3-34 パーツ
―1―
地面に刺さっている真紅を取りに行く。
サイドアーム・ナラカで真紅を引き抜き、自分の手に持ち直す。よし、真紅に傷は付いていないな。にしても腕が短いってのは凄い不便だよなぁ。サイドアームがもう一つ欲しくなるよ。だってさ、グレートソードを地面に置いて、真紅を取って、自分の手に持ち直して、そこからまたグレートソードを拾って……って、面倒いッ! もうね、自分が人型だったときのことがうろ覚えになるくらいに芋虫型に慣れちゃったけどさ、不便なのは不便だと思います。うん、当たり前なんだよなぁ。
さて、扉を調べますか。
両開きの扉に触れると、扉がギィーと嫌な音をたてて開き始めた。おや? ボスを倒したから開くようになったのかな。では中に入りますか。
部屋の中は外よりも少しだけ明るかった。広さは……少し狭い講堂って感じだな。部屋の奥の壁にはステンドグラスのような飾りがある。地下室にステンドグラスってさ、陽射しも入ってこないのに意味が無いと思うんだけどなぁ。それにガラスを作る技術があったこともびっくりだよね。この異世界って意外と文明レベルが高いんですねー。
ステンドグラスの下には祭壇のようなモノ、部屋の中央にはまるで何かの儀式を行うかのように円上に配置された燭台があった。なんだろう、黒魔術でも行っていたんだろうか。
中央の燭台を確認する。これは銀で作られた燭台かな。持って帰れば少しはお金になりそう……って、今は換金所に行けないんだったッ! まぁ、迷宮内とはいえ設置されたモノを持って帰るのは泥棒だからね、悪いことをしちゃだめだよね。
何かの儀式跡を抜け、ステンドグラスの下、祭壇に近づく。
祭壇の上には何かの金属の塊があった。四角い棒のような、何だろうな、何かの装置? 何らかの機械にも見えるな。超古代の機械文明の名残とかありそうだ。よし、とりあえず貰って帰ろう。さきほど燭台の時に泥棒云々と言っていたな、アレは持って帰るのが難しいことへの言い訳なのだ。しかし、こうして冒険者って立場になって迷宮から宝物を入手しているとさ、思うんだけど冒険者って、ただの盗掘者だよなぁ。あ、そうだ。忘れずに鑑定しておこう。
【謎のパーツ】
【何かに使う謎の部品】
ちょ、謎って……鑑定の意味がないじゃないか。しかしまぁ何かに使うのか……、これは確保必須だな。まぁ、使うことがあるかは分からないけどね。
よし、これでここの探索は終わりかな。小迷宮って名前だけあってそれほど広くはなかったな。にしても魔法が使えなくなる理由の原因や何かを隠している秘密でも見つかるのかと思って一人で来たんだけどなぁ。こんな謎のパーツがあるだけで終わってしまうとは……拍子抜けだよ。
さ、戻りますか。
―2―
――[ヒールレイン]――
白い部屋で余ったMPを消費させ、個室に戻る。うーん、やはり見張りとかは居ないんだな。こんな不用心では、すぐに小迷宮に進入されたり白い部屋で魔法を使われたりしちゃうんだぞ。
魔法の真銀の矢と謎のパーツは個室に置いておこう。まぁ、盗まれることは無いだろしね。後は……寝ますか。夜遅くに探索を行っていたし、今日は一日寝て過ごすとしよう。ぐうぐう。
朝練が終わり、控え室でご飯を食べてのんびりしているとキョウのおっちゃんがやって来た。
「旦那、小迷宮の探索はもうお仕舞いなのかなんだぜ?」
そうなのだ、お仕舞いなんだぜ。もう充分に探索してがっかりな結果に終わっているからね。後は親善試合までゴロゴロする予定なのです。
「旦那、団体戦にでも参加しようぜ」
しないぜー。もうゴロゴロで決定なんだぜー。
そうこうしている間に親善試合の日がやってきた。結局、試合の日までにオーガスは復活しなかったな。
さ、控え室に行きますか。
控え室にはずだ袋さん達が居た。
「来てくれたな」
はい、来ました。
「君の試合開始まで奥の通路で待っていて貰えるだろうか」
通路で待つのか。このまま控え室で待っていても良いんじゃね?
通路の中にも外からの歓声が聞こえる。おー、盛り上がっていますなぁ。
何を喋っているか聞きたいが、ログが流れるのが早すぎて文字を読み切れないなぁ。うーん、何やら騎士を褒めているコメントが多い気がする。なんだ? 観客全員で神国をはめようとしているんだろうか? それとも強い者が大好きって国民性がそうさせているんだろうか?
にしても長いなぁ。お腹空いてきちゃったよ。ご飯を食べてから待っていれば良かったよ。空腹だよ。
待っているとずだ袋さんがやってきた。
「時間です。今のところ2戦行って1勝1敗です。出来れば負けていただけるとこれからの展開が盛り上がるので助かります」
へぇ、今のところ引き分けなのね。にしてもわざと負けた方が良いのか。フロウにもそう言われているんだよなぁ。どうしようかなぁ。まぁ出たとこ勝負ってことで。
ずだ袋さんの案内で舞台の上に。今回は舞台上までは付いてきてくれないんだな。少し寂しいです。
さあ、対戦相手は、っと。
目の前に居るのは翼を持った蜥蜴にまたがった鎧姿の騎士だった。へ? あのー、も、もも、ももも、もしかして竜騎士さんですか? えーっと、ペットの参加は有りなんですか? おかしいよね、絶対おかしいよね。だって、これじゃあ、2対1じゃん。なんだよ、これが有りなら俺も小っこい羽猫と一緒に参加しちゃうよ? いいの? お前、小っこい羽猫と一緒に参加したら絶対しゅんころだよ? しゅんころだよ?
観客席を見回す。ほー、全席埋まっているな。うん? 奥の大きな席に豪華な衣装に身を包んだ少年が座っているのが見えるな。もしかしてアレがゼンラ帝か。幼いって言っていたからてっきり2歳児くらいかと思っていたら小学生くらいじゃないか。隣に居るのは、おー、頭の悪そうな会話をしていた神国のお姫さまだな。ちゃんと試合を見に来ているんだな。
「魔獣の姿に見えるけれど、僕の言葉が分かるのかな?」
観客席を見回していた俺へ向けて目の前の竜騎士から耽美な声が流れてくる。あ、はい、分かります。
『分かるな』
無視するのも可愛そうだし、仕方ないので天啓を授けてあげる。
「そ、そうか」
竜騎士が驚いた顔をしている。そんなに喋る魔獣が珍しいのかねぇ。まぁ、俺は星獣様だしな!
「ただの魔獣なら倒してしまおうと思ったのだが……」
いや、あのー簡単に倒すって言うけど、そんなに自分の力に自信があるの?
「知恵があるのならば降参することをオススメしよう。幾ら魔獣とはいえ、僕は無益な戦いを好まないんだ」
えーっと、この人は馬鹿なんだろうか。いや、ならさ、なんでお前はこの場に居るんだよ。負けろって言われたらさ、逆らいたくなっちゃうよね、うん。
はぁ、何だか負けられない戦いになった気がするなぁ。
2015年6月17日追加
なんでお前はこの場に居るんだよ。の後に『負けろって言われたらさ、逆らいたくなっちゃうよね、うん。』の一文を追加
2021年5月9日修正
儀式後 → 儀式跡




