3-46 ギルド
―1―
おはようございます。
えーっと、ここは……。ああ、我が家じゃないですか。我が家ですね。廃墟のような我が家です。
廃墟で一人で眠るなんて以前では考えられないような恐怖体験です。まぁ、小っこい羽猫も一緒ですし、なんと言っても自分の家だからね! 怖くない怖くない。
さあて、今日は帝都を探索しよう。買い物、買い物。
廃墟のような我が家を出て帝都を歩いて行く。俺の家の周りは帝都の外れだけあって墓地だったり、雑草や木々が生えて荒れ放題だったり――酷いモノだ。とても城壁の中とは思えないな。
廃墟通りを抜け、うら寂れた通りへ。その通りを見ると、普人族だけではなく、オークやゴブリンなどの魔獣、猫人族や犬人族みたいな亜人の姿も見えた。お、角の生えた背の高い人や鳥みたいな羽の生えた人も歩いているぞ。鑑定したいなぁ。これ勝手に鑑定してバレていちゃもんでもつけられたら……うん、やめよう。もうちょっと鑑定の条件が分かるようになってからにしよう。
にしても、ね。人が住んでいるのが不思議なくらいに崩れた家、テントにタープ……貧民窟だよ、コレ! なんだかんだで魔獣や亜人はスラム住まいってことなのか? うーむ。
そんな貧民窟を歩いているとクソ餓鬼共が集まってきた。
「おー、今日も来たのかよ」
「なんで人みたいな格好しているんだよ」
「経験値よこせよ」
クソ餓鬼共は俺を叩いたり、蹴りを入れてきたり好き放題だ。なんで、俺は、こんなにも舐められているんだ? うざいし無視無視。うーん、今後もここを通るたびにこのクソ餓鬼共に絡まれるのだろうか。
餓鬼に絡まれながらも貧民窟を抜ける。さすがにその先まではクソ餓鬼共も追っては来なかった。
さあ、ここからお店を探索だ。初めての町を探索するのはやっぱりワクワクするな。と、まずは冒険者ギルドだな。冒険者ギルドを探そう。
―2―
それから小一時間ほど帝都を探索し、やっと冒険者ギルドを見つけた。
いや、なんというか、小さな建物なんだもん。こんなの見逃しちゃうよ。平屋だし、換金所なんて無さそうだし、看板が出ていなかったら絶対に分からなかったと思うんだ。うーん、本当にココ? でも、ちびっ娘は西側の冒険者ギルドに行けって言っていたよなぁ。
とりあえず入ってみよう。
「なんだよ、なんだよ。妙に偉そうなお子様が来たと思ったら次は武装したジャイアントクロウラーか……。俺、呪われているのかなぁ」
冒険者ギルドの中には犬人族の若者? が居た。ここは、外から見たまま、狭いなぁ。すぐにカウンターじゃないか。
『よろしいかな?』
とりあえず目の前の犬人族の若者に天啓を授けてみる。
「うお、な、なんだ?」
あー、よくあるリアクション、ありがとうございます。
「これ、って。あ、あんた、もしかして闘技場の……」
そうそう。有名になるってイイネ。説明が省けるよ。
「あー、例のチャンプか。ぷっ」
うん? 今、笑わなかったか? なんだ? おい、ちょっと待ってください。笑われるようなコトって何かありましたかねー。
「そういえば、冒険者だって話だったな。何の用だい?」
なんだか急に態度が大きくなってませんか? 貧民窟のクソ餓鬼共といい、なんなんだ? まぁ「魔獣だー」って、いきなり襲いかかられるよりはマシだけどさ、それでもちょっと不快なんですけどー。ううーむ。いかん、いかん、気を取り直してっと。
『帝都に不慣れなのでな、情報が欲しい』
「はいはい、いいよいいよ。何が知りたい?」
あれ? お金を取られるんじゃないの? 情報は貴重だ、って聞いていたんですけど。
「ああ? 職員がギルドの冒険者からお金を取っていたら、冒険者が増えないでしょ」
え? そういうものなの? じゃあ、あの眼帯のおっさんやちびっ娘は何なの? おかしいの? むう。
「これも仕事だからな」
そ、そういうものなんですね。で、では……。
『まずは家の改築などを請け負ってくれる施設、次に武器や防具の買える場所、こちらでの換金方法、そしてMSP稼ぎの情報が欲しい』
犬人族さんがうんうんと聞いてくれる。
「まずは改築か。この通りの先にある大きな木槌が置いてある建物が建築関係のギルドだよ」
ほうほう。
「本当は東側に住んでいるような一流の人を紹介したいんだけどさ……」
うん? 今、何て言いました?
「次に武器や防具か。魔獣なんかでも使えるような武具を扱っている店がある。さっきの建築関係のギルドの近くにあるから、すぐに分かると思う」
ふむふむ。
「換金はここでも出来るよ。すぐの支払いは難しい場合もあるけど大きな物じゃ無ければ……なんとか。素材以外なら古買屋に行ってくれ」
ほう? こんなにも狭いのに頑張るな。と、古買屋の場所は……?
「最後にMSP稼ぎだよな。西門を出てすぐに『女王の黎明』って小迷宮があるから、そこがオススメかな」
ほうほう。
「そこなら東側の連中も余り来ないし……」
うん? さっきから東側って、うーん。ちびっ娘も西側をオススメしていたし、東側に何かあるのか? よし、聞いてみよう。
『東側に何かあるのか?』
「あー、あんた。外から来たんだったな。東は貴族連中の、な。それで分かるだろ?」
いや、わかんないけど。どういうこと?
「他に何かあるかい?」
まぁ、貴族に関わりたくないし東側に行かないのが正解ってコトかな。うーん。と、そうだ。クエスト、クエスト。
『クエストの受注はココで可能か?』
「ああ、もちろんだよ。リスト、見るかい?」
そういって犬人族さんが紐で綴じられた冊子を出してくれる。おー、リスト化されているのか。そういえば帝都には紙があるんだったな。
「と、そのまえにギルドランク見せてくれよ」
俺は犬人族さんにステータスプレート(銀)を渡す。
「へぇ。まだEか。あー、でも、この短期間でEランクはなかなか」
うむ。凄いでしょ?
「となると、この辺か」
冊子から数枚の紙を取り出してくれる。
何々、ドラゴンフライ退治にゴブリンシャーマン退治やフレイムドッグ……等々、俺が見たことのある魔獣の討伐クエストもあれば、サンドアームとか初めて目にする魔獣の名前もあるな。後は周囲の村への護衛系に小迷宮攻略……色々あるなぁ。ちょっと目移りしちゃうぞ。
これは明日にしよう。今日はお店、明日、冒険って感じですな。にしても他の冒険者が見えないけど、ここ、大丈夫なんだろうか?
「どうだい? 何か受けるかい?」
『いや、またにしよう。それよりも他の冒険者の姿が見えないようだが?』
「チャンプの居た所のギルドは知らないけどさ、こっちは昼くらいに来る冒険者が多いよ。冒険者の数に対してクエストの数が多すぎて焦る必要が無いからね」
へー。
「冒険者は便利屋扱いだからさ。特に西側の、こっちの冒険者はそういう扱いさ」
むぅ。軽く底辺扱いされた気がするんですけど……浪漫が無いなぁ。
よし、だいたい聞きたいことは聞けたかな。
『ところで名前を聞いてもよいだろうか? 自分はランという』
「あいよ。俺はスカイさ。よろしくな、チャンプ」
ああ、よろしく。
「それと、ここは夕方くらいには閉めるから、その時は翌日に来てくれよ」
うーん。ちょっと不便かも。




