3-25 6回戦
―1―
「殺せ」
「魔獣は殺せ」
「芋虫、糸を吐けー」
うん、大歓声だな。人気者は辛いなぁ。
――《魔法糸》――
俺は魔法糸をぽぽぽぽーんと飛ばす。それに合わせて大きな歓声が上がる。
「しねー」
「あぶねー」
「ふざけんなー」
「かっこいい……」
おお、ウケとる、ウケとる。俺は大歓声を後にして通路へ戻る。
通路の先では、ずだ袋さんが待っていた。
俺はずだ袋さんの下へ。
「調子に乗るんじゃないわ」
ずだ袋さんからの唐突なお言葉。うお、俺、何かしましたかね。
そして、そのままずだ袋さんは通路の奥へ走って消えていった。
へ?
あのー、報酬は?
そのまましばらく待つが、通路には誰も来なかった。仕方がないので一人でとぼとぼと控え室に戻る。
「おー、旦那。お帰りなんだぜ」
おー、ただいまなんだぜ。
「で、旦那、次の……」
そこでキョウのおっちゃんの言葉が止まる。うん? どったの?
「芋虫、今回も勝ったようだな」
俺の後ろにはいつの間にかフロウが立っていた。ちょ、いつの間に?
「だいぶ余裕そうだが、次の試合の準備は大丈夫なのか?」
え? 何のこと? あ、そうだ、報酬のことを聞かないと。
『今回の試合の報酬が貰えなかったのだが?』
フロウが鋭い眼光でこちらを見る。
「ほう。詳しく聞こう」
む。やはり普通ではなかったワケね。とりあえず説明しないとな。
『試合後、普段なら迎えに来るはずの者がこず、一人で通路に戻れば、そこで待っていた者に罵倒され、そのまま走って逃げられたのだ』
フロウが腕を組み考え込む。しばらく考え込み、小さくぽつりと呟いた。
「要らぬコトをしてくれたものだ」
そんな独り言も、俺にはちゃーんと字幕で見えてます。
「ふむ。報酬は後日、必ず渡そう。となると、次の試合のことも聞いてないんだな?」
次の試合がすでに決まっているのか。
『うむ』
フロウは、キョウのおっちゃんに一瞬だけ視線を送る。そしてこちらに向き直り話し始めた。
「ふむ。芋虫、お前の次の試合は今日の17:00からだ」
へ? 今日だと?
「ああ、だからか。さっきまで17:00の試合の予定が空いたままだったんだぜ」
俺の勝敗次第で、そこをどうするか決める予定だったのか。
「かなり苦しい戦いになると思うが、それを乗り越えると期待しているぞ。ま、お前が死んだら渡すはずだった報酬が浮いて俺的には嬉しい限りだがな」
フロウは、そう言い残して去っていた。何しに来たんだ? 暇なのか?
次の試合は17:00か。すぐじゃないか。しかも一番盛り上がる時間帯か……人気者は辛いなぁ。
―2―
キョウのおっちゃんと共に食事をする。今日の献立は甘くゆでたコーンぽいモノと焼き魚である。突き刺さりそうなほど口が尖った焼き魚に魚醤を垂らしもぐもぐするのです。小っこい羽猫もちゃっかりともぐもぐしている。美味しいかね? あー、そうだ、もし自由になったら、世界樹の迷宮に葉っぱを食べに、一旦戻るのも良いかもね。転移スキルを使えば帝都と簡単に往復できるしね。小っこい羽猫よ、お前にも世界樹の葉っぱをもしゃもしゃする権利を上げよう。
うーむ。このゆでたコーンもどきが帝都では主食みたいだなぁ。お米の代わりぽいんだよなぁ。このゆでコーンにおかずってのが定番みたいだ。自由になったら、俺の推理があっているかを飯屋さんへ調べにいかないとな。
「で、旦那。大丈夫なのかなんだぜ?」
まー、大丈夫かどうかは相手次第かなぁ。
「いや、旦那はさっき戦ったばかりなんだぜ。疲れとかは残ってないのか?」
疲れねぇ。この体になってから、不思議と疲れが残ったってことが余りないな。ずっと戦い続けられるような感じなんだよなぁ。これも魔獣の身体だからこそ、なんだろうか。
「ま、旦那が元気なら、それはそれで安心なんだぜ」
食事が終わり、のんびりしているとずだ袋さん達が現れた。
「次の試合の時間だ」
ふむ、もうそんな時間か。
「ついてくるがいい」
ふむふむ。俺はほいほいとずだ袋さんの後ろをついて歩く。そして奥の通路へ。
「今日の昼はすまないことをした」
ずだ袋さんからの突然の謝罪。
「あなたには聞く権利があるから伝えるが、我らの中に、ある人物から脅され、あの時にある人物と入れ替わっていた者が居たのだ。本当に恥ずかしい限りだ」
ほー、そうだったのか。脅され、仕方なく交代した人が余り厳しい処罰を受けていないといいなぁ。
そのまま無言で通路を歩く。
「さあ、ここから闘技場の舞台に上がれる。芋虫殿、陰ながら応援しているぞ」
あ、応援ありがとうございます。こういうのって何だか嬉しいね。
じゃ、頑張っていきますか。
俺は闘技場の舞台に上がる。俺の前にはすでに対戦者が待ち構えていた。
だぼだぼの袖に帯を締めただけの緩やかな服、そんなぼさぼさ髪の冴えない格好の男が舞台の上に居た。
俺はこの男を知っている。
俺は知っているぞッ!
ああ、早い再会だったな。こんな場所で会えるとは思わなかったぜ、人攫いのダナンッ!
「はぁ……。こんなことになるなら武装した芋虫魔獣なんて珍しいからと助けるんじゃなかっただ」
ダナンがため息をつきながらぶつぶつと呟いている。
命を助けてくれてありがとうよ。だが、その後のことは忘れていないぜ。今、この状況を作った元凶が目の前に居るんだ。
思い知らせてやるッ!




