3-51 蟻舞踏
―1―
小迷宮『女王の黎明』へ。入り口を守っている人に挨拶をする。
『今日は何人くらい挑戦しているのだろうか?』
「ああ、今日はまだ誰も入っていない」
俺の天啓を嫌そうにしながらも答えてくれる。まだ誰も入っていないのか。あれ? もしかして、ここって余り人気がない小迷宮なのか? それなのに門番が居るなんて――人件費の無駄じゃないか? うん、まぁ、そうは言っても帝都近くの小迷宮だからね、人気のあるなしに関係無く管理する必要があるのかもね。
俺はそのまま小迷宮の中へ。じゃりじゃり足下に粗い感触が広がります。
さあて、さっそく魔法のカンテラ(小)をつけようか。
……。
……あ。魔石がない。うおお、俺ってお馬鹿さんですか! でも、魔石って買えないよな? 売っているところを見たことがないんですが。この世界って魔石を動力源にしているみたいなんだけど売ってないって――自力で獲得しろってことですか? なんともまぁ、ちぐはぐな世界ですね。
ま、魔石は蟻を倒せばすぐにでも手に入るか。
薄暗い複雑に入り組んだ蟻塚の中を進んでいく。しばらく進むとワーカーアントの線が見えた。よし、1匹目。ガシガシ倒そう。
――[アイスウェポン]――
ホワイトランスが氷に覆われていく。時間勝負な面もあるからな。最初から武器に魔法を使っていこう。
蟻がこちらに気付き歩いてくる。今回もいきなりは攻撃してこないのか……。前回は好戦的じゃないのかなぁって勘違いしたんだよね。というわけで! 俺はじゃきーんと真紅を伸ばす。
――《スパイラルチャージ》――
赤と紫の螺旋が目の前の蟻を貫く。俺の一撃で目の前の蟻は動きを止めた。さあ、大至急、酸液と魔石を確保せねば。
まずは酸液の確保か。魔法のウェストポーチXLから壺を取り出す。急げ急げ。えーっと口の下……この尖った顎の下側かな。ここかなって所に切断のナイフを入れる。斬り裂いた場所から蟻酸に近い黄色の液体が溢れてくる。た、多分、コレだな。その液体を壺の中に入れる。それと魔石も取らないと。そのまま外皮も剥がし魔石を取り出す。よし、この魔石はランタンに入れよう。
魔石をランタンに入れると魔法のランタン(小)から薄ぼんやりとした明かりがあふれ出る。うお、思っていたよりも微妙。足下がちょっと見えるくらいには明るくなったかな。うん、これ、無いよりはマシ程度だなぁ。
しばらく待ってみたが次の蟻が現れる気配は無かった。おー、もしかして、気付かれる前に倒せたら増援はないのか。となると瞬殺推奨だねぇ。
そのまま、奥に進む。分かれ道が多く、こんがらがりそうになるが、多くの道が分かれた先で合流していたため、とにかく考えずに進むことにした。逆方向に戻れば帰れるでしょ、多分。
―2―
またも蟻を発見。
――《スパイラルチャージ》――
真紅から生まれる赤と紫の螺旋が目の前の蟻を貫く。うん、余裕だ。仲間を呼ばれる前に倒してしまえば安全に進めそうだな。倒した蟻から酸液と魔石を入手する。今日中に《早熟》スキルを2にしておこう。そうすればもっと効率は良くなるはずだしね。《早熟》スキルを上げきったら《転移》のチェックポイントを増やすのも有りだし、技系のスキルを憶えるのも……夢が広がるなぁ。例えMSPが1しか入らなくても《早熟》スキルで増やせるからね。うん、戦士のクラスをゲットしておいて良かった。そう考えると闘技場も無駄じゃなかったよね。
その後、現れた4匹ほどの蟻を瞬殺し進むとちょっと広い小部屋に出た。ありゃ、行き止まりか。これは来た道を引き返さないと駄目か……うん?
小部屋の中央が少し膨らんでいるのが気になるな。
掘り起こしてみるか。あー、こんなことならスコップでも用意すれば良かった。武器としても最強、穴も掘れるなんて最強過ぎるもんね。買っとけば良かったわー。仕方ない、ホワイトランスで掘り返すか。
掘り返すといくつかの武具が現れた。な……もしかして、ここは蟻たちのゴミ捨て場か? 持ち帰ったらちょっとしたお金になりそうだな。あ! でも、どうやって持って帰る? 今は戦士にしているから袋の容量も……仕方ない狩人に戻すか。それでも沢山は持ち帰れないし、た、高く売れそうなのだけを厳選して……。
そんなことを考えていると小部屋の入り口から一回り大きな蟻が現れた。口に回収したばかりであろう武器を咥えている。あ、もしかして、この部屋に武器を捨てに来たのか?
って、まずは即効で倒さないと……こんな所で仲間を呼ばれたら逃げ道がなくなるぞ!
ちょっと、強そうだし、ここは!
――[アイスウェポン]――
ホワイトランスが氷に覆われる。からの!
――《Wスパイラルチャージ》――
二本の槍が螺旋を生み、目の前の巨大蟻を貫く。その一撃で巨大蟻は息絶えた。よし、瞬殺出来た!
しかし、蟻は一匹では無かった。俺が倒した蟻の後ろにも巨大蟻が。ちょ、マジか。そして、こちらに気付いたもう一匹の巨大蟻が巨大な顎を打ち鳴らし威嚇行動を取る。や、やばい。
――《W百花繚乱》――
二つの槍から放たれる高速の突きが蟻の外皮を削り、花を咲かせていく。そのまま小部屋を塞ぎかねない蟻の巨体を回避し通路へ。
逃げるため通路を駆け出す。が、それを追うように無数の蟻が現れる。前方からも後方からも横からも……囲まれた。しかも、今の状態だとすぐには技が使えないぞ。くそ、もうちょっと天井が高ければ《スピアバースト》で一掃出来るのに……。
小部屋の宝物は惜しいが、今は逃げる方が先だな。仕方ない、今日はこれで撤退だ。
――《集中》――
とにかく集中してミスを無くすべきだ。
まずは! 退路を塞ぐ蟻に突きを放つ。
――[アイスボール]――
6個の氷の塊を浮かべ、それを後方に飛ばし蟻の行動を邪魔する。
横からの蟻の噛みつきをホワイトランスで受け流し、正面の蟻へ真紅で攻撃する。うお、頭がこんがらがりそうだ。とりあえず倒すのは正面。まずは逃げないと!
正面の蟻を倒し、やっと進めると思った瞬間、正面横の壁が崩れまた新顔が現れる。今度は黄色い蟻だ。ははは、逃がさないってか。もういい、よーく分かりました。付き合ってやるよ!
全滅させてやる!
2015年7月5日修正
無数の武具が現れた → いくつかの武具が現れた
口に何個か武器を → 口に回収したばかりであろう
2021年5月5日修正
ちょ、マジカ → ちょ、マジか




