3-10 1回戦
―1―
目が覚めると朝になっていた。ふあぁ。首から提げたステータスプレート(銀)の時刻は6:23か。まだまだ早い時間だな。頭の上に乗ったままだった小っこい羽猫も寝たままだ。
よし、時間もあるし、練習場に行ってみるかな。
控え室にも練習場にも、まだ誰も居ないようだった。早朝訓練はやらないのか。それともここの人たちは休める時はギリギリまで休むスタンスなんだろうか。
ロングソードをサイドアーム・ナラカに持たせてみる。ひゅんひゅんと軽い音を立てて剣が飛び回る。サイドアーム・ナラカが見えない人からすれば空中に剣が舞っているように見えるんだろうな。
しかし、軽いよなぁ。サイドアーム・ナラカだとスキルを使って補正するか武器の重さや速度でなんとかしないと軽すぎて微妙な――不意打ちくらいにしか使えなさそうだよなぁ。
黙々とロングソードを振り回す。サイドアーム・ナラカ自体は非力なのに、どれだけ重くても持つことや振り回すことが出来るんだよな。良くわからない不思議な感じだよ。ぶつりほうそくをむししている。
ああ、早くグレイトソードが欲しいな。重さもあって長さもある、槍の無い今なら一番欲しい武器だよなぁ。
後は……そうだな、剣の心得が無いんだから早くスキルを憶えてカバーしないとな。
大部屋に戻ると目の部分だけを開けたずだ袋をかぶった謎の男達が居た。
「今日の配給だ」
ずだ袋の男達が何かの券を闘技者に配っている。ああ、お食事券か。俺も貰っておこう。並んでいる闘技者の後ろにつく。
俺の順番になり券を受け取る。
「ちょっと待て、お前は今日の昼から試合の予定が組まれている……言っていることわかるよな? な?」
馬鹿にするなって、言葉くらいわかるとも。
『ああ』
ずだ袋の人がうんうんと頷いている。
「良かった……。まぁ、ここに来る魔獣って大抵大人しいから楽でいいんだけどさ。やっぱり魔獣の外見は怖いからな。分かるだろ?」
いや、それを俺に聞きますか。ま、まぁ、俺も突然、何も知らずに巨大な芋虫に話しかけないと駄目って言われたら――躊躇するだろうからな。わ、分からないでもないってことにしておく。
「じゃあ、伝えたからな。12:00試合開始だから遅れるなよ」
12:00ね。了解。まぁ、こんな限られた場所しか行けない施設の中なんだ、遅れることも逃げ出すことも不可能だな。
―2―
食券を持ってフードコートモドキへ。カウンターには見本とおぼしき定食が2種類並べられていた。他にも色々と良くわからない食べ物も並んでいるが、そちらは死に紙が無いと買えないようだ。
A定食がパンみたいな物と謎のお肉がたくさんだな。B定食はゆでたトウモロコシぽい物山盛りとスープか。
まぁ、AとかBとか書かれているわけじゃないけど便宜上AとBにしておく。多分、肉が食える人と食えない人用の食事なんだろうな。ここは色々な種族や魔獣が居るからなぁ。
にしてもここに来て星獣の扱いや魔獣ってのが良くわからなくなった。喋れる魔獣が星獣だと思っていたんだが、どうも違う感じなんだよなぁ。うーん、ま、考えても仕方ないか。俺は別に学者でも無いしな。
とりあえずB定食で。謎のお肉とかこれから戦いなのにあたると怖いし……って、今更か。
おばちゃん、B定食お願いしまーす。
「あ、あんた、これを食べれるのかい?」
もちろん。
「肉食じゃないんだねぇ。魔獣さんがたは肉ばかりだから意外だよ」
ほうほう。まぁ、俺も肉類の方が好きなんですけどね。ただ今回は謎肉を避けただけなんですけどねー。
まぁ、食べましょう。
まだおおっぴらにサイドアーム・ナラカを使うわけにもいかないので器に顔を突っ込んでもしゃもしゃ齧ります。頭の上に乗っていた小っこい羽猫も頭から降りてもしゃもしゃと食べています。
芋虫とそのペットが一個の器に顔を突っ込んでもしゃもしゃしているとか酷い絵面だよなぁ。
味は普通にゆでたトウモロコシだな。いやもう、これ、トウモロコシもどきとか呼ばずにトウモロコシでいいんじゃね? 的な感じです。ほんのり甘みもあるし、缶詰のゆでたトウモロコシを食べていた頃を思い出すよー。アレ、意外と癖になるんだよなぁ。
―3―
試合の時間まで控え室の椅子で座って待っていると(乗っているだけとも言う)ずだ袋の方々がやって来た。
「準備は出来ているようだな。こちらだ」
案内されるがまま奥の登り側の道へ。途中、二手に道が分かれていたが、ずだ袋の方々は俺を左の道へと案内する。なるほど、ここで対戦相手と別れる訳ね。
そのまま坂道を進んでいくと闘技場の舞台端へ着いた。外からの陽射しがまぶしいぜ。
「相手を殺すか、気絶させるなど戦闘不能にすれば勝ちだ。ここから進めばすぐに戦うことになる。さあ、行け」
ずだ袋さんが簡単な――本当に要点だけの説明をしてくれる。さ、行きますか。
闘技場に上がると一斉に歓声が沸き起こり……なんて事はなかった。
舞台上から観客席を見回す。人が殆ど居ない。あー、そういえば今ってお昼時だもんね。みんなご飯を食べに行っているのか。
しばらく待つと俺の正面、向こう側から対戦相手が現れた。
現れたのは長剣を両手で持ち震えている少年だった。おいおい、まだ子どもだぞ。悪趣味だな。
「勝ったら、後3回勝ったら生き残れる。3回勝ったらステータスプレートが貰える。勝ったら……」
少年が震えながらぶつぶつと喋っている。結構な距離があるけれど俺にはしっかりと字幕として見えている。
「相手は魔獣だ。人間じゃない。魔獣だ。勝てる、勝てる」
まだぶつぶつと呟いている。
はぁ……。こんな子どもに戦わせて大丈夫なのか。
俺は駆け出す。
「は、はやい」
少年が喋った頃には俺はすでに少年のすぐそばまで近寄っていた。うーん、反応が鈍いな。
俺はそのまま少年の後ろへ回り込み、長剣の柄をたたき落とした。
「がっ」
少年がそのまま崩れ落ちる。うーん、死んでないといいけど。
えーっと、これで勝ちなのかな? は、初勝利です。