2-8 解体
―1―
森を抜け里に戻ってきた。向かうのはもちろん冒険者ギルドである。
冒険者ギルドの中で待っていたのは、もちろんちびっ娘だ。
「虫、森鼠倒せたか?」
『ああ、倒せたぞ。さっそく見てくれ』
俺は皮の背負い袋からホーンドラットの死骸を取り出し、カウンターに置く。血はすでに乾いており流れていない。
ちびっ娘は前回と同じように手をかざす。手の下には同じように金属のプレートが見える。
「未解体、換金所で解体する」
ああ、そうだな。
「持って行け」
ちびっ娘はカウンター下から完了札を取り出す。完了前だけど渡してくれるのね。
「後は、解体だけですね。最初は苦労すると思いますけど頑張ってください。では、また明日」
そう言ってウーラさんは帰って行った。今日もありがとうございました。
カウンターに置いたホーンドラットの死骸を皮の背負い袋に入れ直し、完了札を貰って換金所へ。
『完了札を持ってきた。受け取って貰いたい』
受付のお姉さんに完了札を渡す。
「あー、ホーンドラットの狩猟クエストの方ですか、懐かしいですね。では解体ですね。こちらへどうぞ」
奥の作業場? 解体所? に案内される。
「ゴンザレスさーん、解体の確認、お願いしまーす」
受付のお姉さんは奥で解体作業を行っているであろうゴンザレスさんを呼ぶ。
現れたのは予想外にもエルフの若者だった。あー、こちらだと森人族……か。
「初めまして。ゴンザレス・スカーレット・スイロウです。ゴンザレスと気軽に呼んでください」
ゴンザレスさんは俺の姿を見て「あっ!」と声を上げる。
「今、話題の星獣様だっ!」
うお、自分ってば意外と有名になってきてる? まぁ、モンスターで冒険者になろうなんて物好き居なさそうですもんね。
『初めまして。星獣の氷嵐の主という。よろしく頼む』
「はい、こちらこそっ! では解体しましょうか」
ゴンザレスさんの言葉を受けて、俺はテーブルの上に5体のホーンドラットを置く。
さあ、ここからが本番だ。
―2―
「もう遅いんだが、本当は狩ったすぐ後に血抜きと魔石の取り出しだけはした方が良いね」
『理由を聞いても?』
「まず血抜きだが、行わないと血が残り単純に肉が不味くなるから。食用でなければ無理に血抜きをする必要は無いね。次に魔石を取り出す理由だけれど、魔石を痛めない為。ホーンドラット程度なら良いけど、折角、倒した魔獣の魔石の価値が落ちるのはほーんっと勿体ないからね」
なるほどー。
「まずは魔石を取り出してみようか。大体、どの魔獣も心臓の辺りに魔石を持っているね。ということでお腹をかっさばいてみようか」
う、ついに始まるのか。
俺は魔法糸でホーンドラットの死骸を固定し、冒険者ギルドで貰った鉄のナイフを死骸の胸に当てる。そのままナイフをずぶりっとお腹に入れ、心臓まで開けていく。
心臓の辺りに黒い小さな石のような物が見える。
「見えたかな? それが魔石だよ。基本的に強力な魔獣ほど大きな魔石を持っているんだ。そして魔石は色々な使い道がある為、多く必要とされ、その需要がなくなることはないんだ」
魔石を燃料にして、みたいな感じなのかな。その辺はおいおい分かりそうだなぁ。
俺は手を突っ込み、ぐちゅっとした肉の中から魔石を取り出す。
『ちなみにこの魔石の価値は?』
「正直、ホーンドラット程度だと無いにも等しいんだ。良くて160円、普通なら120円くらいかな」
潰銭15から20枚ほどか……正直、潰銭って嵩張るばかりで手に入っても嬉しくないんだよね。硬貨を沢山集めることが好きな人には良いのかも知れないけどさ。
「さて、これで最低限の処理は終わったが……次からが解体だね」
うへぇ。結構、キツいなぁ。
「まずはさっき開いた穴から内臓を全部だそうか。出した内臓はこの箱に入れてくれれば良いよ。外での解体ならそのまま放置していても良いかな」
言われたとおり内臓を掻き出す。うう、グロいなぁ。現代っ子にはキツい作業です。にしても内臓を食べる文化はなさそうですね。
「次は角を取り、皮を剥いで、肉を切り分ける作業だね」
角はパキンと取れた。骨みたいな感じです。
皮は、なかなか剥ぎ取れず苦戦する。いびつになりながらも、なんとか皮を剥ぎ取り肉を切り分けていく。
「はい、それで終了だね。どう疲れたでしょ。冒険者の中には解体を換金所任せにする人も多いけど、冒険の途中で解体が出来なくて食事が出来なかった、では済まないからね。一度は解体を経験して貰うことになっているんだよ」
俺はなんとか一体目の解体を終えたみたいだ。……命、ありがとうございましたッ!
