3-44 里帰り
―1―
俺の体が空高く舞い上がる。おおー、一瞬だけど帝都の作りが見えたぞ。帝都の町並みって整備された綺麗な四角になっているんだなぁ。中央の大きなのが帝城かな。
そして空中へ。俺は固定された体勢のまま、スイロウの里の方向へ視点を動かす。高速で落下を始める俺の体。流れ星となって懐かしのスイロウの里周辺へ到着です。お久しぶりですー。
懐かしの入り口……いや柵と柵か。そして、あそこに居るのは懐かしのハガーさんですね。最初に俺がスイロウの里に来た時もハガーさんが立っていたんだよなぁ。ちゃお、ハガーさん。お久しぶりですー。
ハガーさんに挨拶してスイロウの里へ。この道も懐かしいなぁ。初めて来た時はのろのろとしか動けなくて、冒険者ギルドまでが凄く遠く感じたんだよなぁ。
と、まずはホワイトさんの鍛冶屋に行こうか。
懐かしのホワイトさんの鍛冶屋です。おーおー、相も変わらずごちゃごちゃと武具が散らばっているな。
『すまない』
店の奥へと天啓を飛ばす。
「おいおい、うるせえよぉ。って、この頭に響く感じ……」
店の奥から懐かしの犬頭のホワイトさんが現れる。
「ランじゃねえかよぉ。大陸に行ったんじゃなかったか? いつ帰ってきたよぉ」
今です。ナウだよ!
「で、どうしたよぉ」
はい、武器を見てください。お手入れしてください。後、鉄の矢を2本ほどください。
「おうおう、俺の作った武器をちゃんと使ってくれてるみたいだな。って、こっちの剣は……」
うん? 剣聖様から貰ったチャンピオンソードのコト?
「装飾にこだわりすぎて実用性は殆ど無いような代物だけどよぉ、素材が、な」
素材?
「俺たちが希少金属と呼んでいる珍しい金属だぜ。硬い、とにかく堅い。軽くて硬い。それがウリの金属だな。どうした、これを鈍器にでも作り直すのかよぉ?」
おー、硬いイコール鈍器なワケね。でも軽いと鈍器としてはイマイチな気がするんだけどなぁ。どうなんでしょう。俺は鈍器の扱いは素人なんでわかんないです。って、いやまぁ、そうじゃなくて、その剣は記念品なのです。そのままでお願いします。後で自宅に飾る予定なんですよー。
「後はこいつらの手入れだな。待ってな」
そう言ってホワイトさんは奥へ引っ込む。そしてすぐにピカピカになった武器を持って戻ってきた。ホント、仕事が速いよね。
「鉄の矢だったな。2本で2,560円(銅貨4枚)と武器2本と盾の手入れが1,280円(銅貨2枚)の合計3,840円(銅貨6枚)だぜ」
ほうほう銅貨6枚ですか。お安いじゃないですか。なんたって、俺は、今、金貨1枚を持っているのだから!
俺はホワイトさんに金貨を見せびらかしながら渡す。
「おいおい、お釣りが大変じゃねえかよぉ。それだけ持っているならもっと色々買っていけよぉ」
あ、はい……自慢気に金貨を出してすいません。相手のことを考えていませんでした……って、今はこれが全財産なんだから勘弁してくださいよー。
俺はお釣りの323,840円(小金貨7枚、銀貨7枚、銅貨2枚)を受け取る。おー両替が出来たぞ。これで食堂で大きなお金を出してうざがられる事も無さそうだ。ホワイトさん、ありがとう。
「おう、また……戻ってきた時には顔を出せよぉ」
もちろんだぜ。
―2―
さあ、次は……そうだ、冒険者ギルドに顔を出すだけ出してみるか。
冒険者ギルドにはちびっ娘が居た。おー、相変わらずちびっこいのう。
「む。虫」
そうだぜ。虫だぜ。
「虫。久方」
おう、久しぶりだぜ。
「虫、どした?」
そうそう情報が聞きたかったんだ。
「銀貨1枚」
おう、懐かしいやりとりだな。はい、銀貨1枚だぜ。
「にゃあ?」
頭の上の小っこい羽猫が鳴いている。なんだ、俺がこのちびっ娘に銀貨1枚を渡すことが不服かね。
「む。神獣……の子?」
ほう、この小っこい羽猫も神獣扱いなのか。まぁ、今だとなーんの役にも立ってないんですけどね。と、知りたいのはそこじゃないんだ。
『帝都の情報を知りたい』
帝国に行く前に聞けよって話だけど、あの時はシロネさんも居たし、現地で聞けばなんとかなるかなぁ、と甘く見ていたんだよねぇ。
「む。神聖国なら詳しいのだが。むぅ」
ちびっ娘が銀貨を返してくる。え? ご返却ですか。そんなー。
「帝都には冒険者ギルドが二つある。西側のギルドで話を聞くといい」
お、ちょっと長文ですよ、ちびっ娘さん。ふむふむ。とりあえずは西側にある冒険者ギルドに顔を出してみるか。にしても、このちびっ娘、神国の情報なら詳しいのか。神国に行くことになったら、その前に情報を聞きに来るか。
じゃ、まぁ、今回の用件はそれくらいだからね。さあ、次に行きますか。
俺は次に道場に向かった。ま、なんだ、一応、確認しておかないとね。
久しぶりの道場は少しだけ豪華になっていた。庭に、や、屋根付きだと!
「あ、何か来たよ」
「僕知ってる」
「……」
「私もー」
で、弟子が四人に増えている。な、なんだと。
「おや、お嬢のご友人、どうしたんです?」
子ども達に指導をしていたユウノウさんがこちらに気付きやってくる。あー、その様子だと、ミカンさんがこっちに帰っているってことは――無いみたいだな。まぁ、距離や日数を考えても低い可能性だとは思ったけどさ。となると、ミカンさんの現状を説明しないと駄目だよな……。
「なるほど、そんなことが……」
すまない。
「いやまぁ、事故ですし仕方ないんじゃないですかねー。それにお嬢も一人の立派なモノノフですからー、ま、なんとかしてるでしょ」
あれ? 女の子でも『もののふ』でいいんだったか? まぁ、異世界の細かいことを気にしていては駄目か。ま、この異能言語変換スキルが勝手に変換しているだけだしね。
よし、まぁ、とりあえずミカンさんと合流できたら、一度、道場に戻るって感じで。
「ところで、ランさん、今日はお給料無いんですかー?」
ちょ、給料って何よ。俺は給料を渡したコトなんて一度も無い! それに今日は自宅に戻るつもりだからね。道場を借りるつもりも無いから、お金を渡す理由が無いね! た、たからないでください。うんうん。
よし、これで、スイロウの里の用事は殆ど終わったかな。
後は食堂で食事をしたら、自宅に戻るとしよう。
さあて、何を食べようかなぁ。
2021年5月5日修正
仕事が早い → 仕事が速い
おー、固い → おー、硬い
固い、とにかく堅い、軽くて固い → 硬い、とにかく堅い(手堅い)、軽くて硬い




