3-42 我が家
―1―
フロウから貰った地図を頼りに帝都を歩いて行く。
ああ、凄い開放感だ。
しかしまぁ、なんというか、整備された道の理路整然とした綺麗な町並みにびっくりです。均一に並ぶ、瓦ぽいものが乗っかった尖った屋根の建物。うん、海外旅行に来ている気分だよ。
芋虫姿の俺が歩いても驚かれることがない。逆に「チャンプ」って呼ばれて肩を叩かれるくらいだ。だから強く叩いたら体液が出ちゃうっての。うん、この帝都の住民はおかしい、狂っている。
しかもですね、さっきから小さな子ども達が俺の周りで俺を蹴ったり叩いたりしているんですけどー。え? これ蹴散らしていいの? いいの!
「おい、芋虫」
「芋虫、何処行くんだよー」
「なんで人の真似してんだよー」
う、うぜぇ。というか、なんなんだこの馴れ馴れしさ。おかしくない? おかしいよね? 絶対におかしいよね。
俺はクソ餓鬼共を無視して歩いて行く。まずは家を見るのが先なんだ。
向こうから歩いてくるのはオークか? 豚の頭を持った魔獣が歩いてくる。結構、普通に魔獣が歩いているのね。なんだ、ここ。
「帝都は魔獣と人が共に暮らす、力が全ての国ですからね。初めての方は大抵驚かれますね」
え? 誰? いきなり声をかけられてびっくりしたんですけど。
俺の隣には、いつの間にか青いフードを目深にかぶった少女? が居た。一瞬、闘技場に居た、あのうざい治癒術士か、と思ったが纏っている雰囲気が全然違う。
「私が気になりますか? ふふ」
いや、あの、その、いきなり声をかけられたら気になるのが普通だと思うんですが……。
「私はただの流浪の治癒術士ですよ、ふふふ」
あー、もしかして、その青いのって治癒術士の制服なのか。
「またお会いしましたね、芋虫さん。お元気になったようで何よりです。ふふふ」
ん? また? 誰だ?
「いえ、あなたがご存じないのは当然ですよ。それと私たちに鑑定は無効ですから、試そうとしないように、ふふふ」
な? それは試せってコトだよね? 前振りだよね?
【鑑定に失敗しました】
くそ、またかよ。
「だから、無効だと言いましたのに……、ふふふ」
青いフードの少女は口に手を当てて笑っている。
『で、あなたは誰だ?』
「先程、申しましたように流浪の治癒術士ですよ」
青いフードの少女が笑い続けている。ぶ、不気味だなぁ。せっかく自由になった開放感が台無しです。
そういえば周りが静かだな。どうなっている? うん? いつの間にかクソ餓鬼連中も居なくなってるぞ。まるで時が止まったのかのような……。
「それではまたお会いできるのを楽しみにしています、ふふふ」
そして時が動き出す。
周囲にはクソ餓鬼連中がいて、俺に蹴りを入れている。おいおい、俺が悪い魔獣だったら、お前らなんてバリバリ食べちゃっているんだぞ。食べちゃうぞー。だから、やめなさい、ちょ、痛いって。
あー、そういえばマイホームに向かっているところだったんだ。こんなクソ餓鬼連中に構っている暇はないのだ。
―2―
フロウに渡された地図の通りに歩いて行く。進むにつれ周囲の建物のレベルがどんどん下がっている気がするんですが……これスラムとかそういう所じゃない?
そういったスラムぽい所も抜けて更に寂れたところへ。なんだろう、人の存在が感じられないんですけど……。
着いたのは取り壊し寸前の墓地だった。へ、墓場? いやでも取り壊し予定地みたいになっているし、これから整備する予定なのかな?
で、俺の家は……。
その寂れた墓地の隣にある、今にも壊れそうな幽霊屋敷だった。
ここ? ここかよ! 掃除するの大変だよ!
ま、まぁ、でも初のマイホームだし、芋虫になる前でも手に入れることが出来なかった夢のマイホームだし、我慢しよう。
いや! ここから魔改造して、すんばらしい建物に変えてみせるぞ。
よく見れば、壊れそうな屋敷とはいえ、雑草ぼうぼうだけど大きな庭もあるし、建物は屋根裏部屋でもありそうな二階建ての建物だ。うん、いけるいける。
俺は門の用途を成していない斜めに傾いている木製の門に手をかける。この体だと開けるのは困難だな。うん、ぼろぼろだし、もう門は要らないな。
――《W百花繚乱》――
真紅とホワイトランスから放たれる高速の突きが木の門を破壊していく。一撃ごとに飛び散る木片の花。無数の花が舞い落ち、扉は粉々になった。
よーし、進入だ。おじゃま……って、違う違う。
『ただいま』
これだ。わざわざ天啓を飛ばすとか、俺も浮かれているのかな。いや、でもマイホームだし、仕方ないよね。
俺は自分の家の敷地内に入る。うーん、外からも見えていたけれど雑草だらけだ。足下なんて見えやしない。これ? 石畳でもあったのかな? って具合である。雑草も刈らないとなぁ。
まぁ、まずは家に入ろう。
草をかき分け、斜めに傾いている今にも崩れ落ちそうな家の前に。自然と首を傾けて見ちゃいます。
さあ、家の中の確認だ!




