3-52 蟻祭り
―1―
かかってこい!
と言うわけで地道に戦うワケです。まずは黄色い蟻だ。アレが一番危険だ。
正面の蟻の死骸をどかし、黄色い蟻へ。飛んできた蟻酸をホワイトランスで打ち払い真紅を突き刺す。一撃では倒しきれないので氷によって膨らんだホワイトランスを盾のように構え蟻酸を打ち払い、真紅を何度も突き刺す。
――[アイスボール]――
後ろからゾロゾロと迫ってくる蟻へ氷の塊を飛ばし牽制する。俺が前方の黄色い蟻を倒すと、その死骸を押しのけるようにまた新たな蟻が現れる。何匹でも来るがよい。
――《スパイラルチャージ》――
正面から新たに迫ってきた蟻を真紅の赤と紫の螺旋が貫く。一撃必殺! さあ、次だッ!
後ろへ振り返る。
――《W百花繚乱》――
近寄ってきていた4匹の蟻を高速の突きが押し返す。高速の突きによって蟻の皮がめくれ花となり弾け飛ぶ。そのまま肉を抉り無数の花弁を開かせる。
倒した4匹を押しのけ一回り大きな巨大蟻が現れる。更に背後の開いた穴から再度、黄色い蟻が現れる。
――[アイスボール]――
巨大蟻に氷の塊を飛ばし後退させる。その隙に!
俺は振り向き黄色の蟻へ。
――[アイスウェポン]――
ホワイトランスに薄くなっていた氷を補強する。氷に覆われたホワイトランスを盾代わりに真紅で突進する。
――《集中》――
集中しろ! 次々と飛んでくる蟻酸をホワイトランスで防いでいく。更に正面から蟻が現れる。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし、正面の蟻の動きを止める。蟻からしたら芋虫の俺なんて巣に入り込んだ餌でしかないんだろうな。ふふふふ。ふぁふぁふぁ。
黄色の蟻へ真紅を突き刺す。蟻酸をホワイトランスで打ち払い、何度も何度も突き刺す。黄色い蟻の動きが止まったところで振り返る。
氷の塊で後退させていた巨大蟻がすぐ近くまで迫っている。二本の槍を構え突き刺す。巨大蟻は突き刺された状態のまま、突進してくる。くっ、力は巨大蟻の方があるか……。
巨大蟻に押されずりずりと後退する。押された先から更に二匹の蟻が顔を見せる。更に魔法糸で封じていた蟻も糸を噛みちぎり、こちらへ動き出す。ええーい、キリが無い!
現れた二匹のうち、一匹が死骸を咥え運んでいる。通路を開けようとしているのか? もう一匹と自由になった一匹が巨大蟻に押されている俺に向かってくる。
――[アイスボール]――
氷の塊を飛ばし、二匹の蟻の行動を邪魔する。そろそろ行けるか?
――《魔法糸》――
魔法糸を後方へ飛ばす。その勢いを利用して、二本の槍を引き抜き跳躍。氷の塊を受け動きの止まっている蟻の目の前へ。そちらの蟻は無視してっと。行くぞ!
俺は突進してきている目の前の巨大蟻へ駆け出す。
――《Wスパイラルチャージ》――
氷と赤と紫の螺旋が、二つの渦が、目の前の巨大蟻を貫き、押し返していく。そのまま体を砕き螺旋に抉る。俺の螺旋が巨大蟻の突進を止める。そして、そのまま巨大蟻が崩れ落ちる。よし、この通路を塞いだ死骸で次が来るまで時間を稼げそうだな。
すぐさま振り返る。三匹の蟻が目の前に。ち、死骸を片付けていた蟻も来たか! お、終わりが見えないな……。いや、折れない、折れないぞ! 折れたら食われて終わりだからな。
まだまだッ!
