3-4 二足竜
―1―
村の外れへ。
村の外れには二本足の竜が繋がれた小さな小屋があった。小屋の中ではシロネさんが二本足の竜の持ち主と交渉をしている。
村を回り話を聞いてみたところ、今の時期に竜馬車を入手するのは難しいと言うことだった。せめて二本足の竜だけでも手に入れようと飼い主の所へ。俺やミカンさんは足に自信があるけれど、シロネさんはキツそうだからなぁ。
しかし、この二本足の竜ってどういう扱いになるんだろうな。一応、魔獣だよな? ではテイムした魔獣扱いなのかっていうと微妙に違うみたいだし……。この世界って統一感が無いというかちぐはぐなところが結構あるよなぁ。
交渉を終えたのかシロネさんがとぼとぼと歩いてくる。
「むふー。交渉に失敗しました……」
あちゃー、失敗したか。まぁ、馬車状態で無くとも二本足の竜を農作業で使っているぽいからなぁ。そう簡単には売れないよなぁ。これは仕方ないね。にしても、どうしよう。
「前回の時は、すんなりと手に入れていたように見えたんですけどねー」
まぁ、仕方ないって。
『では、帝都まで歩くか。シロネ殿は大丈夫か?』
シロネさんが頷く。
「ま、まぁ、ここからは整備された道もあるのでー、ね?」
ふむ。ここからが大陸の本番ってことか。まぁ、道があるのならば、徒歩でもそこまで苦労することはないか。
村にて少量の食料を購入し準備を整える――シロネさんが購入するのを見ていたが、ナハン大森林と同じ硬貨を使い購入できるようだった。国が違っても硬貨は同じと……いやまぁ、国って概念もあるのかどうか分かりにくい世界なんだけどな。
『では、出発するか』
シロネさんとミカンさんが頷く。帝都はここから東へ四日ほどの距離だとか。途中にある峠さえ越えてしまえば、後はゆったりとした道らしい。峠、峠ねぇ。
峠ってさ、凄いフラグの匂いがするよね。高貴な人の馬車が山賊に襲われていたりとか、俺たちが山崩れに巻き込まれたりとか、そういうあるあるが起こる場所だよな。
「むふー。帝都までは道もそれなりに整備されてますねー。帝都の近くに山賊でも出ようものなら帝都の兵が動いてサクサクと片しちゃいますねー」
あ、そうなんですか。いきなりフラグが折れたな。でもさ、それならだけど、半島の魔人族を放置しているとか謎軍隊だよな?
―2―
道を歩いていると稀に竜馬車に乗った人とすれ違うことがあった。竜馬車というと非常に豪華なイメージを持っていたのだが、穀物などを乗せた簡単な荷車を二本足の竜がのんびりと引っ張っている姿は牛車を想像させた。竜って名前から、もっとスカッと進む乗り物かと思っていたんだが、力強さを利用した運搬や農作業用って感じなんだなぁ。
今、歩いているような整備された道を進むのなら歩きで充分な気がする。シロネさんも最初の村に着くまでの状態が嘘のように普通に歩いているし、これなら高い金を出して買わなくて良かったな。……まぁ、高いって、どれくらい高いか知らないけどさ。
ある程度整備された道の脇で野宿し、また歩き始める。この道自体に不思議な効果でもあるのか、道の近くに居れば魔獣に襲われることも無かった。
やがて峠道が見えてくる。木々が少なく、緩やかな丘を登っているような感じだ。ああ、確かにこれなら危険は無いな。
ある程度、峠道を上っていると橋の架かっている崖に行き着いた。
橋も石などの鉱物で作られた頑丈な橋で崩れ落ちることは無さそうだ。うーん、てっきり吊り橋でもあるのかと思ったが……。まぁ、村人が収穫した農作物を帝都まで運ぶのに毎度の往復が吊り橋では不便だもんな。ことごとくフラグを外すなぁ。まぁ、嫌な予感なんてものは当たらない方が良いし、これでいいのか。
―3―
橋を渡ってしばらく歩いていると前方からドドドという何かが響く音が聞こえてきた。うん?
音はどんどん大きくなってくる。沢山の何かが走っているような……って、まさか。
目の前に走ってくるのは数え切れないほどの二本足の竜だった。は? なんだコレ。
後ろは崖。橋まで逃げ切れば大丈夫か? 俺の走る速度ならなんとかなるか? いやでもシロネさんが……。さすがにシロネさんを抱えて逃げ切るのは無理だ。どうする、どうする?
「む。ラン殿、橋まで!」
ミカンさんとシロネさんが駆け出す。シロネさんの走る速度は明らかに遅い。あのままではすぐに追いつかれるだろう。シロネさんを見捨てる? 運が良ければ助かるかも? そんな訳にいくかよッ!
俺が逡巡している間にも無数の竜がこちらへと走ってくる。何かに追い立てられているかのような竜達。あんなものに巻き込まれたらひとたまりも無い。よしッ!
『すまない、転移を使う』
転移で逃げよう。また大陸に渡る前からやり直しになってしまうが仕方ない。こんな所で終わるよりはマシだ、全然マシだ。シロネさんを見捨てるなんてあり得ないし、こんな所で終わるのもあり得ない。急ぐ旅じゃ無いんだ、もう一度歩き直したっていいんだ。次は道が分かっているから、もっと楽に進めるだろうしね。
――《転移》――
しかし、転移は発動しなかった。
【転移は不思議な力によってかき消されました】
表示されるシステムメッセージ。まてまてまて。なんで、こんな時にッ!
迫る無数の竜。
やばい、やばい。このままだと俺も逃げ切れない。
「大地が崩壊する音を聞け、カタストロフィー」
それは俺だから見えた言葉。声は聞こえない――聞こえないほどの距離だが俺だから字幕という文字として見えた言葉だった。
その言葉と共に地面が引き裂かれていく、無数の亀裂に飲み込まれていく竜達。俺の足下へも亀裂は伸び、その亀裂に俺も飲まれ落ちていく。回避する暇も無かった。
くそ、何だよ、コレ。こんなフラグ回収有りかよ。ああ、シロネさんは逃げ切れたのだろうか。ミカンさんは行動が早かった分、大丈夫だろう。
俺の体が落ちていく。
頭の上に乗っているちっこい羽猫が俺を持ち上げようと小っちゃな羽を一生懸命に動かしている。無理だろ。
ま、まぁ、俺は浮遊が使えるから、途中で適当に浮遊を使うか。
俺は浮遊を使おうと考えたそのまま気を失っていた。




