表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略
182/999

3-67  地下室

―1―


 お、俺の家が、家がよぅ。


 ……。


 ま、起きたことは仕方ない。それよりも落としてしまった真紅とホワイトランスを拾わないとな。無くしたり、盗まれたりしたら最悪だからな。

 積み上がった木片を、瓦礫の山を、かつて我が家だった物をどかしていく。ぽいぽいっとな。うーん、力が有り余っているなぁ。大きく重い木片を簡単に持ち上げたり、放り投げたりなんて普段では考えられないよな。お、真紅発見。続いてホワイトランスも発見と……さすがに武器はすぐに見つかるな。って、なんだコレ。

 真紅を探すためにどかした瓦礫の下に扉のような物が見える。ち、地下室の入り口か? 家の中を探索した時は無かったよな? 隠されていたのか?


 俺は力任せに地下室への扉をこじ開ける。重たい金属の扉を無理矢理壊し、取り外していく。うーん、力が有り余っているなぁ。これが魔石活性化の効力か。これが普段でも出来るようになったら、いざって時の切り札になりそうだな。魔石が活性化した時の感覚は覚えているから、自力で出来るように後で練習しておこう……って、ん? そういえば、俺の中にあった魔石って盗まれていたような。思い出したくもない記憶だけれど、魔人族のエンヴィーに取り出されていたような――どういうことだ? 活性化する魔石が体の中に無いと思うんだが……。何だろう、命が助かった時に自動的に精製されたとかなのかなぁ。エンヴィーを見つけ出して叩き潰す時にでも聞いてみたら分かるかな? まぁ、この件は考えても答えが出ないし、保留にしておこう。


 って、話が飛びすぎた。扉の下はどうなっているかな?


 地下へと下りる石造りの階段か。ちょっと暗すぎて先が見えないな。これでただのワインセラーとかだったら笑うな。ま、この地下室の探索は後回しだ。武器も確保したし、先にクソ餓鬼どもの様子を見に行くか。


 墓地を抜け、貧民窟へ。


 貧民窟ではクソ餓鬼どもが俺の盾を守るように座り込んでいた。

「あっ」

「芋虫来た」

「盾守ってたぞ」

「……」

 あー、盾を守っててくれたのか、ありがとうよ。


「にゃあ」

 小さな羽猫、エミリオが俺の盾の下から顔を覗かせる。あ! お前、何処に逃げたかのかと思ったら、そんなところに居やがったのか。はぁ……。まぁ、お前も怪我がなくて良かったよ。俺自身が存在を忘れていた――なんてことはないからな! 一応、心配していたんだよ、うん、えーっと、多分。


 俺が来たことで盾を守る必要がなくなったと思ったのか、餓鬼どもがそこらを自由に動き回っている。水を鏡のように張る魔法の効果は無くなっているようだ。あの魔法もいつか習得したい魔法の1つだな。自分が使える水の属性みたいだし、なんとかなるでしょ。攻撃反射とか夢が広がるよね。


 ぬいぐるみを抱いた犬人族の子どもがとてとて歩いてくる。うん、どうした?

「ありがと」

 犬人族の子どもが俺の夜のクロークの端を掴み、小さな声でお礼を言う。どういたしまして。ま、傷を癒やしたのは青フードなんですがね。


 と、それでは。

『盾を返して貰うぞ』


――《魔法糸》――


 魔法糸を飛ばし大盾を回収する。

「あっ」

「また糸出た」

「すっげ」


 あんなことがあったのにクソ餓鬼どもは元気そうだ。おうおう、さすがはこういった場所の子ども達だな。立ち直りが早いぜ。

「芋虫、アレを倒しに行くのか?」

 む?

「倒してくるんだろ? 逃げていくの見た」

 むむ?

「大人が他にも魔獣が侵入したって言ってた」

 え? グリフォンだけじゃなかったのか。


 はぁ……、そうだな。


『ああ、倒してくるぞ。待ってな』

 俺は餓鬼どもに天啓を授ける。


「おう頑張れ」

「期待してる」

「お前なら出来る」

「頑張って……」


 ……。


 何でこの餓鬼どもは上から目線なんだよ。ふぅ、まぁ、期待して待ってな!