―2―
はぁはぁはぁ。
どれくらい倒した? もう憶えてないくらい倒したな。にしても、こいつら卑怯だよな、死骸で道を塞ごうとしてもちゃんと片付ける係が居るんだもん。そこは魔獣らしくがむしゃらに突っ込むだけにしといて欲しいよ。
目の前の蟻にホワイトランスの一撃を叩き付ける。ぐしゃりという音がして蟻の頭が潰れる。そしてそのまま真紅で顔を貫く。ふう、倒したか。
気付くと動いている蟻は一匹も居なくなっていた。はははは。刈り尽くしてやったぞ!
いやぁ、MPが結構ギリギリだったからなぁ。MPが切れていたら終わっていたな。周囲の魔素を吸い込んで回復させる分よりも消費の方が多いんだもん。というかだね、この小迷宮だと吸っても余りMPが回復しないんだよな。ホント、きついきつい。
防いで時間稼ぎしてスキルを使って貫いて、ホント、何度繰り返したか分からない。
とりあえず次の蟻は襲ってきそうにないな。よし、どれくらいMSPが増えたか確認してみるか……って、うお。63も増えてる。頑張った甲斐があったなぁ。とりあえず40消費して《早熟》スキルを2にしておこう。
【《早熟》スキルがレベルアップ】
【《早熟》スキル2:常時発動、獲得出来るMSPが+2される】
よし、予想通りの効果。MSP稼ぎの効率が更に良くなるな! これ、加速度的に強くなっちゃうんじゃない? 俺の時代が始まっちゃうんじゃない? あー、ワクワクする。と、ああ、そうだ、そうだ。ちゃんと魔石や酸液を回収しないと……。
時間をかけ、無数の蟻の死骸から酸液と魔石を回収していく。巨大蟻は……ありゃ、酸液が出ないな。仕方ない、魔石だけ回収しておくか。うーん、それにしても次の蟻が現れないな。本当に全部倒してしまったんだろうか?
酸液の回収途中で壺が一杯になる。仕方がないので魔法のポーチS(2)に直接入れるコトにする。これ、中の魚醤と混ざったりしないよね。分かっていても不安になるよ。
と、そうだ。もう新しい蟻が現れないのなら、先程の小部屋から武具を持って帰ろう。ゆっくりと吟味が出来るしね。
小部屋に戻り、アイテムを吟味する。
【錆びたロングソード】
【刃渡り1メートルほどの一般的な長剣。錆びて脆くなっている】
【カットラス】
【反り返った刃を持つ短めの剣】
【初級の杖】
【初心者魔法使いに支給される杖。火と風の属性を強化する】
【青のダガー】
【水の魔力を宿した短剣。所持者にわずかばかりの癒やしの力を与える】
【腐ったブライスースの皮鎧】
【ブライスースの皮を使った鎧。腐って脆くなっている】
【錆びた鉄のプレートメイル】
【上半身を覆う鉄製の鎧。錆びて脆くなっている】
【魔法のリュック(3)】
【亜空間にアイテムを収納できる魔法のリュック。収納できる種類は3】
結構、多いな。でも、錆びたり腐ったりは微妙かなぁ。魔法のリュックは収穫だよね。使用者登録が出来るか確認してみたら普通に登録出来たし、これは貰ってもいいよね。……ということは持ち主は死んでしまったってことなんだろうね。世知辛い世知辛い。ちなみに中身は空っぽだった。アイテムを使い切ってしまったのか、それとも持ち主が死ぬと空っぽになってしまうのか、まぁ、その辺は謎だよね。
巨大蟻が新しく運んできたのは青のダガーと初級の杖だった。って、ことはついさっきまでこの持ち主が頑張っていたのか……? 本日、入った人間は居ないって言っていたよね。つまり昨日から戦い続けていた? そのまま力尽きたか……うーむ。生々しいなぁ。とりあえず遺品扱いでギルドに持っていくか。
魔法のリュックがあったのは良かったな。これで何とか全部持って帰れそうだ。とりあえず狩人にメインクラスを変えて、袋の容量を増やしますか。
さあ、帰ろう!