3-63 虫賛歌
―1―
――[アイスウォール]――
奥の通路を氷の壁で塞ぐ。これで奥の通路から沸いている羽蟻の侵入を防げるかな。よし、広間に居る蟻の数を数えるか。
――《集中》――
集中してうじゃうじゃと居る蟻の数を数える。羽のない普通の巨大蟻が4……かな。そのうち1匹に短剣さんがバトル中と。杖さんも巨大蟻の方か。ジョアン少年も助けるためにか、そちらへ向かっているな。羽の生えた巨大蟻の数は3匹か。巨体過ぎてもっと沢山居るように見えるが、思ったほどじゃないな。それでも高さだけで俺の全長と同じくらい、長さは10メートルはあろうかというサイズは圧巻だな。ほんと、何でも大きくなる世界だな、ここはッ!
えーっと、それじゃあ俺は羽の生えた蟻の方に行きますか。本当はソルジャーアント討伐のクエストを受けているからさ、俺も巨大蟻の方に参加したいんだけどなぁ。まぁ、向こうの4匹に対して3人だからバランスは良さそうだし、俺が羽蟻を受け持てば向こうは巨大蟻だけに集中できるからね。仕方ないよね。
さ、頑張りますか!
――[アイスウェポン]――
走りながら魔法を発動させる。氷に覆われるホワイトランス。このまま!
走り寄ってくる俺という芋虫の存在に気付いたのか羽蟻の顎がこちらを向く。遅い!
――《魔法糸》――
魔法糸を地面に飛ばし、その勢いで空中へ。そこからのッ!
――《Wスパイラルチャージ》――
――《ゲイルスラスト》――
風を纏ったチャンピオンソードを取り巻くように二本の螺旋が、羽を貫き、背を、体を、貫いていく。砕け散れッ!
そのまま槍の螺旋が羽蟻を押し潰す。よっし、一匹目撃破ッ!
突き刺した槍を引き抜き、その勢いで一回転、そのまま羽蟻の背から地面へ着地する。べちゃり。ははは、身軽な芋虫とか怖かろう。
格好良く着地して悦に入っている俺の目の前に滑空した羽蟻が迫る。赤くもならないか、これなら行けるか?
――《払い突き》――
真紅が迫り来る羽蟻の顎を打ち払い、そのまま一回転、羽蟻の体の下を滑るように真紅が走る。そこからのッ!
――《W百花繚乱》――
腹下から羽蟻を持ち上げるように高速の突きが炸裂する。外皮よりは若干柔らかい腹部に、何度も、何度も、真紅とホワイトランスの突きが刺さり、肉を抉り、肉片の花を咲かせる。俺の連続突きに耐えきれなかったのか羽蟻の動きが止まる。あ、やばい。
――《魔法糸》――
魔法糸を後方へ飛ばし、そのまま羽蟻の下から飛び退く。
羽蟻の巨体が地面に落ちる。危ない、危ない、潰されるところだった。潰されて死亡とか洒落にならないぜ。
次でラストか!
しかし、その瞬間、俺が張った氷の壁を砕き、巨大な蟻の顎が広間へと現れる。もう壊されたか。
――[アイスウォール]――
巨大蟻の顎を砕くように下から氷の柱が立ち上がる。広間の中の蟻を倒しきるまで待ってなッ!
視界上部が赤く染まる。俺は大きく右に避ける。それを追うように羽ばたいた巨大蟻が襲ってくる。羽があるだけあって飛び回れるか……いや、幾らこの広間が大きいと言っても、巨体が邪魔して自由に飛び回る、とまではいかないようだな。よし。
俺はホワイトランスとチャンピオンソードを地面に置き、コンポジットボウを構える。
――《チャージアロー》――
単調な動きで飛び回る巨大な羽蟻に番えた矢の先端を合わせる。矢に光が集まっていく。たまには弓も使わないとね。腕が鈍っちゃうからね。
光が最大限に集まったところで矢を放つ。そしてすぐに矢を番え、次の矢も放つ。
一つ目の光り輝く矢が羽蟻の脳天に突き刺さる。そして、その矢をなぞるように次の矢も脳天に刺さる。巨大な羽蟻が大きな顎をカチカチと鳴らしながら地面へと落下する。
俺は地面に落ちた羽蟻に近寄り、真紅を突き刺す。何度も何度も突き刺す。羽蟻がその巨体を起こそうと動き、そのまま崩れ落ちる。よし、こっちは終わった。
向こうはどうなっている?