―2―


 我が家だった残骸の塊に戻る。せっかくだから地下室でも探索するかな。


 俺が地下室に足を踏み出そうとした瞬間だった。


 がくん。


 え? 俺の中の何かが切れた。な、ん、だ、これ。力が入らず、そのまま階段を転げ落ちる。それに合わせてコロンコロンと音がする。ショルダーバッグから何かが転がり落ちたようだ。俺は落ちながら入り口を、地上を見る。小さな羽猫が飛んで逃げていた。ホント、逃げ足だけは速いな……。


 階段を転がり落ち、何かにぶつかる。むぎゅう。あ、意外と柔らかい。助かったか……って、痛い、痛い、痛い。体が痛い!

 階段を転がり落ちた痛みなのか、活性化の効果が切れたコトによる痛みなのか、全身に激痛が走る。体中の骨にヒビが入って、ゴリゴリと粉にされているようだ。あ、う、ああ。


――[ヒールレイン]――


 気休めにもなればと癒やしの雨を降らせる。癒やしの雨が俺の体に降り注ぐ。しかし痛みが引くことはなかった。これは、耐えら……れ……ない……。


 俺はそのまま気を失った。気を失う一瞬、暗闇が光ったように見えた。



「にゃあ、にゃあ」

 小っこい羽猫の鳴き声がする。うん……何処だ? ここ?


 あ、ああ!


 地下室に転がり落ちたのか。真っ暗だな。とりあえず明かりをつけよう。魔法のカンテラ(小)に魔石を入れて明かりを灯す。ぼんやりとした明かりが周囲を照らしていく。石造りの部屋? 俺の目の前には小っこい羽猫の顔があった。今回も真っ先に逃げやがったな、こいつめ。

 っと、今、何時だろうか。どれくらい気を失っていたんだろうか。ああ、体の痛みが引いているな。はぁ、大変な目に遭った。あの力が使えたら奥の手になるぞー、なんて簡単に考えていたけれど、こんな激痛を味わうってなると躊躇しちゃうよなぁ。習得出来たとしても出来るだけ使いたくないスキルだよ、これは。

 俺は時間を確認するためにステータスプレート(銀)を見る――なんだコレ?


 ステータスプレート(銀)には「テイト ボウケンシャ ギルド シュウゴウ」と表示されていた。へ? この「シュウゴウ」は集合かな? 冒険者ギルドに行かないと駄目なの? 俺、これから、この地下室を探索しようかと思ったのに水を差してくるなぁ。でも行かなくて冒険者資格を剥奪なんてなったら洒落にならないしな。


 仕方ない、顔を出すだけ出してみるか。




―3―


 地下室から脱出する。外には朝日が昇っていた。はぁ、結局、一日地下室で過ごした計算か……。ま、あんな副作用があったんだし、仕方ないか。無事だっただけ良しとしないとね。


 そして墓地を抜けて貧民窟へ。


 おろ? 普段だとクソ餓鬼どもがやってくるのに、今日は静かだな。


 クソ餓鬼どもが居ないことに拍子抜けしながらも貧民窟を抜け、西の冒険者ギルドへ。ここは相変わらず空いているな。集合って書いてあった割には誰も居ないじゃん。


『誰か居るか?』

 俺は室内に天啓を飛ばす。


「お? おお!」

 奥からスカイが現れる。居るじゃん。

「チャンプ、何でここに居るんだよ」

 いや、何でって集合って言われたから来たんだけど。

「帝都の全冒険者に通達が来たの知らないの?」

 いや、だから来たんだけど。

「チャンプ……」

 犬頭のスカイがやれやれって感じで頭を抱えている。頭が重いなら軽くしてやろうかい?

「集合は、こっちじゃねえっすよ。東の方だって。帝都で冒険者ギルドって言ったら普通はあっちなんだよ」

 いや、そんなの知らないし、今、知ったし。場所も分からないし。

「仕方ないか……。ほいよ、チャンプ、地図を上げるよ。冒険者って分かるようにステータスプレートを提示すれば東に入れるはずだからさー」

 あ、そうなんだ。ってことは、初の東側入り?

「でも、余計なとこに行かないようにした方がいいよ。衛兵に見つかったら叩き出されるからさ。ホント、言葉通りの意味で」

 そ、それは怖いなぁ。


 うんじゃまぁ、帝都の東に行ってみますか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