3-47 大通り
―1―
ギルドの職員、スカイの言われるままに通りを歩くと大きな木槌の置かれた建物が見えてきた。ちょっと大きな平屋の建物だ。にしても帝都にある多くの建物の屋根の端が尖っているのは何の意味があるんだろうか。ま、まぁ、入ってみよう。
俺が建物の中に入ると前掛けを付け角の生えた前髪ぱっつんな少年が寄ってきた。このギルドの丁稚かな?
「え、えーっと、お、お客様ですよ……ね?」
いやいや、お客様以外の何に見えるんですかねー。失礼ですよねー。
「す、すんません。当ギルドにど、ど、どういったご用件で?」
『ああ、家の改装や修繕は頼めるのだろうか?』
「お、お仕事の依頼でした?」
そうだよ、依頼だよ。ここはそういうギルドじゃないのか?
俺が丁稚とのやりとりをしていると奥から大柄な角の生えたいかついおっさんがやって来た。そのまま丁稚の少年に痛そうな拳骨を落とす。
「おいおい、客が来ているなら呼べ! って、客……だよな?」
はい、お客様です。
「うん? その姿、間違いない、チャンプだな!」
チャンプって呼ばれるの……余り好きじゃない。
「お前の試合見たぜ」
どの試合ですか? て、照れるなぁ
「え? 親方、仕事をさぼって闘技場に?」
その言葉に再度、角の少年に拳骨が落ちる。
「あ、いててて」
おうおう、痛そうだな。
「お前の試合は笑えていい。で、何の用だ」
わ、笑えるって酷くないか? 俺は命懸けで一生懸命だったんだぞ。ま、まぁいい。今回の用件は別だ。
『この通りの先、廃墟のような――墓地の隣にある、自分の家を改装、修繕を頼みたい』
俺の言葉に親方が驚く。
「おいおい、チャンプ、お前あんな場所に住んでいるのか。しかも、神国の女みたいな格好の化け物が出るって噂の屋敷か、がははっはは」
いや、あの、笑ってないでさ。
「いいぜ、いいぜ、とりあえず予定は……空いている、か。三日後に見に行くか」
三日後ね……。了解。
『ああ、頼む』
と、そうだ。せっかくだから、この角少年、鑑定してみよう。子どもなら大丈夫でしょう。親方は怖いからパスで。
【名前:ハウ】
【種族:鬼人族】
ほー。てっきりゴブリンとかオーガとか、そっち系の魔獣かと思ったら人系の種族なんだな。うーん、人と魔獣の違いって、なんなんだろうなぁ。
―2―
次は武器と防具のお店だね。
お店は建築ギルドから少し歩いただけで見えてきた。少し変わったデザインだが鎧や剣も並んでいるし、間違いないな。
『中を覗かせて貰って良いか?』
俺は天啓を響かせながら店内に入る。こんちはー。
「おお、チャンプ。私の店に来てくれると思っていましたわ」
現れたのは普人族ぽい女性だった。いや、普通に普人族かな。
「私のお店は魔獣も扱える武具を多く扱っているの。テイムした魔獣の為に、東からも見に来る人が居るくらいよ」
ほほー。あー、でもそうなると一般的な武器防具は扱っていないのかな?
『とりあえず見せて貰う』
何故か、俺をうっとりとしながらも、ねめつけるように見つめる視線を無視して武具を見ていく。口にはめるような大きな鉄の牙だったり、剣の持ち手がぐにゃぐにゃと加工されていたり、魔獣用というのは確かなようだ。俺でも装備できそうな物あるかなぁ。うーん、サイドアームがあるから普通の武器の方が使い勝手が良さそうだ。結構、微妙かも。
「これとかどうかしら」
店主が持ってきたのは金属で出来た鞍のような鎧だった。ほう、これなら俺でも装備出来そうだな。
『これは?』
「地面を這う系の魔獣用の鎧ね」
ほー。
「ジャイアントリザードなどの魔獣に付けてあげる人が多いわね」
ほうほう。芋虫でも装備出来るのかな?
「そうねぇ、芋虫系の魔獣自体をテイムする人が少ないから……」
いや、俺はテイムされた魔獣じゃないんですがね。
「そうそう、この間、ジャイアントクロウラーみたいな雑魚では――ごめんなさい、ヘルクロウラーに着けてあげている物好きな人がいたわ」
雑魚で悪かったね。にしてもヘルクロウラーねぇ。地獄の芋虫か……。俺がランクアップするような魔獣だったら、そういった形態にもなったのかな。いや、芋虫から芋虫にランクアップってどうなんだ? 次は蝶になるんじゃないのか? ま、まぁ考えても仕方ないか。
「芋虫に鞍を着けて騎乗するなんて、物好きよねぇ」
って、やっぱり鞍じゃないか。鎧と鞍を兼ねた物なワケか……イラねぇ。俺は誰かを背中に乗せて歩いたり走ったりしません。
ちょっと当てが外れたかなぁ。
『ちなみに、ここで武具の手入れは可能だろうか?』
「お預かりになるわ。職人にやって貰うから日数を貰うわね」
つ、つかえねぇ……。これなら転移でホワイトさんの所に通った方がいいな。ここは『魔獣』用の武具の『販売』店なんだな。
よし、今度、この帝都の鍛冶屋を探そう。職人と直接話をした方が良さそうだ。
―3―
思っていたよりも時間が余ったので、聞いていた小迷宮に行ってみることにした。
うん、見るだけ見るだけ。場所が何処にあるかを把握しておかないと、いざって時に困るからね。まぁ、いざってのが何かは分からないけどさ。
帝都の西側大通りをさらに西へ。帝都は升目状に作られているから分かりやすくていいなぁ。
帝都を囲う城壁。西大通りにある大きな門は閉じられたままだ。大きな門の左右には小さな門があり、そちらから出入りするようだった。うん、ここって俺が帝都入りした時に通った門だよね。なるほど南側の小さな門が入ってくる人用、北側の小さな門が出て行く人用か。
俺が北側の空いている小さな門に近づくと門番が近寄ってきた。
「あー、遠くからだと変わった魔獣に見えたが……チャンプか」
いや、説明しなくてもいいのは楽だけどさ、チャンプ呼びは……もにょる。
「外出か?」
あ、はい。
「出るのは自由だが、入るのには市民証が必要だ。持っているか?」
し、市民証? 持っていませんよ。いや、でも、俺、今、三級市民権を持っていたよね。ステータスプレートでいいのかな?
『これでいいのか?』
俺はステータスプレート(銀)を見せてみる。
「確認させてくれ」
門番が俺のステータスプレート(銀)を確認する。
「ああ、これでも市民証の代わりになる。それにしても三級市民か……まぁ、頑張れ」
ちょ、へ? 不安なことを言わないでください。三級市民って、何かあるの? むむむ。
『三級市民だと何か問題が?』
門番の人が少し嫌そうな顔をする。う、この世界、聞きたがりは嫌われるんだったよな。いや、でも、気になるじゃないか。
「多く税を取られるだけだ。この門でも発行しているお金で買える市民権だからな。後は立ち入り禁止区域が多い。主人が居ない場合は基本的に帝城を含む東側は全て立ち入り禁止だ」
ちょ。税金って何ですか。どうやって徴収されるんですか。むむむ。
もしかしてシロネさんが帝都の周りでうろちょろしていたのって、市民権が無い、または市民権を買うお金が無かった――からなのか? なんとなく、そんな気がするなぁ。その後、更に東に向かったのってお金を稼ぎに行ったんだろうか。うーむ。
ま、考えても仕方がないし、とりあえずは門を抜けて小迷宮の見学に行きますか。