―2―
俺は地面に置いたホワイトランスとチャンピオンソードを拾い、ジョアン少年達の元へ。
『大丈夫か?』
「ああ、こっちはなんとか……って、あんた」
ジョアン少年が大盾で短剣と杖の二人を守っている。周囲、3匹からの攻撃を器用に盾で弾き返していく。そして、その隙を短剣と火の球で攻撃していく。うん、いい感じにパーティプレイをしているな。って、まだ1匹しか倒せていないのか。
「こないだの芋虫の人じゃないか」
うん? って、一昨日に助けた瀕死の二人じゃん。もう戦っても大丈夫なのか? おいおい、元気すぎるだろ。
「ラ、ランさん?」
杖の人も一瞬だけ、こちらを向く。一瞬見ただけで俺と分かるとは……。それに俺の名前を覚えているなんて光栄だね。
『こんなすぐにここへ来て大丈夫なのか?』
「リベンジだよ、リベンジ。冒険者がよっ、負けたままにしてたら、他でも逃げるようになっちまうからよっ」
短剣が飛び跳ね器用に攻撃しながら会話する。逃げ癖は駄目だよね。
『そうだな。確かにその通りだ』
――[ヒールレイン]――
巨大蟻が範囲に入らないようタイミングを見計らい、短剣、杖、ジョアン少年の上に癒やしの雨を降らせる。まずは回復、回復。にしてもMPがキツいな。次のアイスウォールは無理かな。
「助かるぜ」
にしても、巨大蟻を倒すのに時間が掛かりすぎだよね。よし、俺の方で1匹減らしておくか。
俺は全体から見れば他よりは離れている巨大蟻へ駆け出す。
――《Wスパイラルチャージ》――
二重の螺旋が巨大蟻を貫く。その一撃で巨大蟻は崩れ落ちる。うん、楽勝、楽勝。余りにも時間が掛かっているから、何か特殊な個体かと思ったけど、うーん。これ、普通のソルジャーアントだよね。
「さっすがー」
「やるな」
二人からの称賛。おうさ、もっと褒めるがいいぜ。
ジョアン少年がタイミング良く巨大蟻の顎に盾を当て、巨大蟻をのけぞらせる。そして、持っていた剣を腰だめに構える。構えた剣に光が集まっていく。
伸びた光の剣によって目の前の巨大蟻が真っ二つになる。そういえば、耐えれば耐えるほど強くなるとか説明していたよな。もしかして、あの光の剣って攻撃を受けて何かが溜まってやっと発動出来るようなスキルなんだろうか。もし、そうだとすると聖騎士って、結構不便なクラスだなぁ。
「ち、さすがに予備の武器だとキツい……かっ」
へー、それ、予備なんだ。いや、こちらを見ても……いや、あの、青のダガーを上げたりはしませんよ。うーん、見るに、この二人は攻撃力不足だよなぁ。多分、倒した1匹目もジョアン少年の攻撃なんだろうな。火の魔法は牽制程度にしか役に立っていないし、ダガーはかすり傷をつける程度だもんなぁ。決定力が不足しているね。これでDランクなの? って感じだよ。
よし、アイスウォールがいつ壊れるか分からないし、増援が来る前に最後の1匹を倒してしまおう。
俺は最後の巨大蟻の前に走る。こちらに気付いた巨大蟻がジョアン少年からこちらへターゲットを変更し襲いかかってくる。
――《払い突き》――
巨大な顎を真紅が打ち払い、一回転。そのまま真紅が脳天に突き刺さる。そしてッ!
――《W百花繚乱》――
真紅とホワイトランスが巨大蟻を削っていく。あ、アイスウェポンの効果が切れかかっていてホワイトランスが弾かれてる……。ま、まぁ、真紅だけでも削りきれるでしょ。
動かなくなった巨大蟻から真紅を引き抜く。
「な、なんだ、その浮いている武器達は! それに、その槍自体も恐ろしい鋭さを持って、しかも何だスキルか? 魔法か? な、なんなんだ」
何なんだって、星獣様だよ。この世界だと俺みたいなのは星獣様って言うんだろ? 知っているぜ。
「ランさん、凄いです」
「ちょ、調子に乗るなよ。お爺ちゃんが認めたんだから、それくらい当たり前だろ」
うーん。心地よい。何だろう、この世界に来て初めて俺Tueeeが出来た気がする。そうだよ、コレだよ。
こういった称賛を待っていた!
11月15日誤字修正
固体 → 個体




