3-3 中華風
―1―
目の前に黄色の作物が植えられた畑と丸や三角の瓦屋根の建物が見えてくる。……む、村か? 結局、最初の村に着くまで、3日も夜通し歩き続けることになるとは……。疲れた。
『大丈夫か?』
俺は二人に声をかける。
「にゃあ」
最初に答えたのは俺の頭の上に乗っているエミリオだった。いや、お前、俺の上に乗って楽していたじゃないか、なんでへばっているんだよ。
「む。私は大丈夫だ」
ミカンさんは、まだ余裕がありそうだな。
「もうだめー」
シロネさんはダウンと。まずは宿探しだな。その後、竜馬車を手に入れるんだったかな。……よし、村に入ろう。
にしてもシロネさん、大丈夫か? 大陸に渡ったことがあるってことは前回も同じような道を通ったんだよな? その時もこんな感じだったんだろうか。疲労困憊で倒れそうな感じだけど……うーん。
畑の横にある道を歩いて行く。時々、農作業を行っている途中であろう村人とすれ違う。うーん、普人族ばかりだな。それとなく作物も見てみる。葉っぱに包まれた黄色い作物……なんだかトウモロコシみたいだな。にしても柵もないとは……。こんな状態で農作物を育てていても大丈夫なのか? 魔獣の襲撃とかを受けないんだろうか。
トウモロコシ風の作物の畑を抜け、建物の並ぶ所へ。何だろう、和風なような中華風なような謎な建物群だな。大陸って言うくらいだからてっきり洋風な建物ばかりだと勝手に想像していたんだが、まさかの中華風か。まぁ、あくまで中華風という、俺の知っている世界に似せているって感じで何だかとても歪だ。
まずは宿、宿と。俺は歩き疲れ果てているシロネさんに肩? 肩ぽい部分を貸し歩く。
『すまない、宿を探しているのだが?』
俺は歩いていた村人Aに話しかける。
「うお。頭に声が……びっくりした。って、ああ、うん? や、宿かい? や、宿ならこの道をまっすぐ行った先に看板が出ているよ」
村人Aは念話にびっくりしながらも宿の場所を教えてくれる。うむ、有り難いな。如何にも田舎って村だけど宿があって良かった、良かった。
「にしてもあんた不思議な力を使うな。そうしないと駄目なほど――魔獣に寄りかかって喋れないほど疲れ果てているのかい?」
いや、あの、その、念話を使ったのはシロネさんじゃなくて俺なんですが……。まぁいい、進むか。
通りを進むと宿屋の看板が見えてくる。俺が歩いていると他の村人からじろじろ見られるんですけど、そんなに芋虫が珍しいのかねー。
―2―
中華風な建物の宿の中へ。
「あら、いらっしゃい」
奥から帯のあるゆったりとした着物を着た女性が歩いてくる。
「て、あなたたち、申し訳ないけれど魔獣は上げないで欲しいわね」
いや、もうね、また、このパターンかよ。
『すまない。自分は星獣のランという。魔獣ではない』
宿の女将? は腕を組み考える。
「で? 星獣様だろうと魔獣は魔獣でしょ? 休むなら魔獣小屋へどうぞ」
俺の言葉を無視して女将? がそう答える。ちょ、何ソレ。腹が立つ言い方をしますねー。
「ランちゃんさん、嫌なら他に行こう」
シロネさんの言葉。いや、シロネさんよ、あんた疲れ果ててフラフラじゃん。ここは俺が我慢すればいいだけだし、オッケー、オッケー、分かったよ。
『俺は構わない。二人は宿でゆっくり休むといい』
はー、仕方ないわー。カッコイイ俺は辛いわー。二人に格好いいとこ見せちゃったわー。
二人の顔はこちらが逆に申し訳なくなるくらいだった。そんな二人を残して俺は宿の女将に言われた、魔獣小屋とやらへ。
ああ、これ馬小屋だねー。わらっぽいモノが沢山敷き詰められ騎獣を結ぶ為と思われる杭もあった。俺の他には――二本足の角の生えた爬虫類が一匹。これが噂の竜馬車用の竜かなー。先輩、今日一日よろしくなー。
俺はわらっぽいモノをサイドアーム・ナラカを使いかき集め、寝床を作る。うむ、我ながら良い出来だ。
あー、お腹空いたなぁ。って、食料は全部シロネさんの魔法の袋の中じゃん。しまったなぁ。俺用の食事なんて出ないだろうし、出ても騎獣用の食事だったら……ちょっと要らないかなー。あッ! 以前、ミカンさんに渡そうと思ってやっぱり止めた時の世界樹の葉の欠片があった。これでも食べて空腹を紛らわせよう。もしゃもしゃ。
はぁ……。にしても背中に盾を背負って、クロークを着込み、武装した状態でも魔獣扱いされるとか、ホント、意味が分からないです。この世界の魔獣で武装しているのなんてゴブリンくらいしか見たことがないんですけどー。芋虫型が二本足で起き上がっていて、更に武装している時点でアレ? とか思うのが普通じゃないか。これって、おかしくない? 俺の考え方の方が間違っているのか? うーん。
一発で魔獣って言ってきたこともおかしいよね。魔獣かそうじゃないかってすぐにわかるもんなの? 俺は線が見えるから分かるけどさ。他の人たちもそうだって訳じゃないでしょ? うーん。
そんなことを考えているといつの間にか眠ってしまっていたようだ。
ゆっくりとした深い深いまどろみの世界の中、俺の前に誰かが。
ぷにぷに。誰かが俺のほっぺを、ほっぺぽい部分をつついてくる。
ぷにぷに。起きてますよー。起きましたよー。
ぷにぷに。
『誰だッ!』
俺のほっぺぽい所をぷにぷにしていたのはシロネさんだった。
「ランちゃんさん、ごめんねー」
シロネさんか。シロネさんで良かったと言うべきか。これで知らない人が目の前に居て『ひゃっはー魔獣は消毒だー』的な展開だったらどうしようかと思ったぜ。
『うむ。よく寝られたか?』
「ランちゃんさんは、ぐっすりだったみたいだねー。もう朝だよー」
ああ、わらもどきはふかふかで久しぶりにぐっすりと眠れたな。
「じゃ、出発しようかな?」
うむ。まずはこの村で竜馬車を手に入れないとな。シロネさんだけでも乗り物に乗せないと体力的にやばそうだしなぁ。
『宿のお金は?』
「ランちゃんさんはいいよー」
む。まぁ、ここはお言葉に甘えておくか。相手を立てるのも必要だもんね。
「ミカンちゃんも準備は終わってるから、もう行く?」
うむ。って、あッ!
『その前に何か食べ物を頼む』
空腹なんですよ、腹ぺこなんですよ。晩ご飯が葉っぱ1枚とか無いよねー。
「あ、ごめんねー。すぐに取り出すね」
シロネさんが魔法の袋から俺の食事を出してくれる。俺は、その場でもしゃもしゃと簡単な食事を済ませ、宿を後にする。
しかしまぁ、最初の村でコレとは……。先が思いやられるな。