『これ、残りの四体もやるんですよね?』
「もちろん」
ゴンザレスさんはむっちゃ笑顔だ。うぷ、こんなことなら追加で4匹も狩るんじゃなかった。
「にしても、意外だったなぁ。元魔獣のランさんなら平気な顔でこなすと思っていたんだが、震えているのがこちらにも伝わってきたよ」
だって、現代っ子ですもん。
それでも、なんとか時間をかけて残りの4体も解体を終えた。
『お、終わった……』
「はい、お疲れ様でした。これでクエスト完了だね。そうそう、もし良かったら、その背負い袋にクリーンの魔法をかけておこうか? 次からは一回につき640円貰うけど、今回はサービスでやってあげるよ」
お、それは願ってもない。クリーンの魔法って多分、アレだよね。言葉の感じからアレだよね。
俺はゴンザレスさんに皮の背負い袋を渡す。
――[クリーン]――
魔法の発動。背負い袋の汚れがみるみる落ちていく。こびりついていた血糊なんかも綺麗さっぱりです。うわあ、コレ、是非覚えたい魔法だ。毎回銅貨1枚を渡すのも勿体ないしね。
クエスト報酬:640円
ホーンドラットの肉:5体×320円=1600円
ホーンドラットの角:5本×120円=600円
ホーンドラットの魔石:5個×120円=600円
クリーン代:サービス
合計:3440円
銅貨5枚と潰銭30枚です。手持ちの潰銭と併せて銅貨1枚に両替して貰いました。
肉の買い取り価格が半額なのは血抜きされていなかったかららしい。野兎の時はウーラさんにやってもらっていたもんなぁ。多分、ウーラさんは分かっていてやってくれなかったんだと思う。勉強しろってことだね。
やっすい金額だけど角も買い取ってくれるのは有り難い。にしても、こんな骨の塊みたいな角って何に使うんだろう。
にしても昨日の採取よりも報酬が少ないです。こんなんで冒険者って生活出来るのか? って勢いですね。ま、まぁ、まだ初級クエストだし、こんなもん、こんなもん。
あ、そうだ。ついでにコレも買い取って貰おう。
カウンターに戻り、受付のお姉さんに『手製の鞄(S)』を買い取って貰えないか聞いてみる。
「ほー、珍しい鞄ですね。少々お待ちください」
中に入れていた『世界樹の葉の欠片』などは皮の背負い袋に入れる。綺麗になったから入れても大丈夫なのだ。
結果、『手製の鞄(S)』は20480円、銀貨4枚になった。コレ、鞄職人でやっていけるんじゃねって思いそうだけど、一個作るのにかかった時間を思うと銀貨4枚でも割に合っていません。まぁ、それでも売っちゃうんだけどね。
換金所の帰りに露店で大きめのショルダーバッグを買う。銀貨1枚の出費です……が、中にポケットが何個もあるので色々な物を入れるのに便利です。
服飾店にも寄り、予備のベストとガウンも受け取る。コレ、宿屋の方で預かって貰えないかなぁ。
4月25日修正
露天 → 露店