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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略
181/999

それゆけ、ミカンちゃん3

「乗船券をお願いします」

 大型の客船の前で受付の女性が乗船券の確認をしている。

「む、剣か?」

 リーンがミカンの服の裾を引っ張る。

「ミカンお姉ちゃん、ミカンお姉ちゃん、乗船券だよ」

「あ、ああ!」

 ミカンは自分の勘違いに恥ずかしそうにしながらも2枚のチケットを取り出す。

「これで良いだろうか?」

「ええ、ええ、確認しました。ホーシア行き、楽しんでください」

 ミカンはリーンの手を握り、大きな桟橋を渡り、大型の客船へ。


 魔石を動力とした大型の客船がキャラの港町を出港する。


 青い空、青い海。何処までも何処までも水の草原が続く。そんな中、ミカンは船室に引き籠もっていた。

「ミカンお姉ちゃん大丈夫?」

 客室に備え付けられた粗末なベッドの上、そこにミカンが苦しそうに体を丸め横になっていた。

「す、すまない……うっ」

 完全に船酔いである。

「ゆ、揺れる水の上というのが、こ、これほど……うう」

 ミカンはそのまま力尽き、気絶した。路銀をケチり、船室を一番下のクラスにしたのが悪かったようだ。船の揺れを一番に感じる場所だったらしい。


 そんな感じでミカンとリーンの船上での一日目は過ぎていった。



 二日目。ミカンは、一晩寝たことで少しは体調が回復したようだった。


 体を起こし室内を見回す。リーンの姿は見えない。食堂か、甲板か。

「甲板に出てみようかな……少しは違うかも」


 ミカンが甲板に出ようとした時だった。船体に大きな衝撃が走る。

「な、なに?」

 ミカンは体調の悪い体を押して、ゆっくりとだが、それでも急いで甲板へと向かう。



 ミカン達が乗っている客船の横に変な形の船が見える。そして甲板には、多くの乗客とおかしな格好をした連中が居た。

 大きな帽子をかぶったひげ面とそれに付き従うバンダナを巻いた猫人族。並んでいる猫人族達が「俺たちゃ海賊」「俺たちゃ海賊」と輪唱している。

「海賊?」

 ミカンの頭の上に疑問符が浮かぶ。

「おうよ! 俺たちゃ、海賊よ。金目の物を出せば通行を許可する。出さなきゃ魚の餌よ!」

 ひげ面がこちらを指差す。相変わらず後ろの猫人族は俺たちゃ海賊と輪唱している。それを見て、ミカンは更に吐きそうになった。

「おいおい、顔色が悪いぞ、眼帯猫のお嬢ちゃん大丈夫か?」

 ひげ面が心配そうにこちらを見る。ミカンは、その顔に耐えきれなくてついに吐いてしまう。れろれろれろ。

「だ、大丈夫……だ」

「いや、どうみても大丈夫じゃないけどよ……。って、俺たちゃ海賊なんだよ! 金目の物を置いて行きな!」

 体調の悪いミカンは海賊の相手が面倒になり、手早く話を済ませることにした。つまり……。


――《旋風斬》――


 ミカンと共に刀から生まれた暴風の刃が海賊達を駆け抜ける。暴風と共に海賊達の群れを抜けたミカンが刀を鞘にしまう。そして振り向いた時には海賊を名乗る猫人族の集団が倒れていた。正直、雑魚だった。


「寝る」


 ミカンは倒れている海賊? を無視して船室に帰ることにした。



 三日目。ミカンは船室の激しい揺れに目が覚めた。

「うう、ゆえすぎ、ゆえ、ゆれ、吐きそ……」

 慌てて口を押さえるミカン。そこへ船室のドアがノックされる。

「ど、どうぞ」

 れろれろれろ。

「うわ、っと、す、すまない、力を貸して貰えないだろうか」

 そこに居たのは船長だった。


 ミカンは船長と共に事情を確認しながら船の中を甲板を目指して歩く。

「すみません、走るの無理……」

「あ、ああ。出来るだけ甲板に急いで欲しいが仕方ない」

 船長さんによるとこの嵐の中、巨大な触手の魔獣に船が襲われているとのことだった。雇っている護衛に頑張って貰っているが手が足りないとのこと。海賊を一瞬で倒したミカンの腕前を買って助力を願いに来たらしい。



 たどり着いた甲板は荒れていた。吹きすさぶ風。肌に激しく当たる雨。そして何本もの巨大な触手が船に絡みついていた。

「おー、来てくれたか」

「このままだと船が進まない、触手を切り落とすのを手伝ってくれ」


 護衛と思われる者達がそれぞれ触手に攻撃を繰り返している。

 ミカンは長巻を杖のように持ち、揺れる甲板の上を歩いて行く。目立つ大きな1つの触手に取り付き長巻を振るう。


――《斬》――


――《一閃》――


 触手を斬り落とす。


 ミカンは船酔いを忘れたかのように次々と攻撃を繰り返す。


 目がらんらんと輝き、今までの体調不良が嘘のように体が軽くなっていく。口にはいつの間にか笑みが浮かんでいた。


『そうだ、私は戦いの中でこそ!』


 ミカンは心の中で叫ぶ。


 そして嵐が去った頃には全ての触手が切り下ろされていた。



「わあ、綺麗だし、広いね。それに全然揺れないよー」

 船長の厚意により、ミカンとリーンは一番下の客室から、揺れの少ない上等な客室に部屋を変えて貰っていた。

「うむ」

 そしてその頃にはミカンの体調も戻っていた。



 やがて船旅が終わり、港が見えてくる。水上に浮かぶ海洋国家群――そして帝国に属する領国の1つホーシア。ミカンとリーンの目的地である。



 ミカンが首から提げているステータスプレートにはパーティの加入限界範囲を超えたことが表示されていた。

2021年5月9日修正

好意 → 厚意

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