなぁ。
「じゃ、2階にあがるか」
はーい。
俺はトムソンさんという名前のおっさんの後をついて2階に上がる。がさっごそっ。階段というより坂って感じだな。俺でも上がりやすくて良い感じだ。
「2階は売店に資料室、会議室だな」
な、なんというか、言語変換の効果か現代風な言葉が……。
「売店では各種魔石の販売もしているから、下の方の貴族連中が買いに来ることもあるな」
え? 魔石が売っているんですか。ちょっと初耳なんですけど。てっきり買うことが出来ない物だと思っていたよ。
「ま、買っても高いからな。冒険者なら自分で集めた方が早いしな。貴族連中や商人ギルドの連中は特別な取引で安く入手したのを自分たちの中だけで使っているしな」
はぁ。ま、まぁ、ゴブリンみたいな雑魚の魔石でも銅貨1枚で売れるんだもんな。そこから利益やなんやらを入れて……うん、実際に魔法具とかへ使うには――割に合わないか。それでもお店とかの照明に使われていることもあるんだから、そういうことなんだろうね。
「資料室はCランク以上から閲覧許可が下りる。まぁ、資料室にあるような情報なら下の窓口で聞くことが出来るから、自分で調べたい、なんていう物好き以外は利用することもない場所だな」
ふむふむ。
「会議室は、今日の15時からお前も参加する所だからな、説明の必要はないな」
ほう、集まるのは会議室なワケね。
「で、3階だな」
次は3階か。うん? おっさんが動こうとしない。
「3階はギルドマスターの管理下だからな。Aランク以上でもないと立ち入り禁止だ。お前も近寄るんじゃないぞ」
あ、そうなんだ。そういえば3階に上がる階段が見えないね。何処かに隠されているのかも知れないなぁ。
「後は、武器の練習などがしたいなら、うちのギルドの隣が練習場になっている。冒険者ならタダで使えるから、暇があれば行ってみるといい」
ほうほう。ま、俺が使うことは無さそうだけどね。
ふーむ、それにしても施設が充実しているなぁ。スカイには悪いけど、今後もこっちのギルドを使わせて貰えないだろうか。だってさ、向こう不便過ぎるもん。
「と、そろそろ時間になったようだな」
何処にこれだけの冒険者が居たのか、と言うくらいにゾロゾロと冒険者が集まってくる。
「お前も早く会議室に向かえ」
う、うむ。さーて、これから何が起こるのかな。
「あれ? 旦那じゃん。どうしたんだぜ?」
会議室へ向かおうとした俺に聞いたことのある声がかかる。
へ?
そこに居たのはキョウのおっちゃんだった。何で闘技場に居るはずのキョウのおっちゃんがここに居るんだ?
2021年5月9日修正
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