3-27 市民権
―1―
ダナンが鉄の爪を振りかざし襲ってくる。こんな大振り当たらないっての。
右、左、余裕、余裕。と、そこに赤い線が混じる。や、やばい攻撃か?
俺は大きく右に避ける。それに合わせるようにダナンのだぼだぼの袖から鉄球が飛び出す。ちょ、危な……。
「あれを避けるだか……。攻撃を予測する力でも持ってるだかね」
にしても鉄球とか――もしかして暗器使いか? 危険感知スキルがなければ危なかったな。
鉄球がするすると袖の中に戻り収納される。ホント、どうなっているんだ?
またしてもダナンが鉄の爪を振りかざし襲いかかってくる。右、左、避けるのは余裕だな。更に攻撃に赤い線が混じる。また鉄球ね、はいはい。俺は最小限の動きで飛び出してきた鉄球を避ける。同じ攻撃を繰り返すのは減点だぜ!
そしてダナンは鉄球をぶら下げたまま俺目掛けて鉄の爪で攻撃してきた。
――《払い突き》――
真紅で鉄の爪を打ち払い、そのまま一回転。突きを――その瞬間、ダナンがぷっと何かをこちらへ吹き付けた。細い何かが片方の目に刺さる。痛ぇ。
「そいつは即効性の神経毒だで、悪く思わんでくれよ」
ああ、身体が痺れ動けな……いや、動くぞ。効いてないじゃん。へ、何で?
ダナンは毒が効いたと油断しているぞ。これはチャンスか。
不用意に近寄ってくるダナン。まったく警戒している様子はない。今だッ!
――《百花繚乱》――
真紅から放たれる穂先も見えないほどの高速突き。片眼で上手く狙いが定まらないが、多段突きならどれかが当たるだろッ!
「な、なして毒が」
はん、油断したなッ! 突きがダナンの身体を貫いていく。ダナンの身体から赤い血の花びらが舞う。
「ぐ、が、が」
更にッ! 今なら回避出来ないだろッ!
――《スパイラルチャージ》――
真紅が赤と紫の螺旋を描きダナンへと迫る。ダナンが必死にスキルとスキルの合間の隙をつき、鉄の爪を交差させて俺の突きを防ごうとする。
ガリガリと嫌な音を立てて真紅がダナンの鉄の爪をこじ開ける。そのまま螺旋がダナンを貫く。
終わりだッ! 思い知れッ!!
その瞬間、視界が真っ赤に染まる。そして、ダナンの身体が爆発した。な、なんだと?
俺の身体が爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる。な、じ、自爆した?
吹き飛ばされた体を確認する。怪我は……打ち身、擦り傷は多いが再起不能になりそうな怪我は無いな。丈夫な体で良かったよ。俺はサイドアーム・ナラカを使い目に刺さった針を抜く。失明は免れそうな感じだな。
で、ダナンは?
視界を覆っていた煙が消え、闘技場が姿を現す。
視界の先、ダナンは跡形も無く吹き飛んでいた。辺りには、砕けた鉄の爪の欠片や細切れの布など、ダナンが装備していたであろう残骸が散らばっていた。ダナン自身は跡形も無く吹き飛んだようだ。
こ、これで終わりなのか。まさかの自爆で終わりなのか。なんだよ、ソレ。
俺は真紅を地面に突き刺そうとして、止める。いかんいかん、真紅を八つ当たりに使っては駄目だな。にしても、こんな終わりって有りかよ……。納得出来ないよ。
―2―
呆然と立っている俺の目の前でずだ袋さん達がダナンの残骸を片付けていく。
そのままずだ袋さんに連れられ通路へ。
「おめでとう」
ずだ袋さんからの祝辞。しかし素直に喜べないな。
「今回の報酬だ」
ずだ袋さんから1,000死に紙を3枚と大きな魔石3個を受け取る。おー、一気に報酬が増えたな。
控え室に戻るとフロウが待っていた。
「ほう。無事に生き延びたようだな。まずは着いてこい」
フロウが手招きする。小っこい羽猫が俺の頭の上に飛び乗ったのを確認してから、そのまま素直にフロウの後を着いていく。
フロウが案内したのは小さな個室だった。
「今日から、ここがお前の部屋だ。それとコレを受け取れ」
フロウが何かの小瓶を投げる。俺はサイドアーム・ナラカでそれを落とさないようにしっかりと受け取る。
『これは?』
「解毒薬だ」
へ? さっきのダナン戦の毒のこと?
「ほう。ダナンは毒を使ったか。よほど追い詰められたのかも知れないな。ああ、当たり前のことだが闘技場では毒の使用は禁止されているからな」
って、おいおい、禁止されているモノを使ったのかよ。うん? じゃあ、この解毒薬は何の?
「ふむ。お前の状態を見るに、お前は色々な毒に耐性があるのかも知れないが一応飲んでおけ」
ま、まぁ、飲みますか。小瓶の蓋を開け、どろりとした液体を飲む。
『説明を聞いても良いか?』
フロウは腕を組み、こちらを見、クククと笑う。
「仕方ない、知りたがりな芋虫に説明してやろう。この闘技場はな、ある小迷宮の上に建てられている」
ふむふむ。
「その迷宮は魔法を使用出来ないという特徴を持っていてな、その力は地上部分にも及んでいるわけだ」
ふむ、それを利用しているから闘技場は魔法が使えず戦いのみに特化しているワケか。
「で、だ。それを利用した毒があってだな」
ふむふむ……毒?
「まぁ、毒という呼び名は適切じゃないのかも知れないがな」
毒だけど毒じゃない?
「その毒はな、この魔法が使えない特殊なエリアから出ようとしたり、魔法を使おうとしたりすると発症する代物な訳だ」
へ? 何だ? そのピンポイントな嫌がらせ。
「醜く体が崩れ落ちて溶けるような代物だからな。だから忠告しているわけだ、魔法は使うな、逃げるな、と」
ままま、マジですか。俺、魔法を使おうとしたよね。やばかったのか。にしても何時の間に俺は毒にやられていたんだ?
「買い取りのヤツは受け取る時に、腕輪付きのヤツは腕輪を外す時に、な」
うん? と言うことは外から参加している人たちは関係無いのか。まぁ、当然と言えば当然か。
『何故、それを教えてくれるのだ?』
フロウが再度、クククと笑う。
「6回勝ったからな。外部からの者でも闘技場で6回勝てば三級市民権が貰えることになっているからな。市民を毒に犯したままには出来ないだろう?」
え? もしかして自由になるフラグ?
「が、まだお前はこの闘技場の所有物だからな。自由に外へ出ることは許可出来ないな」
ですよねー。
「もう毒も無いからな。力尽くで出ようとしてみてもいいぞ。その時は闘技場最強がお前を追うだけだ」
もうね、怖いことを言いますね。
「ついでに支払われなかった報酬も渡しておこう」
フロウから1,000死に紙を1枚と大きな魔石を1個受け取る。ほー、結構大きな報酬だったのね。
「後は頑張って10,000まで死に紙を貯めるんだな」
フロウはそう言い残して去って行った。
うーん。自由なような自由じゃないような、中途半端な感じだなぁ。