3-35 竜騎士
―1―
闘技場内に銅鑼の音が響き渡る。さぁ、試合開始だな。
まずはどうしようかな。
目の前には大きな槍を持った鎧姿の騎士。そんな騎士様が翼を持った蜥蜴に跨がっている。うーん、向こうは絵になる姿だな。
「どうやら僕と戦う気みたいですね」
あ、はい。そうですねー。さてと、とりあえず先手を取るか?
そう思い俺が駆け出したのと同時に、相手も、相手の竜がこちらへと駆けてくる。む、意外と早い。
相手の突進からの流れるような突き。
――《払い突き》――
相手の突きを打ち払い、一回転、突きを繰り出す。しかし突きは何も無い空間に突き出されていた。竜騎士の姿はすでにそこに無く、闘技場の端の方に見える。おー、早い早い。にしても羽の生えた竜なのに空を飛んだりは出来ないんだな。
闘技場の端っこまで駆けて抜けていた竜がゆっくりとこちらへと歩いてくる。あ、そうだ、相手の武器くらいは鑑定しとこう。うーん、本当は人物鑑定も行いたいんだけどなぁ。見破られるのが定番になってしまってから、人物を鑑定するのが怖くなっているんだよなぁ。まぁ、その辺は今後の課題ってことで。
【竜槍】
【竜騎士隊標準装備の槍。戦死した竜の骨を使用して作られている】
ほおー。竜騎士で合っていたのか。にしても戦死した竜の骨を使うとか色々ドラマが生まれてそうな武器ですなぁ。でもさ、そんなのを待っていたら数が足りなくなるんじゃ無い? それとも竜騎士って余り数が居ないんだろうか。
「さて、魔獣よ。魔獣相手に本気を出すほど僕は無慈悲では無い。先程のように地上のみで相手しよう」
あ、はい。有り難いことですね。こちらに会話を理解する知能があるってことくらいは分かっていると思うんだが、それでも本気を出さないのか。何というか、そうだね……言っていいの? 言っていいの? これが戦場だったら次は無いんだぞ、とか言っていいの? 本気を出さないとか手ぬるいことを言っているのを窘めていいの?
竜騎士がゆっくりと近寄り、俺の前で止まる。
「華麗なる竜騎士隊の槍技を受けてみよ」
あ、はい。声をかけてから攻撃してくるとかスゴイネ。
瞬間、俺の視界に3つの赤い点が走る。うお、思ったよりも早い。右、左、右。赤い点をなぞるように高速の三段突きが飛んでくる。俺はそれを余裕といった感じで回避する。内心ではギリギリの回避に肝を冷やすが、表情の分かりにくい魔獣の姿ならバレないでしょう。
「回避した……だと!」
竜騎士がこちらを見て呆然としている。あー、油断したね。チャンスだね。そうだねー、とりあえず何がいいかなー。よし、うん、これだ。
――《Wウェポンブレイク》――
×の字に構えたグレートソードと真紅を油断して動きの止まっている相手の竜槍にぶつける。よし、竜槍の中まで響いた手応え。これは意外と早くやれそうだぞ。
「何処を攻撃している! 所詮は魔獣か……。もう一度行くぞ!」
あ、はい。
先程と同じように視界に3つの赤い点が走る。
――《集中》――
読んでたぜ!
――《百花繚乱》――
穂先も見えぬほどの高速の突きが竜槍から繰り出された突きを突きにて弾き返していく。そちらは三段突きかもしれないが、こちらは多段突きだぜ。まだまだ行くぜ!
