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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略
153/999

3-40  芋虫の決着

―1―


 ずだ袋さんの後ろを歩いて行く。さてさて、何処に行くのかな? このずだ袋さんは後ろ姿からなんとなく女性に見えるな。


 と、今日のこのずだ袋さんは鑑定しておかないとね。もう自由になったから――いや、まだか、まぁ、もう自由みたいなモノだから、後のこととか気にしなくても大丈夫、大丈夫。って、まぁ、そういう理由で鑑定するわけじゃないんだけどね。


【名前:コウ・スイメイ】

【種族:普人族】


 あ、やっぱりか。ちらっと予想していたけれど、こうも予想通りだと萎えるなぁ。これで、この後の展開も読めちゃった。はぁ……、もうちょっとくらいは準備しておきたかったなぁ。


 今まで使ったことのない通路を抜け、そのまま闘技場の外へ。おお、懐かしの自由な空。さーて、どこに連れて行ってくれるのかなぁ。大きな木々が見える。おや、あの木の陰に見えるのは?

 闘技場の外、大きな木の下でずだ袋――コウ・スイメイが足を止める。そして、そのまま笑い始めた。

「クク、やはり魔獣は馬鹿ね」

 そう言うとコウ・スイメイはずだ袋を取り払った。おー、あの時の貴族の娘さんだね。ずだ袋までかぶってご苦労様です。にしても俺ってば面倒なのに絡まれているよなぁ。

「あなたは知らないでしょうが、この闘技場の買い取りの闘技者は全て毒が注入されているのよ」

 な、なんだってー。……って、知ってる知ってる。俺、知ってるよ。

「そう、闘技場から出ると体が腐れ落ちる毒なのよ」

 うん、知ってる。俺、知ってたよ。

「このようなかぶり物を付けただけで騙されるなんて、なかなかに愉快な遊びでしたわ」

 あ、はい。で、俺はどうしたらいいんだろうなぁ。この娘さんを懲らしめると言っても暴力を振るうのは違う気がするんだよなぁ。もっと世間の荒波に揉まれるような苦しみを味わう的な方法で何とかしたいなぁ。


 ……。


「……なぜ? なんで腐れ落ちないの?」

 あー、それな。

「ほう。面白そうなことをしているな。俺が説明しようか?」

 その言葉と共に木陰から現れたのは、なんとフロウだった。そう、なんとフロウだったのだ。あー、うん、スタンバっていたの気付いていたよ。というかだね、俺はてっきり、あんたもそっち側だと思っていたんだけどなぁ。

「フロウ、お前が何故ここに!」

 うん、うん、それを俺も知りたい。そしてお前さんの足下にある見覚えのある槍や大盾などの意味を教えて欲しい。

「おいおい、俺が俺のシマに居て何がおかしい?」

 フロウは持っていた剣を肩にかける。おー、気障ったらしい。

「お嬢ちゃん、大貴族の娘か何か知らないがな、俺のシマでちょっとお遊びが過ぎるんじゃねえかな!」

 フロウが声を上げる。おー、まるではちきゅうさんみたいだね。

「な、な、な、な……。わ、私を、私に危害を加えるとでも言うの! ダ、ダナン、居ますね」

 お嬢さんの言葉を受け、お嬢さんを囲むようにしゅたたっとダナン他数名が現れる。おー、忍者みたい。すりけんでも飛ばすのかな。

「はぁ……。結局、こうなるだか……」

 ダナンがため息をついている。ため息をつきたいのはこっちなんだけどなぁ。というか、爆発で死んでいなかったんだな。変わり身の術か何かか?

「ほう。ダナンか。お前も仕える主を間違えたな」

 ん? 『も』なのか?

「この国では貴族様には逆らえないだ」

 うーん、俺が置いてけぼりにされている。で、フロウさんは何をしにここへ? このお嬢さんに制裁を加えに来たの?

