3-56 巨大蟻
―1―
小迷宮を進んでいく。そんな俺の後をガチャガチャと大きな音がついてくる。こんな大きな音を立てていると蟻が寄ってくるのでは、なーんて思ったんだけど意外と現れないね。蟻って人とは音の感じ方が違うのかなぁ……って、俺も虫だよな、芋虫だよな。でも、普通に音が聞こえるよな。もしかして、俺って凄いのか?
そんな考え込んでいる俺の前に蟻が現れる。おーっと。
――《Wスパイラルチャージ》――
二重の螺旋が蟻を貫く。はいはい、瞬殺瞬殺。
「ま、魔獣ラン。お、お前は何なんだ?」
金属鎧がガチャガチャと鳴っている。お前言うな。
『星獣だよ』
金属鎧は幼い顔を悩ましげに歪ませ、腕を組む。
「魔獣は固有のスキルしか使えないはずだ」
あ、そうなの? 魔獣って、そんな感じなんだね。その情報は初めて聞くなぁ。
「た、確かに発動スキルと見間違うほどに武器の扱いを研鑽した魔獣もいる。でも、その力は、ど、どうみてもスキルの発動にしか……」
いや、普通にスキルの発動ですよ。となると……。俺ってば闘技場でがんがんスキルを使っていたよね。うーん、闘技場で俺の存在って、俺は、どんな風に思われていたんだ? あり得ない存在だと思われていたのか? それとも発動スキルと見間違うくらいに研鑽した技術だと思われたのか? 見に来ていた人々は違いが分からないほど単純だった? うーん。
『少年、君の常識が全てとは限らない』
いやさ、だってさー、まだこの子ちっこいじゃん。小さな世界での思い込みで喋っている可能性も否定出来ないよね。世間知らずぽい感じもするしね。
ま、考えても仕方がない、進みましょう。
その後も現れた蟻を瞬殺し、がんがん進んでいく。楽勝、楽勝。
昨日、発見した小部屋に到着。うーん、さすがに今回は何も無いな。にしても、ここまで巨大蟻に一匹も会わなかったなぁ。この調子で6匹も倒せるんだろうか。
「ま、待って、待ってくれよ」
金属鎧の少年の足下がふらついている。ああ、まぁ、重そうな鎧だしね、疲れちゃったのかな。ちょうど小部屋だしね、休憩するか。
『少し疲れたので、自分はここで少し休憩する』
「ふ、ふん。この程度の道のりで疲れるとは情けないな!」
おお、そうだねそうだね。俺は情けない魔獣だから、ここで休憩するよ。
―2―
俺は魔法のリュックから謎肉の串焼きや皮の水袋を取り出し、食事の準備を始める。謎肉の串焼きは昨日の残りだけど、まぁ、食べても大丈夫でしょう。一日くらい食える食える。水はアクアポンドで生み出せばいくらでも補充出来るからガブガブいっちゃいましょう。
そんな俺の姿をジョアン少年が物欲しそうに見ている。そういえばこの子ってば何も準備していなかったな。仕方ない。
『飲むか?』
「ふ、ふん。魔獣が口をつけたような物など!」
あ、はいはい。ホント、この子、面倒くさい性格をしているよなぁ。
――[アクアポンド]――
俺はこっそりと魔法を発動させ、ちょっとした水たまりを作る。
『む。このような場所にわき水が』
そのままちょっと水を掬って飲んでみせる。
『ふむ。飲めるようだな』
はいはい、安全な水のアピールをしてあげましたよ。
ジョアン少年は無言で水たまりに手を伸ばし、そのまま手を水の中へ。そして、手に付いた水を舐める。
「うん。この水は大丈夫なようだ」
そりゃね、俺が魔法で出した水だからね。
「ぼ、僕はこの水を飲むが、魔獣ラン、お前は補充をしなくても良いか?」
あー、お気遣いありがとうございます。まぁ、お前言うなですけどね。
『大丈夫だ』
しかしまぁ、こういう時にクリエイトフードの魔法でもあればなぁ、って思うね。あー、でもアレって凄い不味いんだったか。ここが蟻塚ではなく食べられる魔獣も出るような場所だったら良かったのにね。
こちらを見ているジョアン少年。……さすがに謎肉の串焼きまではあげませんよ。
「ふぅ、小迷宮、こ、この程度か!」
ジョアン少年は水を飲み、一息ついたことでかなり元気になったようだ。じゃ、進みますか。
俺は無言で歩き出す。
「お、おい、もう行くのか」
いや、行きますよ。だってさ、今日中に巨大蟻を6匹倒すつもりですもん。
―3―
小部屋を出て、来た道を少し戻り、更に奥へと進む。しばらく進むと広間に出る。広間には、こちらを待ち構えるようにうじゃうじゃと巨大蟻が居た。おー、沢山居るね。あー、《スピアバースト》でもぶち込みたい数だよ。
「な、何だ、この数!」
よし、数えてみよう。1、2、3……8か。多いって言ってもその程度の数か。サイズが大きいから沢山いるように錯覚しちゃうな。よし、倒そう。
『殲滅する。自分の身は自分で守れ』
「い、言われなくても!」
俺は巨大蟻目掛けて駆け出す。
――《集中》――
集中力が増し、ゆっくりと動く世界の中、巨大蟻がこちらへ動き出すのが見える。
――《アイスウェポン》――
ホワイトランスが氷を纏う。まずは!
――《Wスパイラルチャージ》――
二本の槍が二重の螺旋を描き目の前の巨大蟻を貫き、削り、破壊していく。まずは一匹目! 数を減らさないと危険だからね。
巨大蟻たちが一斉に俺の方を向く。さあ、かかってこい!
7匹の巨大蟻が俺をかみ砕こうと大きな顎で襲いかかってくる。喰らうかよ!
――《百花繚乱》――
穂先も見えぬ高速の突きが迫り来る大きな顎を砕き削り花を咲かせていく。舞い散る花弁。たまらず巨大蟻が後退する。
俺を危険とみたのか群れのうち3匹ほどがジョアン少年へと向きを変える。む、3匹はキツいか?
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、巨大蟻の足を固定し、動きを鈍らせる。更に!
――[アイスボール]――
6個の氷の塊を浮かべ、もう一匹に飛ばす。氷の塊を喰らった巨大蟻は嫌がり動きを鈍らせた。
ジョアン少年の元へと到達した巨大蟻は一匹のみ。さあ、頑張れ。って、俺も目の前の4匹を倒しきらないと。
――《払い突き》――
巨大な顎を打ち払い一回転、氷に覆われたホワイトランスが巨大蟻の脳天に炸裂する。そして更に真紅も突き刺す。すぐに迫る複数の巨大蟻の顎。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、その勢いで跳躍し回避する。
ジョアン少年を見ると巨大な盾を構え貝のように閉じこもり巨大蟻の攻撃を防いでいた。そして、その攻撃を耐え、少ない攻撃のチャンスにチマチマと剣でダメージを与えている。おー、意外とやるね。もっとダメダメな子だと思っていたよ。
よし、こっちはこっちで頑張ろう。
7月17日修正
『星獣様だよ』 → 『星獣だよ』




