3-57 生存者
―1―
回避、攻撃、回避、攻撃。危険感知が働かないような攻撃なぞ、見てから回避余裕なんだぜ!
――《Wスパイラルチャージ》――
二重の螺旋が目の前の巨大蟻を貫き砕く。2匹目! そしてッ!
俺はサイドアーム・ナラカに持たせたホワイトランスを右の巨大蟻へ。
俺はサイドアーム・アマラに持たせた風槍眼―真紅―を左の巨大蟻へ。
喰らえッ!
――《W百花繚乱》――
左右に分かれた槍の穂が花を咲かせていく。左右二匹の巨大蟻から砕け散る外皮、舞い散る花弁。大きな音を立て左右の巨大蟻が崩れ落ちる。
次!
目の前に迫る巨大な顎。もう一匹、そちらに居たかッ!
――[アイスボール]――
6個の氷の塊が巨大蟻を押し返す。
――《ゲイルスラスト》――
俺の小さな手に握られたチャンピオンソードが烈風を纏い巨大蟻に突き刺さる。更に覆い被さるように2本の槍を突き刺す。俺の攻撃に巨大蟻が大きくのけぞる。突き刺せ、突き刺せッ! 2本の槍と1本の剣を突き刺す。何度も何度も、何度も!
そして巨大蟻が崩れ落ちる。よし、後は少年に向かった3匹か。
ジョアン少年の方はどうなっている?
俺は槍に付着した粘液を振り払い、ジョアン少年の方へ振り向く。
ジョアン少年は巨大蟻を1匹倒し、2匹の巨大蟻と向かい合っていた。
左右からの噛みつきを大盾の下に篭もり防ぐ。ガキンガキンと金属と金属がぶつかるような音が走る。お、硬いねぇ。
殻に篭もり小さな隙に攻撃を着実に当てていく。うん、堅実堅実。よし、一応フォローに入るか。
――[アイスボール]――
6個の氷の塊を浮かべ飛ばしていく。氷の塊が当たる度に巨大蟻の体が揺れる。おー、意外と効いてるね。
ジョアン少年の元へ駆け寄り、こちらも槍でチマチマと攻撃する。ジョアン少年を狙っていた1匹がこちらへ向き直る。へいへい、こっち向けー。
――[アイスウェポン]――
ホワイトランスが再度、氷に覆われる。少し薄くなっていたからね、補充補充。
よし、そろそろ使えるかな? 行くぜ!
――《Wスパイラルチャージ》――
二重の螺旋が目の前の巨大蟻を貫き砕く。螺旋が硬い外皮を抜け肉を抉る。
目の前の巨大蟻は俺の攻撃に耐えきれず、そのまま沈む。よし、次で最後。ま、最後の1匹はジョアン少年に任せよう。うん、何とかなりそうだし。
ということで俺は解体です。今の内に魔石をゲットしよう! にしても、この巨大蟻、どこが素材になるんだろうね。ギルドで聞いておけば良かったよ。酸液も出ないみたいだし、うーむ。まぁ、今回は魔石だけで我慢しますか。
―2―
巨大蟻から魔石を取り出していると、ジョアン少年の戦いも佳境に入ったようだ。
ジョアン少年が巨大蟻の噛みつきをタイミング良く手に持った大盾で弾き返す。おー、シールドパリィみたい。そして、巨大蟻の、その巨大な横顎に思いっきり大盾を突き立てる。シールドバッシュかな。
ジョアン少年の大盾による攻撃で巨大蟻の動きが止まる。千鳥足だ。相手はフラフラだぞ!
ジョアン少年の持っている剣に光が集まる。む、何か溜めてる?
剣からまっすぐな光が伸びる。そして、そのまま伸びた光ごと剣を振り下ろす。ジョアン少年の必殺の一撃によって巨大蟻の脳天が真っ二つに砕け飛ぶ。ぐ、グロいなぁ。
うーん、意外と強いぞ、ジョアン少年。というか、何やらカッコイイ技を使っていたぞ。何だ、アレ。大きく伸びた光の剣で敵を斬り裂くとか、俺も一度はやってみたいなぁ。
ジョアン少年がこちらを振り向く。
「ど、どうだ、魔獣ラン!」
あ、はい。正直、カッコイイ技だと思いました。
「僕は聖騎士だからな。この程度の雑魚は余裕だ!」
いや、でも、6・2ですよね。俺が6で、あなた2なんだけど。
ま、俺が倒した分の巨大蟻の魔石は取り終わったし、この部屋を探索しますか。あれだけ騒いだのに他の蟻が現れなかったのも気になるしね。
「ちょ、待てよ」
少年が慌てて俺を追ってくる。いや、部屋を探索するだけだから、少年は自分の倒した魔獣の素材でも取ってるといいよ。
広間からは3本の道が延びていた。ここでやっと中盤って感じなのかな。ギルドの話だとすげぇ強いのが終盤にって言っていたもんな。
とりあえず道の先をみたら戻りますか。俺はいいとしてもジョアン少年が限界ぽいしね。
正面の通路は長く延びており、先が見えない。多分、ここがクイーンへの正解ルートだな。
右はすぐに行き止まりになっていた。うーん、穴を掘っている最中かな。ここに長居していると黄色い蟻が出てきそうだ。よし、戻ろう。
左の道を進むとすぐに少し広めの部屋に出た。
部屋の中には目を背けたくなるような色々な物があった。バラバラになって積み上げられた何かの魔獣の死体、皮がむかれている何かの実? のような物――ここは蟻の食料庫か。
バラバラの魔獣の死体とかグロいなぁ。うわ、人型もあるよ……。あの隙間から覗いているのって、手……だよな。うわぁ、痛い痛い。俺も奴らにやられたら、ここに積み上げられるんだろうか。か、考えたくないなぁ。
うん?
今、積み上げられた死体が動いた? あの手、ちょっと指が動いたような。ま、まさか。
「魔獣ラン、何処へ……う、これは」
そこへ俺を追ってきたジョアン少年が声をかけようとして止まる。ああ、この死体の山を見てしまったか。って、そうじゃなくて。
『少年、手伝ってくれ』
ジョアン少年が何を? って顔でこちらを見る。
――《魔法糸》――
俺は魔法糸を飛ばし隙間から覗いてた手に結びつける。よし、引っ張るぞ!
ジョアン少年と二人で魔法糸を引っ張る。死体の山が崩れ、中から至る所をかみ砕かれ目をそらしたくなるような姿の男女が現れた。
俺は二人に近寄る。よし、まだ息がある。さすが冒険者、しぶといぜ!
――[ヒールレイン]――
目の前の見るも無惨な二人を中心に癒やしの雨が降る。ゆっくりとだが、体の傷が癒えているように見える。あー、もう一回くらい使いたいところだが、MP的に厳しいか。しかも、この迷宮って余り色つきの靄がないんだよなぁ。MPの回復が殆ど出来ない。次は外に出てからだな。
『少年、運ぶぞ』
「あ、ああ……うん、ああ!」
2021年5月5日修正
槍が穂が花を咲かせていく → 槍の穂が花を咲かせていく




