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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
3  世界の壁攻略
134/999

3-21  貫く者

―1―


 本日は団体戦に参加です。次の試合が組まれていないしね。どういった間隔で試合が組まれているのかは分からないけれど、余り期間が空くのは嫌だなぁ。

 早く自由になって北に向かったミカンさんと、どんどん東へ離れていっているシロネさんに合流しないと。シロネさんも帝都の周りでうろちょろしていると思ったら、今はどんどん東に向かっているし、このままだとシロネさんもパーティから外れてしまいそうなんだよなぁ。早く何とかしないと……。



 団体戦の参加メンバーはキョウのおっちゃん、ハイオークのオーガス、俺の3人です。


 3人? で闘技場に立ち無言のまま待つ。あー、グレートソードを買っておけば良かったなぁ。お、意外とお客様の入りは良いな。もしかして、俺とか注目されてる?


 そのまましばらく待っていると、舞台中央の床が開き何かがせり上がってきた。うん? かなり大きな檻だな。


 檻の中に居たのは羽の生えたジャイアントリザードだった。うん、そこそこ大きいよね。って、これ竜じゃないのか?


「おいおい、ここに来てタイニードラゴンなんだぜ」

 ……知っているのか、キョウのおっちゃん。

「なりはちっさいが、強力な範囲ブレス攻撃を持つ魔獣なんだぜ。毎年、こいつによって中級冒険者に死者が出ている危ない魔獣なんだぜ」

 あ、説明ありがとうございます。と言っても俺ってばドラゴンスレイヤーだしなぁ。これより、もっと強そうなアッシュドラゴンを倒しているんですよ。


「ふむ。ランよ、どうする? まだ、今のお前では範囲攻撃は厳しかろう」

 オーガスさんよ、確かにそうかも知れないな。けどさ、打開策? 考え? 小賢しいのはお腹一杯なんですよ。

『自分が突っ込む。後はいつもの通りだ』

 いつもの通りって、まぁ、キョウのおっちゃんしか分からないだろうけど……と思ったらキョウのおっちゃんがオーガスに説明してくれている。よし、行きますか。


 檻が崩れ、中からタイニードラゴンが出てくる。タイニードラゴンは口を大きく開き、中に何かを溜めていく。

 それを見て俺はすぐさま駆け出す。早いだけの俺は範囲攻撃に弱い? その通りだと思う。スキル頼り、武器頼りで技術が無い。その通りだと思う。だから、俺はそれを貫く、もっと貫き通す!


 タイニードラゴンの口から紫の炎がほとばしる。辺り一面を炎に変えていく。

『真紅、行くぞッ!』

 俺は真紅を前に、そのまま紫の炎へと突き進む。

「お、おい、旦那、自殺行為だぜ」

 いや、俺は真紅を信じているぜ。


 真紅が紫の炎を斬り裂いていく。真紅によって炎が分かれ、道が作られていく。そのまま突っ切るッ!


――《スパイラルチャージ》――


 真紅が赤と紫の螺旋を描き、竜の口に突き刺さる。そのまま砕けッ!


 すぐさま赤い線が斜めに走る。く、ヤバイか。口に真紅が刺さった竜が暴れ回り凶悪な爪を振り回す。俺はすぐに真紅を引き抜き後退する。そこへ竜が再度ブレスを放つ。溜めの無い簡易ブレス……こういったのもあるのか。


 その瞬間、ズドンと響き渡る振動が走る。見ればオーガスがグレートソードを地面に叩き付けていた。その衝撃波によって竜のブレスが吹き飛ぶ。

 そして、

「ああ、やだやだ。この二人とも脳筋なんだぜ」

 そのタイミングを見計らったかのようにキョウのおっちゃんが竜の懐に飛び込み、めったやたらと斬り刻んでいた。


 そのまま、のしのしと歩いてきたオーガスが俺の隣に立つ。そして俺の背中を大きく叩く。ちょ、痛いんですけど。芋虫の背中なんて思いっきり叩いたら体液出ちゃいます。

「ほお、そういう解法もあるか。しかし、すべて力でねじ伏せるのは苦難の道ぞ」

 ま、俺は我が儘だからね。このスタンスで行けるところまで行くさ。


「おーい、二人とも仕事してくれなんだぜ」


 力任せ、武器任せ……真紅が無ければ、出せない解法だ。でもさ、現実の俺には頼れる相棒の真紅があるんだぜ? 無い時のことを考えても仕方ないじゃないか。


 俺の素早さで竜を攪乱し、キョウのおっちゃんが地道にダメージを与え、オーガスが強力な一撃を放つ。竜の攻撃がオーガスに向いたら、俺が横から真紅の強力な一撃を加え、再度、こちらに注意を向けさせる。

 うん、完璧なチームワークだぜ。


 何度目かの攻撃で、ついにタイニードラゴンは崩れ落ちた。会場から大歓声が上がる。おー、盛り上がりましたなぁ。


「にしても、俺たち程度のランクを相手にタイニードラゴンはやり過ぎだと思うんだぜ」

「確かにな。我やランを潰す思惑でもあるのやもしれん」

 あ、その中にキョウのおっちゃんは含まれないのね。おっちゃん、巻き込んでごめんねー。と、オーガスさん、格好良く喋ってるけどさ、俺以外にはフゴフゴ言っているようにしか聞こえないんだよなぁ。それを思うとちょっと残念です。




―2―


 ずだ袋さんに連れられ通路へ。さあ、報酬だ。

「勝利、おめでとう」

 ありがとうございます。

「報酬だ」

 ずだ袋さんから渡されたのは1死に紙が2枚と魔石1個だった。へ? これだけ? 小っこいけど竜を倒したんですよ? 楽勝に見えたかも知れないけれど、かなり頑張ったんですよ?


 見ればキョウのおっちゃんも渋い顔をしている。何か言いたいが我慢している顔だな。

「すまないな。これ以上は出せないんだ」

 ちょ、どういうこと? 報酬に制限なんてかけられたら、一生自由になれないじゃん。ちょっと酷すぎないか。


 そのまま通路を通り控え室に戻る。

「これは当分、団体戦に参加せぬ方が良いかも知れぬな」

 確かになぁ。

「強制参加以外は団体戦に参加しない方が良いかもだぜ」

 うん、そうだね。オーガスさんも今、同じ事を言っているよ。


 にしても一気にきな臭くなってきたよなぁ。競技性が高くなく、ただの娯楽だからな。こういう理不尽も有りってことか。最低だな。

「通常の試合の報酬は最低額が決まっているから誤魔化せないんだぜ」

 つまり?

「今後は通常の試合だけを頑張って1万死に紙を貯めるってコトなんだぜ」

 なるほど。でもさ、後、何戦するか分からないけれど通常の試合だけで1万も貯まるモノなのか?

「それな。無駄遣いをしなければ7回勝てば必ず貯まっているはずだぜ」

 ほー、そうなんだ。

「ま、それが困難なのだがな」

 へ? どういうこと?

「7回戦は星獣様だし、8回戦は剣聖様なんだぜ。無理過ぎるんだぜ」

 え? 相手が決まっているのか?

「勝てぬからな。普通は我のように5、6回戦をうろちょろするのだよ」

 そ、そうなんですか。でもさ、皆さん、分かっていないようですが、俺もその星獣様なんですが……。なんだか扱いが軽くないですかねぇ。

「にゃあ?」

 珍しく足下を歩いていた小っこい羽猫が首をかしげている。


 よし、星獣にふさわしい貫禄を身につけるところから始めよう。

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