3-19 勝利後
―1―
ずだ袋さんに連れられて通路へ。観客席からは未だに殺せコールが響いている。だから、殺さないってばさ。
通路ではフロウが待っていた。
「ほう、勝ち残ったか」
フロウはこちらを見てニヤニヤと笑っている。殴りたい笑顔だ。
「ほう、最近、保管庫で嫌な音を立てていたのは、お前のその槍が原因か。まるで生きているかのようだな」
ニヤニヤとした顔のまま、フロウが俺の腰に付けた槍を見る。生きている……か、物には魂が宿るって言うしな。
「まぁ、お前の槍が壊した壁はサービスにしといてやる」
サービスって。俺も狙って壊したわけじゃないんですよ。
「おお、そういえば忘れていたが報酬を渡さないとな。しかし、お前はすでにステータスプレートを持っているんだったよな。そうだなー。おお、そうだそうだ。今、お前が持っている槍を今後も使える権利にしようか」
真紅を使える権利か。それは確かに嬉しいけれど、そんな簡単に決めて良いのか? って、こいつは運営側の人間だったな。そうだった。ならば、今、確認しておくことがある。
『オーガスはどうなる?』
フロウがニヤニヤ笑いを止め、こちらを見る。
「ほう、さっきまで殺し合っていた相手が気になるのか?」
殺し合ったんじゃない、力と力をぶつけ合ったんだ。
「ふむ。さっきの件だがな、お前が槍を使う権利をオーガスの助命に変えるか?」
な……んだと? 普通なら自分の命が大事だよな。それを守ってくれる真紅を手放すなんて……いや、でも。
「ほう、迷うか。ククク、冗談だ、冗談だよ。オーガスは――アレはアレで優秀な闘技者だからな。あれほどの闘技者を一から育てるのは大変だからな。他の連中は考えが違うだろうが、俺からするとアレを殺すのは惜しい」
返答に迷った自分が情けなくなる。でもさ、今更、真紅を手放すのは……無理だよ。
「お前が勝ち上がるのを期待している。おい、後は任せたぞ」
フロウはずだ袋さん達に命令する。
「おっと、そうだった。次に魔法を使おうとしたら制裁を与えるからな。忘れるなよ」
フロウはこちらに振り返り、そう言い残して去って行った。最初は門番かな、くらいのオーラしか持っていなかったのに、こう命令しているところを見ると真っ黒な大物オーラが凄いな……正直、怖い。
「おめでとう」
ずだ袋さんが祝福してくれる。あ、ありがとうございます。裏表の無さそうな、ずだ袋さん達は癒やしだなぁ。
「今回の報酬だよ」
渡されたのは100死に紙紙幣が2枚に小ぶりな魔石が3つだった。おおー、一気に報酬が良くなったな。
「後は……と、おい、それ、大丈夫なのかい?」
ずだ袋さんが指差している方向は……折りたたんで腰に付けていた真紅じゃないか。
真紅が小刻みに揺れている。うん? どうしたんだ? 真紅に触れると真紅の思念らしきモノが流れてきた。
――『おなかすいた』
う、うん? ううん?
俺は先程貰った魔石3個を真紅に近づける。すると魔石は真紅に取り込まれ消えてしまった。あ、う、うん。
もしかしてさ、俺を助けに来たんじゃなくて……お腹が空いたから来たのか? いや、駄目だ、それを考えては駄目だ。そういう風に思い込んでは――考えては駄目だ。こう、ピンチの時に助けに来てくれたって感動が……俺の感動がががが、うがー。
「大丈夫かい」
俺の様子を見て心配してくれたのか、ずだ袋さんが近寄り声をかけてくれる。ええ、大丈夫です。
「大丈夫か。それなら良い。後は大部屋から卒業だ。今度は二人部屋になる」
へー。二人部屋か。一緒になる、もう一人が性格の良い人だといいなぁ。じょ、女性だと困るなぁ。って、この闘技場で女性を見たことがないんですけどねッ!
―2―
二人部屋に居たのは……。
「おー、あー、なんだよ、よかったぜ。一緒になるのって旦那かよー」
キョウのおっさんだった。おっさんと一緒に寝泊まりするのかー。するのかー。
「俺もさっき、この部屋に案内されたばかりなんだぜ」
へー、そうなのか。キョウのおっさんって、今何戦して、どれくらい勝っているんだろうな。なんだかその辺のことがよくわからないなぁ。
「そういえば旦那、あのオーガスに勝ったって聞いたぜ」
あー、はい。勝ちました。
「旦那、早いだけじゃなかったんだねぇ」
そうなんだぜ。違うんだぜ。ま、まぁ、真紅が来なければ負けていたけど、ねッ!
「俺は明日からも団体戦をやるんだぜ。旦那もどうだい?」
そうだなー。スキルのレベル上げにもなると思うし、参加するか。と、今日はもう参加しないのか?
「今日はすでに一戦やっているんだぜ。後は体を休めないと保たないんだぜ」
なるほどなー。1日1戦が基本で、後は練習か、休むって感じなんだなぁ。俺からすると物足りないよな、いやまぁ、俺は戦闘狂じゃないんですけどね。
改めて室内を見回す。地下なのでもちろん窓などは無い。魔石を使っているであろう魔法の灯りのみが室内を照らしている。うん、改めて考えると心が病むような暗さだ。簡易な二段ベッドと丸い机に椅子があるだけのシンプルな部屋――そう、ビジネスホテルの一室を思い出す……泣けるぜ。
「あ、旦那。ベッドの上は俺が貰ったんだぜ」
いやいや、何言っているの。
――《魔法糸》――
俺は糸を飛ばし空中を舞い二段ベッドの上へ。空中を華麗に舞う芋虫。ふははは、譲らんぞ。
「ちょ、だ、旦那」
『すまんな、自分は上のベッドに寝ないとご飯が美味しく食べられない呪いにかかっているから、な』
そう、これは仕方ないんだ。飯不味は駄目絶対。
「はぁ……、まぁ、今回は旦那にゆずりますぜ」
すまんな。と言ってもまだ寝るには早い時間だよな。と言っても練習する気にはなれないしなぁ。
暇だし、《浮遊》でぷかぷか浮いては気絶してを繰り返そう。ベッドに浮かぶ芋虫……ぷかぷか。
「旦那……何をやっているんだ? ホント、旦那は外見から、存在から、規格外だぜ」