2-9 餌虫
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宿屋に戻って来ました。女将さんが居たので服を預かって貰えないか聞いてみる。
「なるほど。似たようなコトなら長期宿泊者向けのサービスでやっているよ。と言っても部屋に洋服掛けを置くだけなんだけどね」
『お願いしたい。ちなみに料金は?』
「さっきも言ったけど長期宿泊者向けのサービスだから、タダで良いよ」
女将さんは手を振って答えてくれる。
「後で部屋に持って行くよ」
助かるなぁ。なんというか言ってみるものである。
『一緒に食事も頼んでよろしいかな?』
「はいはい、食事も一緒に持って行くよ」
部屋に戻る。
さて買ったショルダーバッグと皮の背負い袋の整理でもしますか。
背負い袋からショルダーバッグへ『世界樹の葉の欠片』と細かいお金を移動する。と、そこでドアをノックする音が。
「食事と洋服掛けを持ってきたよ」
お。女将さんか。俺は魔法糸でドアを開ける。
「はい、晩ご飯だよ」
食事を受け取る。今日は『何かの肉の入ったスープ』と昼も食べた『ふわふわのパンみたいなもの』か。
「で、洋服掛けは何処に置くんだい?」
『入り口近くにでも適当に置いてもらえるかな。後、良ければ聞きたいのだが、このスープに入っている肉は何の肉なのだろうか?』
これ、気になっていたんだよね。何かの肉のスープを鑑定しても【スープ】としか表示されないんだもん。
「ああ、そいつはホーンドラットの肉のスープだね。ホーンドラットの肉とは思えないほど美味しいだろ? ホーンドラットの肉は固いからか安くても余り人気が無いんだよ。まぁ、それを美味しく食べられるように調理するのがプロの仕事さね」
うほ、鼠肉か……。今更だけど衛生面が怖いなぁ。食中毒になりませんようにッ!
「と、そういえば、あんた身体を拭くお湯をまったく使わないけど良かったのかい?」
あー、そういえば食事と一緒に、それも料金に含まれていたんだった。
『ふむ。この身体だと拭く必要性がないもので……』
「なるほどね。なら、あんたも服を買ったみたいだし、服を洗うのに使ったらどうだい?」
確かに。衣類は汚れるし、そういう使い方が有りなら助かるな。
『分かった。衣類が汚れたときは有り難く頼むとする』
女将さんは、それじゃあと下へ降りていった。
さあ、森鼠のスープとふわふわのパンみたいなものを食べますか。うん、変わらない味。食事のレパートリーは少なそうだなぁ。まぁ、飲食店ではなく宿屋だもんね、こんなものか。
あ、しまった。女将さんに他にどんなサービスがあるか聞いておけば良かった。うーん、色々損をしている気がする。まぁ、現状では困ってないし……ま、いっか。
-2-
起床。今日も良い天気です。というか、今がどんな季節か分からないけれど雨を見ません。降らないってコトはないと思うんだけどねぇ。
まだ昼には早いけれどお昼ご飯を貰って食事にする。鶏肉のような味の白身の串焼きと初日に食べた固くて丸いパンのような物、昨日の夜と同じ森鼠のスープです。
串焼きは非常に美味しかった。コレなら毎日でも良いかも。ただ欲を言えば焼き鳥のタレが欲しいなぁ、ホント、欲しいなぁ。
正午前に冒険者ギルドに到達。そしてすでに居るウーラさん。
『ドーモ、コンニチハ、ウーラさん』
「はい、こんにちは」
ホント、早いよね、おかしいよね。
『毎日、とても早いようだが……』
「それは……。そうですね、癖かもしれませんね。クエストが張り出されるのって朝なんですよ。人気のクエストは取り合いになるので、早めに見に来る癖が付いてしまうんですよね」
え? そうなの? じゃあ、正午に来ている自分は何なの? だからクエスト札が少ないの? 常設クエストしか残ってないぽいもんね。うは、次から朝一で来よう。
ま、まぁいいや。ギルドに入ろう。
「お、星獣様じゃねえか。まだ生きていたか。クエストか?」
居たのは眼帯のおっさんだった。ちびっ娘はちびっ娘でイラッとくるけど、このおっさんは万倍はイラッとくるね。まだ死んでませんよーっだ。
俺はクエスト札を取り、眼帯のおっさんに渡す。
「ほう、森ゴブリン退治か。ま、それでもお前なら楽勝だろうな」
おや、無理とか死ぬぞとか言うと思ったから意外。
『む?』
「そりゃな、魔獣としての格はジャイアントクロウラーの方が上だからな。格上の魔獣の星獣様が格下の魔獣に負けているようじゃあ、話にならんだろ」
あ、そうなの? ジャイアントクロウラーってそれなりに強い方なのか。ま、俺は劣化種なんですけどね。
「と言ってもジャイアントクロウラーなんざ、フォレストジャイアントの餌だからな。森をさまよってフォレストジャイアントに食われるのがオチだな」
ぶふぉ? 餌って?
「なんだ、自分のことなのに知らないのか? ジャイアントクロウラーのジャイアントはフォレストジャイアントの餌ってのが由来なんだぞ?」
うへ、マジで? 大きいから……じゃ、ないんだ。酷い由来の名前だ。でもでも、俺はディアクロウラーだもん。ジャイアントクロウラーじゃないもん。
「まぁまぁ、ランさんもおやっさんも。ランさん、さっそく森ゴブリンの退治に行きましょうか」
Gランク
常設クエスト(討伐)
森ゴブリン1匹の退治
スイロウの里近くに生息する森ゴブリンの退治
クエスト保証金:無し
報酬:640円
獲得GP:1
二匹以上を倒しても追加報酬は出ません。
二匹以上を倒す予定の方は森ゴブリン達の討伐クエストを受注してください。
一日一回限定
うーん、何匹倒しても報酬は増えないのか。複数倒すときは、それようのクエストがあるのね。
『ちなみに複数匹倒した後に、複数匹用のクエストを受けて完了は可能か?』
「あー、それは出来ませんね。討伐のクエストだけは最初に受注しておく必要があります。採取などの納品クエストなら、その方法も可能ですね。クエストを受注せずに大物を倒してしまった場合はその魔獣の素材と魔石だけが報酬ってコトですね」
ウーラさんが答えてくれる。納品は、素材を持っていれば受けた瞬間の完了が可能ってことか。
色々な討伐クエストを受けるだけ受けて倒した後で完了って手段も取れそうだけど、上のランクの札を見ると期日があるんだよなぁ。今後は期日内に終わらせられそうなら、受けるだけ受けといた方が良さそうだな。まぁ、無理だけはしないようにしよう。
さて、それでは今日も里の外の森に出発っと。