3-54 金属鎧
―1―
持って帰った魔石を次々と砕く。巨大蟻の魔石からは2のMSPが手に入った。そこそこ……かなぁ。3個手に入った巨大蟻の魔石のうち、2個は真紅に食べさせることにする。もっともっと成長してください。
さてさて、現在のMSPは105か、と。よし、《早熟》スキルを3にしよう。
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル3:常時発動、獲得出来るMSPが+3される】
よしよし、いいぞいいぞ。残りのMSP45は何かの為に取っておこう。また沢山溜まったら使うってことで。少し溜まる度に使っていると何か必要に迫られた時が怖いからね。
そのまま廃屋のような我が家で眠る。おやすみなさい。
朝になったので、今日も今日とて冒険者ギルドへ向かう。
墓地を抜け、貧民窟を抜け……って、またもクソ餓鬼どもが俺の周りに集まってくる。
「芋虫、ぐるぐるしろよー」
「糸だせよー」
「経験値……」
今日も4人か。ホント、このクソ餓鬼どもは。
よし、俺の怖さを思い知らせてやる!
俺は背中の大盾を外し、地面に置く。
「何だよ、これ、くれるのかよ」
いつも執拗に蹴りを入れてくる一人のクソ餓鬼が近寄ってくる。そうだ、近寄るがよい!
クソ餓鬼が俺の大盾を拾おうと手を乗せる。今だ!
――《浮遊》――
クソ餓鬼が大盾ごと浮上する。はっはっは、怖かろう!
「すっげ、すっげ、俺、浮いている!」
あれ? 思っていたのと違う反応だ。
他の餓鬼どもも集まってくる。うん? 犬人族の子どもだけは遠くから俺を見ているな。この三人とは別グループなのかな。
「俺も浮かせてくれよ」
「わ、わたしも、わたしも!」
俺は浮遊を止める。クソ餓鬼どもが大盾にかぶりつく。いや、もう浮遊は使わないからな。……MPが勿体ないし。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、クソ餓鬼どもから大盾を回収する。そのままクソ餓鬼どもを無視して貧民窟を抜ける。……絶対、あの子ども達は俺を待ち伏せしているよな。こう三度も偶然があってたまるか。
―2―
西大通りにあるちっぽけな冒険者ギルドへ。
ギルドの前には俺を待ち構えるように金属鎧で全身を包んだ少年が居た。ちょ、マジか。回れ右だ。
「待て!」
少年から大きな声がかかる。ちっ、見つかってしまったか。仕方ない無視するか。
「おい、聞こえているんだろ!」
俺は少年を無視して冒険者ギルドの中へ。
「お、おい、お前、言葉が分かる魔獣……だよな?」
無視、無視。
『すまない、今日もクエストを受けたいのだが』
俺は目の前の犬頭のスカイに天啓を飛ばす。
「あ、ああ。でも、チャンプ、その……無視していいのか?」
何のことだね。
「お、お前、喋れるじゃないか! 無視するなよ!」
ガチャガチャと金属鎧の音がうるさいね。
『ところで女王の黎明に関する討伐系のクエストはないのだろうか?』
「あ、あるよ。でも、その前に、いいの?」
何が?
「チャンプとか言われていい気になって!」
討伐系は何があるかなー。
「あ、ああ。一番は女王の討伐だけど、Cランククエストさ」
そっかー。まだ受けることも出来ないのか。あれ? となるとこの青のダガーの持ち主だった冒険者は最低でもDランクだったことになるのか?
「後はDランクのソルジャーアント討伐かなぁ」
じゃ、それで。ソルジャーアントって、あの巨大蟻のことだよね。蜂の時と同じようなネーミングセンスだなぁ。
「お前なんかが、魔獣なんかが、お爺ちゃんの剣を!」
俺はその言葉に思わず金属鎧の少年に振り返ってしまった。うん? ちょっと待て。今、気になる言葉が出たぞ?
「ちゃんと聞こえているじゃないか!」
ち、しまったな。思わず反応してしまったが……まぁ、無視無視。
『そのクエストを受けよう』
Dランク
討伐クエスト
ソルジャーアントの討伐
小迷宮『女王の黎明』に無数に生息するソルジャーアントの討伐
最低6匹以上の討伐をお願いします。
クエスト保証金:5,120円(銀貨1枚)
報酬:51,200円(小金貨1枚、銀貨2枚)
獲得GP:240
3日以内の討伐をお願いします。
3日以内かぁ。まぁ、今日討伐してしまうつもりだから大丈夫か。それにしても一気に貰えるGPが増えるな。これならすぐにDランクになれるんじゃないか?
「じゃあさ、ステータスプレートを貸して」
俺はスカイにステータスプレート(銀)を渡す。
「無視してクエストを受けるなよ……」
金属鎧の少年は涙目である。……若いなぁ。
「ほい、完了。じゃ、頑張って」
俺はスカイからステータスプレート(銀)を受け取る。これで受注完了って感じなのかな。はいはい、では頑張ろうかな。
さあ、今日も『女王の黎明』に向けて出発だー。
「お、おい。何処に行くんだ。迷宮か? 僕も着いていくからな!」