背の低い芋虫姿の俺から上方へ放たれる多段突き。それを竜に跨がった上方から必死に槍で捌こうとする竜騎士。
俺の高速突きの勢いに押され、竜騎士がどんどん後方へずり下がっていく。おーい、そのままだと落ちちゃいますよ。
その瞬間、視界が真っ赤に染まる。うお、何の攻撃だ。とりあえず逃げよ。
――《魔法糸》――
多段突きを途中で止め、魔法糸を後方へ跳ばし、大きく後方へ跳躍する。それを追うかのように竜の口から紫の炎がほとばしる。あ、危な! 危機一髪だったな。
竜騎士は竜にしがみつき、なんとかずり落ちるのだけは回避したようだ。ひゅー、やるねぇ。にしても、上の竜騎士よりも竜の方が危険度が高そうだなぁ。かといって、竜騎士に使われているだけの竜を倒してしまうのは忍びないんだよなぁ。まぁ、命をかけた戦いでそんな甘いことは言ってられないか。可能なら上の竜騎士だけを倒す方向で。厳しそうなら竜ごとって感じでやりますかー。
体勢を立て直した竜騎士がこちらへ駆けてくる。再度、視界に三つの赤い点が走る。またか!
俺は同じように三段突きを回避する。
「何故だ。何故、僕の必殺の突きが当たらない。何故、動作の鈍いジャイアントクロウラー如きに回避される」
おー、懐かしい名前。そういえば俺はジャイアントクロウラー劣化種だったね。にしてもスキルをばんばん使ってくるなぁ。三段突きに大層自信があるのかな――あるんだろうなぁ。再使用時間がえらく短いもん。かなり使い込んでいるんだろうなぁ、まぁ、見えていれば回避出来る程度だから俺には届かないけどね! いやぁ、俺も強くなったモノです。感動だなぁ。
三段突きが終わり、スキル後の硬直を狙い打つ。
――《Wウェポンブレイク》――
クロスさせたグレートソードと真紅が竜槍を打ち付ける。うん、これでかなり中まで響いたな。
「無駄だ!」
ほむ。俺の攻撃が上まで届かなかったとか思っているんだろうか。
再度、視界に3つの点が走る。あー、はい、またですか。まずは右に避けってと……そこへ斜めから赤い線が走る。うお? 俺は大きく体をねじり斜めの線を回避する。い、芋虫の背筋力を舐めるなよ!
見れば竜が前足を大きくあげ、その鋭い爪でこちらを引き裂こうとしているところだった。振り下ろされた爪が捻った俺の体の先を擦るように通り抜けていく。あ、危ない、危ない。油断大敵だな。危険感知が無かったら終わっていたぞ。危険感知の便利さに我ながらびっくりだぜ。
竜騎士よりも下の竜の方が脅威だな。うん、脅威だ。
「今のは良かったぞ。ヘポイト、もう一度さっきの連携だ」
竜騎士が竜の首をなでながらそんなことを言っている。ヘポイトって、その竜の名前なのかな。にしてもさ、聞こえてないと思ってるんだろうけど、こちらにはしっかりと字幕で見えちゃっているんだよなぁ。はい、もう一度、さっきの攻撃が来るわけですね。
――《集中》――
またも視界に三つの赤い点が走る。これと下の竜からの爪の攻撃か……分かっていても爪攻撃は回避が難しいな。さて、どうするどうする?
一つ目と二つ目の赤い点を回避し、そのまま!
――《ゲイルスラスト》――
烈風を纏ったグレートソードが空気を貫き、相手の竜槍を押し返す。そこからの!
――《払い突き》――
下の竜からの攻撃を真紅が打ち払う。そして一回転、突きが竜騎士へ。しかし、俺の突きはまたも空を突く。払い突きによって爪攻撃を打ち払われ、体勢を崩した竜がそのまま翼を広げ、空へと舞い上がっていた。おやおや、地上のみで相手するんじゃなかったんですかねー。
「どうやら、僕も本気を出さないと駄目なようだ。覚悟するがいい、そして僕に本気を出させたことを誇るがいい」
あ、はい。
さてと、ここからが2ラウンド目ってとこか。
2021年5月9日修正
驚異だな。うん、驚異だ → 脅威だな。うん、脅威だ