「芋虫、お前、このまま帰るつもりか?」

 帰りませんよ。外に出たのだってね、そこのお嬢さんに連れられて外に出ただけでしてね。

「帰るにはまだ早えよな? お前の持ち物だ。受け取りな」

 フロウが槍に大盾に弓にクロークを投げてくる。て、一気に投げすぎだ。俺の道具なんだから大事に扱えよ。って、俺、こんな体だから受け取ってすぐに装備とか出来ないぞ。こういうのって格好良く受け取って装備して迎え撃つ的なシーンなんだろうけど、ちょっと無理なんじゃない?


――《集中》――


 集中力の増した視界に忍者ぽい姿の一人がこちらへ駆けてくるのが見える。俺は身に纏っていた布を剥ぎ取り忍者ぽい人に投げる。


――[ウォーターカッター]――


 布で視界を隠し高水圧の水を飛ばす。確かな手応え。そのまま、夜のクロークを受け取り身につける。

 そこへ上空から忍者の一人が襲ってくる。真紅を自分の手に持ち直し、サイドアーム・アマラでホワイトランスを受け取る。


――[アイスウェポン]――


 一瞬にしてホワイトランスが氷に覆われる。そのまま氷の刃が飛びかかってきた忍者を貫く。ホワイトランスを覆っている氷ごと忍者を打ち払う。

 正面に無数の赤い点が走る。


――《魔法糸》――


 俺は魔法糸を飛ばし樹星の大盾を引き寄せる。樹星の大盾を正面に構える。かんかんと樹星の大盾に何かが跳ね返る音。赤い点が消えたのを確認し、以前と同じように樹星の大盾を背負う。

 すぐさま手に持っていたチャンピオンソードとサイドアーム・ナラカに持たせていたグレートソードを放り投げる。そのままコンポジットボウに持ち替え、先程、飛び道具が飛んできた方向へ鉄の矢を放つ。更に放つ。放つ。

 コンポジットボウを肩にかけ、放り投げたグレートソードとチャンピオンソードを受け取る。


 ふ、ふう、忙しいなぁ。

「ほう。芋虫、ちゃんと受け取れたようだな」

 こ、この量を投げ渡すとか嫌がらせにしか思えないんですけど。というか、フロウさんも働いてくださいよ。大見得切ったのあなたじゃないですか。

「芋虫、聞いているな」

 さっきから芋虫、芋虫と……。ちゃんとこの世界で名乗っている名前があるんですけど。

「ダナンはお前に任せる。その方がお前としても嬉しいだろう?」

 いや、別にそうでもないっす。まぁ、今でもむかつくけどさ、もう過ぎたことだからな。

「俺としてもダナンとはやり合いたくない。代わりに雑魚は俺が引き受けるからな!」

 さっきまで雑魚も俺が引き受けていた気がするんですが、気のせいでしょうか? ま、まぁ、次の雑魚はフロウさんに任せると言うことで。

『分かった』




―2―


 フロウは俺の言葉を聞くが早いか手に持った剣を地面に刺し、そのまま駆け出した。え? あの……武器は?

 そして信じられないほどの素早さで忍者集団を殴り倒していく。えーっとステゴロ系の人ですか?


「結局、こうなるだか……」

 俺の正面には人攫いのダナン。


 盾を背に、弓を肩にかけ、手には王者の剣と真紅、サイドアーム・アマラにホワイトランス、サイドアーム・ナラカにグレートソード。武器二つを浮かせて、手にも武器を持っている姿は相手からすると結構な脅威なんじゃなかろうか。


 フルディアクロウラー爆誕! って感じだね。どうだ、怖かろう。


 ダナンが驚異的な跳躍力で飛びかかってくる。

 視界に斜めの赤い線が走る。この危険感知、何故かフェンリル戦では発動しなかったんだよなぁ。この危険感知に頼り切りって戦うってのは今後のことを考えると危険な気がする。なるべく俺自身の感覚で回避出来るようにならないと……うん、要練習だ。


