3-7 装備品
―1―
「そういえば自己紹介するのを忘れていたな」
胴巻き鎧の男がしゃべり出す。
「俺の名前はフロウ。この闘技場の責任者の一人だ」
責任者の一人? 俺はてっきり門番程度の存在だと思っていたよ。名乗られた以上、俺も名乗るだけ名乗っておくか。
『自分はランだ』
フロウが頷く。
「まぁ、長い付き合いになることを祈っておくぜ。まぁ、お前は見た目以上には賢そうだから、大丈夫かな? お、そうだ、先に支給品を渡しておくか」
フロウが「こっちだ」と地下へと降りていく道を進んでいく。俺は静かにその後を着いていく。地下ってことは転移で逃げることが難しくなるな。天井があると使えないもんなぁ。うーん。
「まずはお前が寝泊まりする予定の大部屋や個室がある通路だな。支給品のある部屋はもう少し先にあるから、ソコまでの間にお前の仕事の説明もしよう」
仕事ねぇ。強制される仕事なんですよね、ソレ。
「お前にやって貰うのは戦いって見世物だ」
あー、はい。予想通りですね。
「必死な生きるの死ぬのは良い見世物になるからな。ククク」
うわーお、腐ってやがる。
「お前には人魔部門で戦って貰う。人も魔獣も入り交じった強い者しか生き残れない最高に愉快なトコロだ」
人も魔獣も無いってか。
「まぁ、使えないだろうが一応言っておく。魔法は禁止だ。それ以外は全て有りだと思って構わない」
魔法は禁止なのか。野蛮なお国柄ってことなんですかねー。
「それとな、3回生き残ればステータスプレートが……って、すでにお前は持っているんだったな。まぁ、勝ち続けて儲け続ければ自分を買い直して自由になることも、富も名声もってな」
一応、救いはあるんですね。
「まぁ、まずは勝ち続けて三級市民になることを目指しな」
三級市民って名前が底辺ぽいんですが……今は、その底辺以下ってことですか。
「着いたぜ」
奥の……突き当たりにあった部屋の中へ案内される。
「まずは着替えな……って、お前、普通の服や鎧とか着れるのか? それとな、お前の持ち物は全部預からせて貰う。勝ち続けて自由になれば、その時には全部返してやるからな、安心していいぞ。その代わり、途中でお前が死んだら全部、俺たちで有意義に使わせて貰うからな」
なんつう悪徳な……。まぁ、問答無用で全没収されない分、マシだと思うべきなのか? ここで断って逃げ出したら……いや、状況の分からないまま危険な行動を取るのは不味いよな。しかし、そういった判断の遅れで取り返しの付かない可能性もあるしなぁ。
「おい、早くしてくれ。それと武器も最初はココにあるのから選んで貰うぞ」
今の所持品を全て渡してしまったら転移で簡単に逃げる道も絶たれてしまうんだよな。しかも逃げてしまうと――指名手配などをされてしまうかも知れないから――次に帝都へ来るのが難しくなってしまうし、な。そうなるとシロネさんやミカンさんとの合流先が……。あッ! これくらい離れた距離で転移をするとどうなるかも分からないのか。二人のことを考えると安易な転移も危険と……うーん。
「おいおい、ここにある武器や装備なんてどれも低レベルで似たような物だろ。ホント、早くしてくれ」
よし、決めた。まずは鑑定だな。置いてある装備品を鑑定しよう――そうなんだよな、下手にフロウやダナン相手に鑑定を使って、使ったことがバレてしまったら……どうなっていたか分からないからな。それに対して物なら好き勝手使っても大丈夫だろう。
大きな布の上に置かれた2本の長剣、両刃の斧、皮鎧、盾等々。槍は無いのか。
【低品質なロングソード】
【刃渡り1メートルほどの一般的な長剣。低品質の為、壊れやすい】
【ロングソード】
【刃渡り1メートルほどの一般的な長剣】
【低品質なバトルアクス】
【戦闘用の両刃斧。低品質の為、壊れやすい】
【低品質なグレーウルフの皮鎧】
【グレーウルフの皮を使った鎧。低品質の為、壊れやすい】
【頑強な木の盾】
【一般的な片手で持って使う木の盾。鉄板を使い補強されている】
うーん、数だけは多いがどれも性能が悪そうだ。俺の体だと鎧は着られないし、斧なんて振り回したら自分の方が怪我をしそうだし、盾も無理だよなぁ。となると……。
