3-50 酸液だ
―1―
朝でーす。我が家での目覚め――うーん、爽快ですね。そういえば、この家、神国に居るような格好をした化け物が出るって話を建築ギルドで聞いたけれど……現れる気配はないな。ま、俺の家だしな!
昨日の成果はMSPが13か。普通に手に入ったMSPが7、早熟の効果で増えたMSPが6か……。うーん、稼げるか? 手に入った6個の魔石も(1個は真紅に食べさせたが)砕いてみたが、手に入ったMSPは5。魔石を砕く場合には《早熟》スキルの効果はないようだ。となると砕く時にわざわざ戦士へ変える意味が無いな。まぁ、とりあえずはメインを戦士にして頑張ろう。
さあて、まずは冒険者ギルドに向かうか。
我が家を出発し、墓地を抜け、貧民窟へ。
「また芋虫だぜ」
「何で壁の中に居るんだよー」
「どれくらい経験値持ってるんだよ」
相変わらずクソ餓鬼共が俺の周りに寄ってくる。今日は4人か。近くに3人と、少し遠くにぼろぼろになったぬいぐるみを抱えた犬人族の子どもが1人だな。
子ども達は遠慮無しに俺に攻撃を仕掛けてくる。子どもの手加減無しの蹴りが意外と痛いんだって。むう。ふっふっふ。もうね、俺は怒ったぜ。
――《魔法糸》――
俺は一番、遠慮無く蹴りをしてくる少年を魔法糸でぐるぐる巻きにする。はっはっはー、俺は怖いんだぜー。
「うおおお、なんだコレ、すげぇー」
ぐるぐる巻きになった子どもが大喜びしている。へ? な、なんだろう、この世界の子どもは強いな……。
「おい、俺もぐるぐるにしてくれよー」
「わた、わたしも、わたしも!」
俺は餓鬼どもを無視して貧民窟を抜ける。そのまま西大通りへ。ま、魔法糸は時間が経てばほどけるから大丈夫だろう。
―2―
西大通りにあるちっぽけな冒険者ギルドへ。
『良いかな』
一声かけて冒険者ギルドの中へ。
「あいよ。おー、チャンプじゃん。朝はやいねー」
冒険者ギルドの中にはスカイが居た。
『昨日、女王の黎明に行ってみたのだが、情報を貰っても良いかな?』
何でも聞けるんだ、がんがん聞こう。
「おー、チャンプ、一人で行ったのか? やるー」
えー、だって一人で行くでしょ。べ、別に俺がぼっちだからってワケじゃないんだからね!
「あそこはさー、沸きがいいからさ、ある程度強い人がソロで殺し続けるか、パーティを組まずに行って、押さえ込む係と倒す人でローテするのが定番よー」
あー、パーティを組むとMSPが頭割りになるもんな。あえてパーティを組まないのか。
『迷宮の構造や出現する魔獣はどうだろうか?』
「小迷宮にしては大きいよ。最下層に居るクィーンが生き延びれば生き延びるほど迷宮が広くなるらしいからさ。後は魔獣かー。魔獣は蟻だけだよ。黄色いのは迷宮を作る係だから……最下層まで出るかなー。後はちょっと強いのが中盤に、すげぇ強いのが終盤にって感じさ」
ちょ、凄い適当。お金は取られたけどちびっ娘の方が分かりやすく有用な情報だったなぁ。ま、まぁ、情報ありがとう。次は、と。
『迷宮を照らす明かりが欲しいのだが、魔法具を取り扱っている店はあるだろうか?』
「お? おー、おー。いいのあるよ」
そう言ってスカイはカウンター下から小さなランタンを取り出す。おー、サイズは小さいがスタンダードなランタンだ。でも、手持ち式かぁ。
「腰に付けるのもあるんだ」
そう言ってもう一個、ランタンを取り出す。こちらも小さめだ。でも、お高いんでしょう?
「新人冒険者向けの基本セットの一つさ。どちらも20,480円(銀貨4枚)と、すっごいお買い得!」
む、確かにお買い得。確か普通の魔法のランタンが81,920円(小金貨2枚)だったよな。うん? 安すぎないか?
『随分と安いようだが?』
犬頭のスカイが手を大きく振る。
「ま、まがい物じゃないよ。ちょっと燃費が悪くて光量が少ないだけだよ!」
そういうことか。まぁ、気に入ったランタンが見つかるまでの繋ぎとしてなら……これくらいの金額なら買いやすいし、貰っておくか。
『腰に付ける方を貰おう』
「おー、ありがとうありがとう」
俺はスカイに20,480円(銀貨4枚)を渡し、小さな魔法のカンテラを受け取る。
――《魔法糸》――
さっそく魔法のカンテラに糸を通し、腰に結びつける。うん、良い感じ。
『それとクエストを受けたいのだが。女王の黎明関連はあるだろうか?』
「はいはい、これなんか、どう?」
Eランク
常設クエスト(採取)
ワーカーアントの酸液収集
小迷宮『女王の黎明』に無数に生息するワーカーアントから取れる酸液の収集
酸液を16個分納品してください。
容器は貸し出します。
壊した場合は5120円(銀貨1枚)
クエスト保証金:無し
報酬:10240円(銀貨2枚)
獲得GP:12
「ワーカーアント自体はGランクの魔獣、でも、あそこは数の暴力が凄いからさ、全体でEランク相当になるのよ」
なるほど。そういえばMSPが1しか貰えなかったもんな。
『ちなみに酸液とは?』
あの吐き出していたヤツか?
「ワーカーアントの口の下くらいから採取出来るよ。黄色いのなら大量に……うーん、普通の4個分くらい?」
てっきり硬い皮が素材になるのかと思ったら、そっちなのか。
『ちなみに酸液は何に使うのだ?』
「えーっと、確か、そうそう。何かの樹液と混ぜると粘着性を持って色々くっつけられるようになる……かな、うん」
へー。接着剤みたいな物になるのかな。
「で、受ける? 酸液の普通の買い取り金額の倍額になるからお得だよー」
ま、受けても良いかな。ただ、どうワラワラと現れる蟻を捌きながら採取するかが問題だけどね。そこだけが少し不安なんだよなぁ。まぁ、でも受けておくか。
『受けよう』
「はいよ。では、この容器をどうぞ」
そう言ってスカイはカウンター下から白い蓋付きの壺を取り出す。
「この中に16個分は入るよ」
『ちなみにそれ以上の数を採取したい時は?』
俺の言葉にスカイは驚く。
「おいおい、チャンプ。あんた……本気で言っているの? 熟練の冒険者でも採取しながら討伐を続けるのはキツい場所よ? 何日かに分けて一杯にするようなクエストよ? 本当に本気で言っている?」
へ? そうなの? そういえば期限が設けられていなかったな。うんじゃまぁ、今日はこれが一杯になったら満足するって方向で。余裕があるようなら次は何個か壺を預かるようにって方向で頑張りますか。
じゃ、今日も小迷宮『女王の黎明』に向かいますか。
2021年5月5日修正
てっきり堅い皮 → てっきり硬い皮