――《集中》――


 飛びかかってきたダナンのだぶだぶの袖から鉄の爪が伸びる。俺は手に持った真紅で鉄の爪を力任せに打ち払う。打ち払った鉄の爪に上段のホワイトランスとグレートソードを叩き付け、下からチャンピオンソードを打ち上げる。


――《Sウェポンブレイク》――


 交差させた三つの武器がダナンの鉄の爪を打ち砕く。ダナンの顔が驚きに染まる。


――《スパイラルチャージ》――


 赤と紫の螺旋がダナンの体を、下に身につけていたであろう胴鎧を、打ち、砕き、吹き飛ばす。


――《魔法糸》――


 魔法糸を吹き飛ぶダナンに飛ばす。絡みついた魔法の糸がダナンをこちらへ引き寄せる。


――[アイスウェポン]――


 ホワイトランスが氷に覆われる。


 引き寄せているダナンが糸を切るためにか、袖から短剣を取り出している。させるかよッ!


――《Wゲイルスラスト》――


 二本の剣が烈風を纏いダナンへ迫る。


――《W百花繚乱》――


 更に二本の槍から高速の突きが炸裂する。ダナンが魔法糸を断ち切ろうとしていた短剣で必死に攻撃を弾き返そうとする。その短剣ごと、鎧ごと、体ごと高速の突きが、四つの線が貫いていく。

 終わりだッ!


 ダナンが吹き飛ぶ。吹き飛ぶダナンの首元から何かのネックレスが千切れ飛んでいく。うん? 何だか見覚えのある気がするな。


 俺は追い打ちをかけるために、吹き飛んだダナンの元へと駆け出す。夜のクロークの効果か随分と早くなった気がするぜ。


 俺は4つの武器を構える。はっはー、一瞬で片が付いたぜ!


 俺の完全勝利だ!


「殺すな!」

 そこでフロウからの強い制止の声が。いや、もとより殺す気は無いですよ。もうちょっと再起不能(リタイヤ)するくらい、半分くらいはやっちゃおうかなって思っただけです。

 って、こちらに声が来るってことは、そっちももう片付いたってことか。


 見れば忍者集団もボコボコの血まみれで転がっていた。は、はやいね。

「ダナンとそのお嬢ちゃんの身柄は俺が預かる。わかったな?」

 フロウの言葉に、俺はそういえばお嬢さんも居たな、と思い出していた。俺はお嬢さんの方を向く。

「ひっ」

 俺と視線が合ったお嬢さんは悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。ちょ、失礼な。別に取って食ったりしませんよ。

「ほう。まあいい。このお嬢ちゃんには少しばかり世間の厳しさってモノを教えてやらないとな」

 お嬢さんがキッとフロウを睨む。

「お前が! 幾らお前でもスイメイの家に手を出せば!」

 フロウが心底楽しそうにクククと笑う。

「知らねえよ」

 怖いねぇ。俺は敵に回さないようにしよう、うん。しかしまぁ、このお嬢さんもこれからどうなるか分からないけどさ、ちょっとしたお遊びのつもりで、なんでも自分の思い通りになると思ってやり過ぎたんだろうなぁ。何かフロウの逆鱗に触れることをやっちゃったんだろうなぁ。


「芋虫、まだ勝手に何処かに行くなよ」

 あ、はーい。

「来た道を戻って個室で待ってな。ちょっとここを片付けてから、そっちに行くからな」

 了解です。そりゃね、まだ全部装備品を返して貰ってないし、小っこい羽猫を置いたまま何処かに行くわけにも行かないからね。


 にしても、これで闘技場の戦いは全部終わったのかな。ダナンとフロウの関係や、スイメイ家のこととか、俺の側からはさっぱり分からないけど、まぁ、これからの俺に関わりのあることでは無いだろうし、気にするだけ無駄か。


 はぁ、疲れた。


 この闘技場、ホント、思ったよりも長く居ることになったよなぁ。

6月23日修正

使える主を → 仕える主を

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