俺は身につけていた麻のベスト、夜のクローク、夢幻のスカーフ、樹星の大盾、魔法のウェストポーチXL(3)、魔法のポーチS(3)、ショルダーバッグ、皮の背負い袋、魔法の矢筒、切断のナイフ等々を全て外す。魔法のウェストポーチXLに入れていた真紅にホワイトランスとコンポジットボウも取り出す。何処かに送られて無くなりました、なんてなったら地獄の果てまででも追っかけてやるからな。ああ、くそ。そして全裸に逆戻りだよ。っと、そうだ。
――《魔法糸》――
俺はフロウから見えないようにこっそりと糸を出し、魔法のポーチから取り出したある物を包んで隠す。
『自分の持ち物はコレで全てだ。無くさないように預かってくれ』
よし、気付かれていないな。
「やっとかよ。よし、確かに預かった。って、その眼鏡も外せ」
いや、この叡智のモノクルは外れないんですけど。自分自身と一体化していたから、これの存在を忘れていたなぁ。
『これは外すことが出来ない』
「おい、何を言って……」
フロウが俺に近寄り叡智のモノクルを外そうと手をかける。そして驚き手を離す。
「ちっ、これはまさか無異装備か! お前、これを何処で手に入れたっ! 罪に問われようが殺してでも奪いたい位の装備だぞ」
世界樹ですよー。世界樹の迷宮のクリア特典だな。
「まぁ、無異装備の特性上、お前を殺しても手に入れることは出来ないんだがな……」
うん? どういうことだね?
「お前……知らなかったのかよ。無異装備は、な。その所有者しか使うことが出来ず、外すことも出来ず、壊すことも出来ない唯一無二の魔法具だ」
え? そこまで凄いの? そこまで来ると何だか呪いみたいだな。
「噂では迷宮王が作ったと言われているがな。無異装備を持っている奴らなんてSランクの冒険者や物語の中の登場人物くらいだぞ。それくらいの物だって、お前は分かっているのか?」
いや、知りませんでした。ほー、ソコまで凄いのか。
「まぁ、仕方ない。そいつに関しては特例でそのままにしてやるよ」
ありがとさん。でもな、他の所持品は必ず返して貰うからなッ!
『では、ここから装備品を選ぶとしよう』
俺はフロウから見て違和感が無いように上手く自分の短い手で誤魔化しながらサイドアーム・ナラカを使い装備品の下に敷かれていた大きな布を引っ張り出す。そのままくるりと羽織る。そして前を結ぶ。うむ、これならマントみたいに使えるな。そして俺自身の手でロングソードを取る。サイドアーム・ナラカでロングソードを持つのは、まだ危険だよな。奥の手だからバレたくないもん。
「おい、今、どうやって布を?」
ち、もしかして気付かれたか?
『コレもココにある物だ。使っても問題無かろう?』
「ほう、確かにな。いいだろう、持っていけ」
よし、上手く誤魔化せたな。すぐにバレるとはいえ、最初から手の内を見せるのは下策だからな。にしてもロングソードかぁ。剣スキルを持っていないのがかなり不安だよなぁ。《百花繚乱》くらいは発動してくれないかなぁ。
「よし、装備したな。では次は控え室に案内するぞ。そこに居る奴らと簡単な顔合わせだな。そのまま簡単な試験を行う。まぁ、お前みたいな体型の魔獣だろうが、冒険者をやっていたようなヤツなら余裕だろう」
ま、槍と弓がメインだったんで、剣なんて使えないんですけどね。
「では、来た道を戻るぞ」
来た道を戻っていく。
『装備品はかなり低品質な物ばかりのようだが?』
フロウはやれやれと肩をすくめる。
「ま、確かにな。良い物が欲しければ闘技場で相手を殺して奪うか、控え室の中にある武器防具屋で買うんだな」
へ? 買えるのかよ。でもお金は? 俺、お金ごと没収されたんですけど。……そんなことならお金を隠し持っておくべきだったか?
「戦いに勝てば魔石と、その戦いに応じた報酬が支払われる。まぁ、魔石はゴミみたいなレベルの物だがな」
なるほど。この闘技場でどうやってスキルを憶えるのか、と不思議だったのだが、その魔石を砕いてMSPを得てスキルを得るって感じなのか。更に手に入れた報酬で装備を強化したり、自分を買い戻す為の貯金をしたりすると。ふむふむ。
さて、控え室か。どんなのが居ることやら。