3-62 過疎化
―1―
と、そうだ。女王の黎明に行く前にお昼ご飯を買っていこう。
俺はいつもの謎肉の串焼きを売っているお店へ。
『いつものを頼む』
お店の人からいつもの串焼きを受け取り魔法のリュックへ。魔法のリュックだと、こういった食べ物を中へそのまま入れても、内側が汚れるってことがないから最高だよね!
「こ、これがランの主食か……」
今日もガチャガチャと金属鎧の音がついてくる。主食って、別にこれしか食べられないわけじゃないんですけど。ただ単に他のお店を探すのが面倒なだけなんですけど。餌みたいに言うの止めてくれます?
西大門を抜け、帝都の外へ。そのまま、女王の黎明へ。
『今、何組くらいの冒険者が挑戦しているのだろうか?』
入り口を見張っている人に聞いてみる。
「ああ、君らで4組目だ」
うお、増えたね。昨日までの不人気具合が嘘のようだ。そんなに害魔獣認定が大きいのか? ま、俺は周りを気にせず進むだけだがね。
砂で固められた丘にある入り口へ。あ、そうだ! 迷宮に入る前に《早熟》のスキルを上げておこう。この中で戦えばすぐにMSPが溜まるだろうし、後は迷宮に入るだけだから、いざって時の為に保留しておく必要もないでしょ。うん、稼ぐ前に上げとかないとね。
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル4:常時発動、獲得出来るMSPが+4される】
これ、改めて思うけど酷いスキルだよね。これならMSP1の雑魚を沢山殺し回った方がスキルを早く取得出来るってことになるじゃん。バランスブレイカー過ぎるよ。こういったスキルが安易に手に入るのってさ、もしこれがゲームだったら考えられないよなぁ。ま、俺は死にたくないからガンガン利用させて貰ってガンガン強くなるけどね!
さあ、今日も頑張りますか!
―2―
ガチャガチャと鎧の音が迷宮に響き渡る。黙々と迷宮を進むが蟻に出くわさない。うーん、この辺、枯れてるってことか? 倒して手に入った魔石をカンテラの燃料に使う予定だったんだが……仕方ない、砕かずに保管していた魔石を使うか。
ワーカーアントの魔石を魔法のカンテラ(小)に入れる。カンテラから淡い光が立ち上る。さ、進みますか。
しばらく進むと前方から金属と金属がぶつかるような音が聞こえてきた。お、他の冒険者かな。
そのまま進むと予想通り蟻と戦っている冒険者が居た。おー、4人パーティかぁ。でもパーティで来てもMSPが貰えないから微妙なんじゃないかなぁ。
剣と盾を持った4人が3匹ほどの蟻と戦っている。戦士、戦士、戦士、戦士って感じか? どんだけ脳筋なパーティなんだよ。普通は戦士、盗賊、僧侶、魔法使いみたいなバランスを考えるんじゃないのか?
ま、見ていて普通に勝てそうだし、そのまま通らさて貰いますか。ちょっと通りますよー。蟻塚の中は狭いから横を通るのも大変です。まぁ、その分、すぐ合流する脇道が多いから脇道に避けるのも1つの手だよね。
俺たちが冒険者を応援し、その横を抜けようとすると前方の横道から巨大蟻が現れた。うお、これ倒しちゃっていいのかな。獲物を取るな! みたいなことを言われないかな? どうなんだろうか。
「うおおぉぉぉぉ!」
ジョアン少年が盾を構え巨大蟻に突っ込む。ちょ、君はイノシシか。あー、もう! 戦闘が始まった以上、俺も戦うしかないか……。
――《スパイラルチャージ》――
真紅が赤と紫の螺旋を描き巨大蟻を削っていく。あ、このまま行けそう。俺の一撃で巨大蟻が沈む。一撃か……。む、真紅の攻撃力が上がっている気がする。魔石を食べさせている効果かなぁ。ま、強くなるのはいいことだ。それじゃあ、さっそく魔石を取り出しますか。
後続の蟻も来そうになかったので、後ろの冒険者達を応援しながら魔石を取り出す。そして残った死骸を、そのまま魔法のウェストポーチXLに放り込む。うーむ、いつ見ても、この小さな入り口に巨大な死骸が入っていくのは不気味だなぁ。
じゃ、冒険者さん、頑張ってくださいね。
―3―
前回の広間に再度到着。広間には2匹の巨大蟻が残っていた。よし、先手必勝!
――[アイスウェポン]――
ホワイトランスに氷が覆われていく。片方は真紅の一撃で倒せそうだから、よしッ!
――《Wスパイラルチャージ》――
右の巨大蟻へホワイトランスの螺旋が。
左の巨大蟻へ風槍眼―真紅―の赤と紫の螺旋が。
俺の予想通り真紅が一撃で巨大蟻を倒す。よし、そこからの!
――《W百花繚乱》――
2つの槍が右の巨大蟻を貫き花を咲かせる。そのまま無数の花びらを舞わせて巨大蟻が崩れ落ちる。よっし、楽勝!
「ぼ、僕の出番が……」
ジョアン少年が何やら言っている。いや、君は勝手についてきているだけだからね。それに俺はクエストを受けているからさ。6匹のソルジャーアントを俺自身が倒さないと完了にならないからね、仕方ないんですよ。それにさ、今って他の冒険者が居るからか、ホント、蟻の数が少ないもんね。これ、クエスト達成出来るか分からない位だよ。ということで、ジョアン少年に獲物を分けてあげる余裕は無いのだった。
魔石を取り出し、先程と同じように魔法のウェストポーチXLに巨大蟻の死骸を入れる。うーん、一応、あの部屋も見るだけ見てみますか。
左の道を進み食料庫へ。よし、食料庫に新しい食料は積まれてないな! ふう、もし、これで挑戦している冒険者の死体でもあったら……いや、考えないようにしよう。さ、来た道を戻って、今度は真ん中の道を進みますか。
真ん中の道を進むとまた大きな広間に出た。広間の中央では二人組の男女が羽の生えた蟻や巨大蟻と戦っていた。
男は手に持ったダガーで巨大蟻の背に飛び乗り何度も斬り付けている。杖を持った女の方も火の玉を生み出し、蟻へと飛ばし、他の蟻が近寄ってこないように牽制している。なかなか息の合ったコンビネーションだ。うーん、蟻の数が多すぎるな。このままだと押し切られて負けそうだ。どうしよう、手助けするべきか。よし、確認を取ろう。
しかし、俺が天啓を発動するよりも早くジョアン少年が駆け出していた。いや、手助けのつもりだろうけどさ、獲物の横取りになるかもしれないんだぜ。もうちょっと考えようぜ。仕方ない、順番前後になるが、一応、確認するか……。
『戦闘中すまない、手助けは必要か!』
「少し間引いて貰えると助かる」
俺の天啓に、男は蟻へと攻撃を加えながら答える。
じゃ、許可も出たことだし戦いますかッ!